第20話 裏方
「久しぶりだな。無事そうで何よりだ」
「キラ君もね。本当に……元気そうでよかった」
俺とスミは向き合い、キラの横にテロリストの男がいた。
ここは町の近郊にある場所で、見通しが良くモンスターを見つけやすい。
久々の再会だが、その会話は楽しげなものでは無かった。
「それで、私に何をして欲しいの?」
「ああ、実はスミが所属してる攻略ギルドのことなんだ」
「興味ないって言ってなかったっけ」
「ああ、正規の方にはね。あるんだろ? 汚れ役専門の裏方が」
警告マーク持ちの奴が町に入ると、攻略ギルドの連中に始末される。いわば警察的立ち回りもしている訳だ。
だがどうやって始末しているんだ? まさか攻略ギルドのメンバーが、直接手を下している訳ではあるまい。
そんなことをしていたら、攻略ギルドの連中は警告マークまみれになってしまう。だが今のところそんな様子はない。
と言う事は、別に始末する奴らがいるはずなのだ。
目立たない日陰に、そういう人材は絶対に必要なはずだ。
「……まさかそっちに入るつもり? やめときなよ、なんだかきな臭い雰囲気あるし。それに初めっから警告マーク持ちの人なんて、絶対に入れてくれないよ」
確かにそうだ。俺だって組織の上の立場なら、警告マーク持ちの怪しい奴なんて仲間に入れない。
仕事上警告マークがつくのは仕方がないが、そうでない人間など信頼できるはずもない。
だからエサを与える。俺は取引するのだ。このテロリストの男をエサに、交渉をする。
ただ十中八九うまくはいかないだろう。
まさか俺もうまく入れるとは思っていない。
ただ、俺が少しでも動きやすいようになれればいい。
攻略ギルドの連中は、警告マーク持ちが全員テロリストの仲間だと考えている節がある。疑わしきは罰する、というやつだ。
確かに、トッププレイヤーたちはそれでいいかもしれない。そうしなければ戦いにくくなるし、何より効率が悪い。
警告マーク持ちは全員悪だと決めつけてしまえば、スムーズに物事が進む。
ただ、最大精力を持つギルドがその方針をとってしまうと、行動がしにくくなってしまうひとがいる。
例えば、俺みたいに個人の方が動きやすく、情報を集めている人だ。人同士の戦闘になったら、どうしても警告マークはつく。
だから少しだけ譲歩してくれという話だ。
もちろん堂々と町に入るつもりは無いので、むやみに混乱させたりはしない。
「お願いがあるんだ。攻略ギルドのリーダーに合わせてくれ」
するとスミは微妙な顔をした。
「……できないか?」
「んー、いや、んー。ちょっとね、さっきね、会議ほっぽかしちゃって。気まずいなあって……。いや、もちろん大丈夫だけどね! ちゃんと私からもリーダーに話すよ、あはは」
「ありがとう、助かる」
そうか、会議中だったのか。それは申し訳ないことをしたな。
「でも町に二人が入るのは厳しいよね。一人ならまだしも、二人とも警告マーク持ちだし。問答無用で捕まりそう」
「そうだな……いや、良いこと思いついた。スミのその認識疎外のフード貸してくれないか?」
「別にいいけど……。ああ、そういうこと」
俺たちは町の門の前に立っていた。
俺はスミから借りた認識疎外のフードを被り、完全に顔を隠している。これは優れもので、自分のステータスウィンドウの情報を隠すことができる。
つまりこれさえ被っておけば、一応警告マークは隠すことができる。
そしてスミが先頭に立ち、テロリストの男を俺と挟むようにして歩く。
こうすれば、二人でテロリストを捕まえたような構図に見える。
町に入ると、視線がこちらに一斉に集まった。視線の先には、警告マーク持ちであるテロリストはもちろん、俺にも視線が集まる。
自分のステータスを隠すと言う事は、何かやましいことがあるに違いないと思われても仕方ない。
外ならともかく、町の中では怪しがられるのは普通のことだ。だが、今日は別に長く町に滞在するわけでは無い。
目的地は攻略ギルド本部。だから町はそこの通過点でしかない。騒ぎが大きくならなければそれでいい。
いつもはあまり気にならない人の視線も、今日はやけに刺さる。
町中とはいえ、いつ襲い掛かられてもおかしくない雰囲気だ。
そもそもこんな事態になってあるのはWARのせいだ。全員が奴らを憎んでいる。
ただこの男は貴重な情報源だ。目的のためには守り通さなくてはならない。
……けどやっぱり、許せないな。
自然と拳に力が籠められる。気を抜くと殺してしまいそうになる。
駄目だ。一年間の努力が無駄になる。
するとスミが俺にこそっと耳打ちをした。
「ちょっと、その殺気抑えて抑えて。周りの人怖がってるし、私も後ろから威圧感がすごいからさ」
「……ごめん。余計目立ってたな」
感情に振り回されるとろくなことにならない。
俺は深く息を吸い、心を落ち着かせる。
感情で動くな、理性で動け。
「そろそろつくよ。準備はできてる?」
「大丈夫、とは言い切れないな。なにせ攻略ギルドのリーダーと面識が無いからな。どんな人物かにもよる」
「リーダーかあ。んー、ちょっと怖い人かな。いや、厳しいって言った方が良いかも。外国人なんだけど、すごい堅物なんだよね。海外の人ってみんなきっちりしてるのかなあ」
「別に海外の人なんて珍しくないだろ。人によるよ、日本人だってきっちりしてる奴もいれば適当な奴もいる。国は関係ないと思う」
今の会話で攻略ギルドのリーダーが堅物であることは分かった。これは一筋縄ではいかなそうだ。
うっかり情報を漏らしてくれれば嬉しかったのだが、そうはいかないだろうな。
そもそも情報を漏らすような奴が、トッププレイヤーたちのリーダーになれるわけもないのだが。
すると、周りの建物よりも一回り大きい屋敷が見えてきた。
この建物を購入するのに一体どれだけの資金を使ったのだろうか。俺もモンスターを倒したりクエストでためた資金はあるが、あんな屋敷を買えるほどは無い。
もちろんギルドの連中から集めたのだろうが。
スミは屋敷の前に立っていたギルドの人に事情を説明し、俺たちは屋敷の中に入れてもらった。
屋敷の中は閑散としていて、人の姿はほとんど見えなかった。
「まだ会議中っぽいね。控室で待機しておこう」
俺たちはスミに案内されて、とある屋敷の一室に通された。
三人は部屋の中にある椅子に座り、会議が終わるのを待つことにする。
誰も口を開かないので、空気が重い。
テロリストの男も、スミと合流してから一言も口を開いていない。全てを諦めてしまったのだろうか。
まあ、俺には関係のないことだ。
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