第3話 噂とレイド
ゲームリリースから1か月たった。
その間、俺を含む最前線のトッププレイヤー組は、第四の町までたどり着いた。一週間ちょっとで一つの町、ダンジョン、ボスを攻略するというハイペースだ。まあ、初めの方のボスはチュートリアル的側面が、強いからだとは思うが。
ボスの数は、公式の発表では六十らしい。最後のボスに向けてさくさく進んでいたが、今回からはそうもいかなくなってしまった。
「プレイヤーキル?」
俺は顔なじみの、トッププレイヤー組のうちの一人の男から噂を聞いた。
プレイヤーキルとは、プレイヤーがプレイヤーを倒すというものだ。プレイヤーキル自体、このゲームでは禁止されている、というより不可能だ。
ちなみにPVPなどの、お互いが了承して戦闘することはあるが、プレイヤーキルはそれとは別だ。
このゲームではPVP以外で、プレイヤー同士でダメージを与えることはできないように設定されている。そうでなければ、アイテム目当てでお互いを倒し合い、全く進まないゲームとなってしまうからだ。特にライトユーザーはカモにされ、ゲーム人口が減ってしまうだろう。
だからこのゲームでプレイヤーキルという単語を聞くとは思わなかった。まあシステム的に不可能なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
「まさか。噂だよ、噂。このゲームでプレイヤーキルなんてできない、それはあんたも知ってるだろ?」
俺はその話題をうわさに過ぎないと一蹴する。だが目の前の男は、心配そうに眉を落とした。
「でもな、噂が妙にリアルなんだよ。聞いた話によると、町中で突然プレイヤーが苦しみだしたんだ。その次の瞬間、そいつが炎に包まれて……!」
「止めとけって。そもそもVRMMOという新しいジャンルのゲームはいえ、苦痛を感じるなんてことはないんだよ。モンスターに攻撃されても、傷口が痛むなんてことは無いだろ?」
攻撃されて痛覚を感じるのなら、そんなものは娯楽じゃない。ただのデスゲームだ。そんなものを世間一般に受け入れられるはずは無いし、公的に売られるなんてことは無い。プレイヤーキルと苦痛の合わせ技など、普通あり得るはずがない。そう普通は。
「普通じゃないなら、そいつは……」
チーター。不正なシステムで、ゲームを荒らす人種。俺たちゲーマーの本当の敵。
いや、もうこのことを考えるのはよそう。俺がこの世で一番嫌いなそのことについて、考えるだけ時間の無駄だ。もっと時間は有意義に使うべきだ。
そう、今は第四のボスダンジョンの入り口前にいる。
今は先発のトッププレイヤーたちがダンジョンに潜っている所だ。先発の人たちがダンジョンを軽く調べて調査する。
勝てそうならクリア、無理そうなら一旦引き戻って俺たちと合流。そして攻略。それでも無理そうなら、町に戻って、更にプレイヤーを集めて攻略する。
ボスダンジョンはクリアするためにかなり時間がかかる。一つのボスダンジョンを攻略するためには、トッププレイヤーたちが集まっても、最低二日はかかる。
特に今回からは大幅に難易度が上がり、一度先発隊が全滅している。
今日は二度目の先発隊が潜って行った。
俺もそろそろボスと戦いたいが、先発隊のおかげでいろいろなアイテムや武器を温存できている。みんなで揃って全滅したら、使いきれなかった使いかけのアイテムなども、全部なくなってしまう。
俺は先発隊が戻ってきて、「みんなで突撃だ!」という掛け声を待っていた。だが、今日もいよいよその機会は訪れなかった。
ウィンドウのメール部分に、「すまない、今日も失敗して全滅してしまった。今回のボスはかなり強い。俺たち以外にも、もっとメンバーを集めよう」というメッセージが入っていた。
先発隊が全滅することは、今回のダンジョン以外でも一度あった。
第二のボスダンジョンの時だ。だがその時は、先発隊の情報を元にアイテムや武器を整え、トッププレイヤーだけで攻略することができた。だが今回は、どうやらそれが不可能なほどの強敵らしい。
俺は活躍の機会がお預けになったナイフをしまい、町へと戻って行った。
ーーー
次の日は休日だった。俺は朝起きて、すぐに朝食を詰め込んだ。パンの味もあまり覚えていないぐらいには、とにかく詰め込んだ。俺の頭の中は、「オンライン・ファンタジア」で一杯だった。
おっと、パンを詰め込み過ぎたせいで、口が閉じなくなってしまった。
「むひょぬひょふぇいほふぇんふぁ (いよいよレイド戦だ)」
今日はボス戦。それも今までとは違い、大人数でボスと戦うレイド戦だ。トッププレイヤーだけでは勝てないと判断した先発隊が、他のプレイヤーを広く募った。
