第36話 欠点

「イル・バシオ・デル・ヴェント」


 するとリッツォーネは走ることもせず、正面から攻撃を受けた。


 数々の武器が迫りくる中、リッツォーネは腕を上げて対応した。


 傍から見れば、丸腰の人間が凶器を持った敵に袋叩きにあっているように見えるだろう。


 もちろん俺もそう見える。


 だがステータスウィンドウのHPはほとんど減っていない。


 つまりほとんどの攻撃を受け流し、彼のスキルでダメージを与えていると言う事だ。


 しばらくすると、明らかにテロリストたちのHPが減っていた。


 もうどちらが優勢なのかは一目で分かる。


 リッツォーネは風を纏い、腕を敵に向けて振り回しているだけだが、武器を持っているテロリストよりも強い。


「……弱いな。所詮は烏合の衆か。邪魔だから消えてくれ」


 リッツォーネは流ちょうな動きで、流れるようにテロリストたちのHPを奪いつくした。


 気づけばテロリストたちで立っている者はいなかった。


「リッツォーネさん、めちゃくちゃ強いですね」


 リッツォーネは肩を回した。


「まあな、完璧すぎて逆に心配になるこの頃だ。だが欠点が一つだけある」


 欠点? いったい何だろうか。


 先ほどの戦いを見ている限り、何か致命的な部分があったようには見えない。MPもまだ余裕はあるはずだ。


「戦闘がクソほど面白くない。このクソゲーで許される娯楽は、戦闘と趣味の二つだ。僕は料理ができればそれでいいが、戦闘がつまらないのは致命的だ。ゲームとして終わってる」


 やれやれと彼は肩をすくめる。


「なんだ、そんな事ですか」


 俺は戦闘に関して、あの日以来楽しいと思ったことは無い。


 始めたての時は、あんなに魅力的だったスキルやモンスターも、今ではこの世界を形作る要素の一つでしかない。


 生き残るための要素を一つずつ拾い集める毎日だ。


「そろそろ僕も故郷の匂いが恋しくなってきたころだ。このゲームも雰囲気づくりの点では素晴らしいが、やっぱり本物には適わない」


「俺もそう思います」


ーーー


 アジト入り口正面。


 そこには数多くのテロリストたちが集まっていた。


 それもそのはず。はるかに人数が少ない謎の二人組のプレイヤーに、メンバー数を続々と減らされているからである。


 決してテロリストたちは彼らを侮っていたわけでは無い。


 本拠地であるこの場所に、たった二人で乗り込んできて戦闘を繰り広げているのだ。ただものでは無い。


 とはいえたった二人だ。一人一人のレベル差で負けていたとしても、テロリスト側には数の力がある。


 数人の犠牲は出るだろうが、逆に言えばそれで抑え込めるだろうと考えていた。


 だが甘かった。


 意気揚々と突撃していった団員たちは、ことごとくあしらわれてしまった。


「ありえない! レベル制のゲームで、ここまでの実力差があるなんて!」


 確かにレベル差の問題もあるだろう。だが本質は別の部分にある。


 それは、


「ハッ! 雑魚がイキがってんじゃねえよ。そもそもの格が違えんだよ!」


 青い目の男がそう言い放つ。

 そう、そもそもの素質。


 確かにレベルによるステータスは、強さを決める大きな数字だ。だがそれ以上に、彼ら二人には圧倒的素質があった。


 レベル1でHPが1でも、ダメージを受けずに攻撃を続ければ、どんな敵でもいつかは勝てる。


 それと同じで、ただレベルを上げているだけのプレイヤーとは、そもそもの動きが違うのだ。


「んじゃあ、残りも蹴散らしてやるよ」


 薄く青い双眼の男は、凶暴な表情をにっと笑って歪ませた。


 その男はなにせ強かった。


 防具自体はお粗末なものだ。丈夫そうな黒い服を着ているだけで、動きやすさ重視なのだろう。


 両手にカギ爪を装着し、近距離での戦いを得意としている。ように見える。


 だが実際は、男のスキルによって思っているほど射程が短くないのだ。


 男は青い稲妻を操るスキルを持っており、それに触れるとダメージを受けるだけでなく、一瞬動けなくなってしまうのだ。


 さらに言えば感電もするため、大人数でかかればかかるほど大ダメージを引き出せるという代物だ。


 遠いところにいれば稲妻が、近距離では稲妻を纏ったカギ爪で攻撃するといった、万能な戦い方をする。


 加えて異常なほどの反応スピード。生半可な攻撃は当たらないだろう。


「あの男、むちゃくちゃに強いな……。だが、俺はあの隣にいる白い男の方が不気味だ」


 白い男と言うのは、稲妻の男の隣にいる男のことだ。


 黒い癖毛の髪に、気の抜けた笑顔を崩さない不思議な奴だ。


 白いコートを羽織っている為、テロリストたちは白い男と呼んでいる。


 この男はほとんど戦ってる姿を見せなかった。


 青目の男が戦っているのを隣で笑顔で見続け、自分に来たテロリストを、ナイフで瞬時に始末する。といった戦い方をしていた。


 どう考えても普通のプレイヤーではない。かといって、攻略ギルドっぽくも無い。


「攻略ギルドでもなさそうだ。お前らは一体何者なんだ!?」


 テロリストの内、誰かが叫んだ。


 その声にこたえるように、青目の男は稲妻を光らせた。


「攻略ギルドだよ、裏のなあ。向こうがボス専ならこっちはヒト専ってわけだ」


 青目の男、イヴァンは閃光の如くフィールドを駆けていった。

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キラー・ナイフ ~ゲーマーの敵はチーターとテロリスト~ 響キョー @hibikikyo

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