第32話 自信を持つだけ

「これを見てくれ。アジトのざっとした外観と内装だ。外観は大きく異ならないが、内装に関しては不明な点が多い。十分に気を付けてくれ。あとは注意すべきポイントがここで、ここで遠距離型のスキルを使われると……」


 リュウが提示したマップには、詳細なメモが記述されており、成功した時のプランや失敗した時のプランなど、事細かに書かれていた。


 そのあまりの精巧さに驚きが隠せない。


 以前、お助けギルドに制作してもらったマップもかなり精巧に作られていた。だがこれはそれをはるかに上にいっていた。


「これは、リュウさんが作ったんですか?」


「ちょっとだけ手伝った程度だよ。ほとんど別のメンバーがやってくれたんだ。マップ作りが得意な人がいるんだよ」


 他のメンバーと言う事は、ここにいる人ではないと言う事だろう。


 一見バラバラに行動しているように見える裏ギルドだが、ちゃんと目的に沿って行動していることが分かる。


 リッツォーネは微妙なところだが、全員が得意分野で行動していることがその証拠だ。


「ただこのマップは一枚しかないから、チャットで画像を送っておくよ。ああ、そうだ。キラはまだ登録していなかったね。今フレンドコードを送っておくよ」


 俺はウィンドウから二人目のフレンドコードを受け取った。


 そしてリュウから招待を受けて、裏ギルドのチームチャットに参加する。


 これでどこに居てもやり取りすることができる。


「さて、マップは各自チャットを見てくれ。作戦決行は明日、それまでに各自装備の見直しや物資の調達を徹底させておくこと。僕とイヴァンは正面からおとりを引き受ける。リッツォーネとキラは、今潜伏してる二人と合流、その後潜入。これで行こう」


 こうしてこの日は解散となった。


 とはいっても、警告マーク持ちなので町に上がる訳にはいかない。全員地下にある自分の部屋に戻った。


 俺も空いている部屋を一室もらったので、その部屋に戻った。


 だが家具などはほとんどない。


 普通のベッドが一つあるだけの、殺風景な部屋だ。


 だがあいにく置物など一つも持っていない。ミニマリストだと思われてしまいそうだな。


 装備や物資を確認する。特に消耗している物も、必要なものも無い。


 だが備えあれば憂いなしと言う言葉がある。


 余分に何かアイテムを補充しておこう。


 回復ポーションや解毒ポーション、煙幕にモンスター集めのお香。あとはシビレダケの毒や、ステータス補強ドリンクなんかもあれば便利だ。


 全部そろってはいるものの、もう少し数を増やしておこう。


 街を自由に行き来できないのは不便だが、攻略ギルドはその事情を組んで、色々な対策を打ってくれている。


 まず、裏ギルド本部の上にある攻略ギルド本部。


 そこには、モンスターを倒したリワードがかなりの数貯蓄されている。各自持ちきれないアイテムは、ここに回収されるのだ。


 基本的に一般プレイヤーは手を付けられないが、攻略ギルドと裏ギルドのメンバーは、そのリワードを購入することができる。


 いうなれば、ちょっとしたショッピングセンターのようなものだ。


 他にも、攻略ギルド本部には交換所なるものがある。何か交換したいアイテムがある人は、そこでいろいろな人と交流することができる。


 ただこれは最近始まった取り組みなので、若干不便な点が否めない。


 まず自分の欲しいものが中々見つからない事。全体チャットがテロリストの影響で廃れてしまった今、知らない人とコミュニケーションをとるのが難しい。


 などなど、課題はたくさんある。だがないよりはましだ。


 今日はリワードを購入しに行こう。何か使える物が買えると良いな。


ーーー


 作戦決行日。


 俺とリッツォーネは、先にアジトの近くで潜伏しているメンバーと合流する手筈になっている。


 アジトは第十六のフィールドの隠しエリア。


 隠しエリアと言う単語に一抹の不安がよぎる。だが今回はあの時とは違う。


 同じ目的を持つ仲間がたくさんいるし、もう情報を集めるためだけにコソコソする必要もない。


 ここからはもう、ただの殺し合いだ。良いも悪いも無い。そこにはお互いの正義があるだけなのだから。


 現在俺とリッツォーネは、第十六のフィールドにいる。


 大きな川や岩肌が露呈していて、非常に歩きづらいフィールドだ。


 モンスターも陰に潜むものが多く、非常にやりづらい場所である。俺はこのフィールドがかなり苦手だ。


「うーん。ここのモンスターは中々いいな」


 だがそれは一般的な目線で見た場合の話だ。


 リッツォーネは、先ほど倒した黒影狼シャドウウルフの肉を見て目を輝かせる。


「この肉はウマそうだ。何に使おうかなあ、ボロネーゼのひき肉にするのもいいが、ピッツァの具材に合わせるも面白そうだ。……そういえば、このデカい川で魚のモンスターも狩れたよな。山海焼きの具材はどうだ? なら調味料は……」


 このように、彼にとっては色々な食材の手に入る場所でもあるのだ。


 物は捉えようともいうが、考え方一つでプラスにもマイナスにもなる。


 できればポジティブに、前向きに考えたいものだ。


「リッツォーネさん。料理のメニューを考えるのも良いですけど、どこにテロリストが潜んでいるのか分からないので……」


「うるさい奴だな。この僕の料理には何物にも代えられない価値がある! たかがテロリストの分際で、この僕の思考を止めることは許されないッ! だから安心しろよ、邪魔する奴は秒でピザ窯の炭にしてやる」


「ああ、はい。分かりました」


 彼がどうして警告マーク持ちになったのか、何となく分かった気がする。


 彼が裏ギルドにいるのも、きっと都合がいいからと言う理由なのだろう。


 警告マークがついて、それでもなおまともに活動するには、日陰者になるしかない。


 裏ギルドは、最大勢力である攻略ギルドの反対に位置している。つまりそれなりの自由は保障されている。


 リッツォーネは自由に動きたいがため、仕方なくギルドの仕事もこなしているにすぎないのだろう。


「それにしても、どうやって隠しエリアに入るんだ? おい、何か知ってるか?」


「マップに書いてありましたよ……。川を上って行って、滝のある場所の後ろ側に隠し通路があるって。マップ見てないんですか?」


「見たぞ? 覚えていないだけだ」


 覚えてないだけって……。


 まあそれだけ自信があるってことの裏返しだ。


 彼の能力は良く分からないが、強さは保障されている。


 なら俺も、自分に自信を持つだけだ。

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