ライトプレイヤーはもちろん、武器やアイテムを集めるのが趣味のコレクターや、PVPを主流に楽しむプレイヤーなど。
俺はもちろんトッププレイヤーだけで、ガチで攻略していくゲームは好きだ。だが、それと同じくらい大勢で協力して戦うのも好きだ。きれいに連携が取れて、強敵を倒した時の快感は言葉では表せない快感がある。
俺は複数のチーム戦となると苦手なところがある。チームメンバーとの関係が鍵となり、なかなかに難しいからだ。だがレイド戦規模の人数まで増えると、さすがに楽しみになってくる。
皿を台所まで運び、適当に水で流してから自分の部屋へと急いだ。ドアを適当に開閉させ、もうおなじみになったヘッドギアを手に取る。
ベッドに飛び乗ってヘッドギアを被り、いつもの起動音、意識が転送させられていく感覚を味わう。次に目を開けたときは異世界だ。
ゲーム世界に立ち、約束の場所へと向かう。そこは町の集会広場のような場所で、よく情報交換がなされている場所だ。
意外にも、このゲームの情報はあまりネットには載っていない。どうやら、このゲームのアイテムなどは一度入手すると、同じ方法では入手できないようになっているらしい。だからネットに情報を書いても、あまり意味は無いのだ。
だが現地で、他のプレイヤーからの話を聞くのは別だ。インターネットに情報を書きこむガチ勢は、全体の5パーセントにも満たないだろう。
だが現地で情報を持っている人はたくさんいる。特に、いろいろなダンジョンを潜っているプレイヤーの話などは参考になる。
こんな場所には罠があるから危ないとか、こんな場所にはお宝があるから取っておけ、など。俺もついこの間、そんな話を聞いてダンジョンに潜った時、目に見えないトラップを回避することができた。
落とし穴と言う原始的な罠だが、底が見えないほどの深さだ。落ちれば、ひもなしバンジーが強制的に始まる。
「おっ、もう結構集まってるな」
広場はいつも人で一杯だが、今日は特に人が多い。ボスを倒したときの戦利品は山分けになっているので、ライトユーザーもそれ目当てで集まってきているのだ。
戦利品は、コンピューターが自動で振り分ける。正確に山分けされるが、レアな武器やアイテムがドロップした時は、活躍度合いの高かった人に付与される。
俺はもちろんレアアイテム狙いなので、大活躍を期待している。最近は強敵と、満足な戦闘ができていなかったので楽しみだ。
俺が近くのベンチに腰掛けようと思った時、ささっと先に誰かが座った。
「ごめんネ、先に座っちゃった」
「え、ああ、どうぞ」
二人掛け用の椅子なので、特に問題なくその人の隣に座る。
するとその人は、タイミングを見計らったように俺に話しかけてきた。妙に上機嫌だ。
「君、トッププレイヤーでしょ。武器とか、装備品、アイテムとか良いもの持ってるもんねえ」
「……!?」
俺はその人の方を向く。その人は小柄な体に、大きなフードを深く被っていて、顔は見えない。女性かなとも思ったが、口調と声から判断しているだけだ。実際に顔を見たわけでは無い。
それより、このフードの人はどうして俺の装備やアイテムが分かったんだ? 装備なら見ただけでも分かるかもしれない。だがアイテムは取り出さなければ相手からは見えないはずだ。
レベルが上がれば、相手のステータスウィンドウで見ることができる情報が増える。最初は名前とレベルとHPだけ。その後から特殊状態などの情報が増えてくる。
だが、相手のアイテムが分かるようになるなんて聞いたことが無い。フードの人のステータスウィンドウを見ても、特別レベルが高い訳ではない。俺より少し下くらい。
加えて、その認識阻害効果のあるフードがレアなアイテムなのか、この人の名前すらわからない。俺の安物の認識阻害装備は、ちょっとだけ敵に見つかりにくくなるだけのものなので格が違う。
「君は一体?」
「ま、すぐにまた会うよ。今日のボス戦参加するからね。コレクターだからレアアイテム大好きでさ、こんな機会を逃すわけないじゃん。ま、レアアイテムはみんな好きか。……それより行かなくてもいいの? 呼ばれてるけど」
気づけば俺はトッププレイヤー組の男たちに呼ばれていた。考え事をしていたので、全く耳に入ってきていなかったらしい。
この人のことが気になるが、ずっとここで話している訳にもいかない。「またすぐに会う」という彼女の言葉を信じて、俺は席を立った。
「次に会ったら、聞きたいことがある」
するとフードの人は、小さく手を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます