第14話 あれから
テロ勃発から一年。
数多くの人間が死んだ。
そのほとんどは、モンスターによるものだ。ゲームと思って戦うのと、命がかかった戦いをするのとでは、難易度は大きく異なる。
命の残りが目に見える分、攻撃によって減る数字が本能的に恐怖を覚える。一度恐怖に支配されてしまっては、もう二度と同じ様に戦えなくなる。足がすくみ、やがて自分よりもレベルの低いモンスターに殺されてしまう。
他の死因は、自死と悪質なプレイヤーキルによるもの。割合的には、自死の方が大きい。
生きる希望を無くし、本当に死ぬか分からない、
そして悪質なプレイヤーキル。一部のプレイヤーが、
そして最後にテロリスト。彼らの正体は<World Advance Revolution>、通称<WAR>というテロ組織だ。直訳すると、世界前進革命。略すと戦争と言う単語になるのだから皮肉だ。
奴らは今だ不明なところが多く、構成員が総勢何人かは不明。
だが、幹部は四名という情報が入った。情報の真偽は不明だが、とりあえず今のところそう記録している。
これからもっと、明らかにしていかなくてはならない。
俺は、一年間でテロリストのアジトの場所を絞った。ボスを倒すごとに、この世界は広くなっていく。なら少しでも早く見つけなければ、難易度が上がっていくのは避けられない。
同時に戦闘になっても勝てるよう、レベルやスキルの練度も上げた。
派手な技や、魔法を連発することができないジョブではあるが、
それと並行して、テロリストの情報も集めている。こちらの成果はあまり芳しくないが、しないよりはマシなはずだ。
ーーー
「ありがとうございました」
俺は、話を聞いた相手にお礼を言う。
はあ、最近は情報が集まりにくくなってきたな。
最初期のゴタゴタ感が無くなってきたという感じだ。
最先端でボスを攻略し、新しい町とフィールドを開放する人たち。最先端とはいかなくとも、モンスターを倒しレベルを上げ、イベントをクリアする人。絶望し、何をするでもなく、死ぬのも怖く、ずっと宿に引きこもる者。
少しづつこういった基盤が、出来上がってきているように感じる。
あたりを見渡すと、神秘的なレンガ造りの町が広がっている。
ここは第二十六の町。つまり、今攻略途中のボスは第二十六のボスと言う事だ。
ボスを倒すと、新しい町とフィールドが広がっていく。その分人々の生活圏は広がっていくわけだ。
今は順調にボスの攻略が進んでいる最中だ。新生トッププレイヤー集団による影響が大きい。
彼らは<攻略ギルド>なる物を立ち上げて、効率的にダンジョンを踏破していっている。ちなみにギルドとは、チームのようなものだと思っていただければいいだろう。
他にも、商人ギルドや鍛冶ギルド、料理人ギルドに情報屋ギルドなんかもある。それらには同じ志を持つものが入るため、切磋琢磨しながら協力し、大きな力となっている。
たくさんのギルドが立ち上がり、その評判はいい。
値段はピンキリだが、腕利きのギルドには数多くの依頼が集まる。
これだけ聞けば、いいことだらけに思える。ただし、攻略ギルドには不満も多く寄せられている。レアなアイテムや装備などを、彼らが独占してしまうからだ。
彼らが通った後には何も残らないと、揶揄されるくらいだ。
ちなみに今の俺は独占される側だ。そう、俺は攻略ギルドに入っていない。フリーの一匹狼でやらしてもらっている。聞こえはいいが、悪く言えばボッチだ。だが、俺の今の仕事を考えればボッチがやりやすい。
チームで足並みをそろえるというのは、探索するのには少々やりにくいからな。
今は、いろいろなプレイヤーに、WARの情報について聞き回っているところだ。奴らは絶対にこの世界のどこかにいるのだ。
一般のプレイヤーに成りすまして、どこかにいる。一刻も早く見つけ出し対処していかなければ、時間が経てば経つほど、こちら側が不利になって良く。
現実世界の俺たちはどうなっているのか分からない。病院にいるのか、それとも家なのか。そもそもテロリストたちが暴れている中で、まともに行政や町の機関が動いているかどうかも分からない。
それも世界中がそうなっているだろう。日本だけじゃない。だとすれば世界規模のテロと言う事になる。
そんな危機的状況だというのに、中々に情報集めに苦労している。
今日も、めぼしい情報を集めることはできなかった。本当にこんなでやって行けるのだろうか。
攻略ギルドは印象の悪いこともたくさんあるが、それでもこのゲーム世界の解放のために頑張ってくれている。
ならばモンスター以外の不安要素は、極力排除しておきたい。俺たちを殺すことができるのは、モンスターだけではないのだ。
テロリスト連中は、まともな町に住んでいるとは思えない。奴らのことは、この世界にいる人間の誰もが知っている。
俺たちと洞窟で戦ったやつら以外にも、他のダンジョンやフィールドにもいたらしい。それだけ聞けば、中々な数が良そうだ。
にもかかわらず、今のところ奴らに関する情報は少ない。
息をひそめているのだろう。今順調に進んでいるので、余計に不安になる。
プレイヤーキルをしたプレイヤーのステータスウィンドウには、注意マークが記される。本来不可能なことをしているのだ、システム側がチーターを疑って当然だ。
ただし、アカウントを停止に追い込む運営が、今は機能していない。
あくまで表記だけだが、一目見てわかるその表記はありがたい。
さて、情報集めも失敗に終わった。
ならば町の外に出て、奴らのアジトを探ろう。
町の外は、正規のゲームに比べて飛躍的に危険な場所になった。
いつ、だれが、どんな奴が牙をむいてくるか分からない。始まりの町の外でさえも、強いモンスターはいないが危険が無いとは言い切れない。
俺は町の中心にある、スポーン地点まで歩く。
各町には一つずつスポーン地点があって、他の町まで瞬間的に移動することができるようになっている。非常に便利なので、多くの人が利用している。
町によって、特産品もできることも異なっている。テロリスト連中が頻繁に町中をうろつく可能性は低いが、都合のいい店に目を付けているかもしれない。
という訳で、今日は第二十の町に行こう。二十一までは昨日までで探索済みだ。
WARの連中がアジトを変えないとも言い切れないので、何度も繰り返し探索している。新しい町の順から見ていき、始まりの町を見終えたら再び一番新しい町へ戻る。
スポーン地点に立ち、目の前に現れたウィンドウに数字をうつ。
すると視界がふっと変わる。一瞬の出来事に加えて謎の浮遊感もあるので、慣れるのには少し時間がかかった。
町の門に手を当て、町の外に出る。
ここからは、一切命の保証がない世界だ。
気を引き締めつつ、柔軟に動いて行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます