第34話 自分
現在隠しフィールドの端、木々が生えている場所を歩いている。ちゃんとした、隠しフィールドだ。
アジト、とは言っても、ひとえにステレオタイプの建物は無い。
俺が調べてきたものだと、地中に作られたものや、水で隠された建物、洞窟の中に作られたものなどがあった。
そのどれもが、巧妙に隠されていて、長い時間をかけて張り込みなどをしなければ、見つけることができなかっただろう。
しかし今回のアジトは、そのどれもとは一線を画している。
なぜなら、その建物は大きな滝の中にあるくぼみに作られていたからだ。
くぼみと言っても、普通にダンジョンくらいの大きさがある場所である。
外側から滝の中を見ることはできないが、建物の存在感は十分に分かる。
つまり、隠そうとしていないのだ。
もし自分が拠点を作るとするならば、どのようなデザインにするだろうか。
まず地形とマッチさせるだろう。洞窟があるなら、目立たないように暗い色で奥の方に作る。
砂漠なら、見つかりにくいよう砂で覆われた場所に作る。
このように見つかりにくいように作るのがセオリーだ。だがこのアジトはそうではない。
つまりそれだけの自信があり、それが力を集約させた本部であるという証拠にもなる。
気合を入れよう。もう何が起こっても不思議ではない。
次の瞬間死んでいても、だ。
「おいおいおい、待てよ。言っておくが僕の料理の腕はイタリアでトップクラスだぞ。肉も野菜も魚介も、完璧に調理できる自信がある。イタリアは世界で一番料理のウマい国だ。つまり僕は世界でトップなんだよ。分かったなら僕に謝れ」
「い~や、それはできないね。確かにアタシの国の料理は、アンタの国ほど繊細じゃないかもしれない。でも腹いっぱいで、それに長い時間活動できるものが一杯ある。肉料理やポテトは欠かせない。だからサッカーとかスポーツが強いんだ。料理と言うのは、人をどれだけうごかせることができるか、だろ?」
「違う! 料理で僕に意見するな。いいか? 世界には料理がウマい国とそうでない国がある。その違いは明らかだ。料理で人を幸せにできるかそうでないかだ! ウマい国は、食べ物で人の心を満たしてきた。お前はどうだ? 肉も適当に焼いて調味料振っただけだろう? ポテトなんて揚げただけ。そんなもので僕と張り合えると思わないでいただきたい」
「繊細さが大事だと思っているのね。ふっ、だから軟弱なんじゃないの?」
「なんだとこのデカ女!」
「この枝男!」
……緊張感がないなあ。
二人は仲がいいのかとも思っていたのだが、そうでもないのかもしれない。
アジトへ向かう道中で喧嘩を始めてしまった。
どうやって喧嘩が始まって行ったのかもよく覚えていない。
ただリッツォーネは料理に関しては譲る気が無く、ペドロも自分を曲げることはしない。
その結果、お互い自分のぶつかり合いとなり、意地でも負けられない口論になる。
……口論で済ませておいて欲しい。
おっとついに立ち止まってしまったぞ。さすがにこのままでは良くない。
仲介するべきだろう。先にリュウやイヴァンがおとりを引き受けてくれているはずだ。
「あのー、そろそろそのくらいで。アジトも近いと思いますし」
「キラ、そんなことはどうでもいい」
「え」
「今の僕は、どうやってこいつの頭を下げさせるかということしか興味が無い」
「そうね、そっくりそのまま返すわ。それで? キラはどっちの味方をするのかしら」
「え」
「もちろん僕だよな。この前僕の作った飯を食っただろ。もうそれが答えだ」
「いいえ、私ね。こんな繊細な……いえ、無神経な奴のどこが良いの? アタシと行きましょ」
どうすればいい?
このまま別行動なんてことになったら、確実にどこかで作戦にガタが来る。
リュウやイヴァンは、戦闘に秀でているから正面から突っ込んでいった。多くの目を集めて、よそ見をさせないためだ。
リッツォーネも強いのは分かっているが、あまり大多数を相手取るのは不利な気がする。
ペドロは……良く分からないが、あの岩を砕きながら敵をぶっ飛ばしていたのだ。弱いわけが無い。むしろこの中では、一番戦闘能力だけでいえば高いのではないだろうか。
「ペドロさんは、どんなスキルが使えるんですか?」
「アタシのジョブは狂戦士。HPを減らして、ステータスを大幅に増強できるのよ」
「ふんっ。分かるだろ、こいつ頭も空なんだ。ジョブはそんなに簡単に明かすものじゃない」
他人のステータスウィンドウを見ても、その人のジョブは分からないようになっている。
一部、人の情報を見ることができる特殊なスキルはあるらしいが、それはレアなため例外とする。
なぜならジョブを知れば、その人の戦闘スタイルが大体わかるためである。
だから普段から、ジョブはあまり人に教えないようになった。本来ゲームとしてなら、公開し合った方が都合がいいのだろうが。
だから他に俺のジョブを知っているのは、「攻略ギルドのリーダー」ランドルフと、「裏ギルドのリーダー」リュウしかいない。
スミにはそれっぽいことを言っていたかもしれないが、はっきりと言ったかどうかは思い出せない。
「馬鹿なのはアンタだよリッツォーネ。あたしのはバレても問題ないから話すのよ。弱いアンタと一緒にしないでもらえる?」
「こんのッ……僕は、真の男女平等主義だ。ムカつく奴はたとえ女だろうが殴る!」
「その枝みたいな腕で? あはっ! 笑えるわね」
やばい、本気でやる雰囲気だ。
「ちょっと待ってください! やるなら喧嘩じゃなくて、料理で勝負すればいいと思うんですよ! シェフの腕は人を傷つけるものじゃないですから」
「……チッ、正論だ」
「アタシは関係ないね。ぶん殴れば気が済む、一番手っ取り早い」
「まあまあ、今は作戦に集中しましょう。リュウさんもイヴァンさんも頑張ってると思うので!」
すると渋々二人は牽制と威嚇をするのを止めた。
俺はもう既に、一仕事を終えた気がしていた。
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