第45話 邪神復活

 ボクとソーニャさんは、塔の頂上までやってきた。


「いたわ、ヒューゴ! ギソよ!」


 塔の頂上では、大勢のフルドレンが。ギソのミイラに、祈りを捧げている。邪神に自分の命を捧げているのだ。

 一人また一人と、ミイラに生気を吸われて肺になっていく。


「止めるわよ!」


 杖を構えて、ソーニャさんが呪文を詠唱する。


 フルドレンたちは、反撃してこない。ミイラを守るように、陣形を組んでこちらを取り囲む。

 

「ギソのミイラもろとも、燃え尽きなさい! メテオバースト!」

 

 ソーニャさんが、特大魔法を展開した。フルドレンたちを、全滅させる。


「なんですって!?」


 しかし、フルドレンたちの魂が、ミイラに吸い込まれていった。

 

「自分からやられにいって、命を捧げるなんて!?」


 ミイラが、立ち上がった。どうやら、邪神は復活してしまったようだ。


「コイツが、ギソ一世ね?」


 現れたミイラは、ローブをまとったガイコツである。ボクがつけた刀傷を、胸に受けたままだ。


『不甲斐ない。我が一族ながら、どうしてここまでもろいのか? やはりこのギソ一世が、ギソ一族を導かねばならぬ』 


「わかりやすい老害ね。おとなしく、後世に道を譲りなさい」


 ソーニャさんが、魔法で攻撃をする。

 

『やかましい』



 さすがにけん制のファイアボールでは、ギソに傷一つつけられない。


『我が憎しみは消えぬ。魔族と関係を持っただけで、王家でありながら邪教に落とされたこの怒り、必ず果たしてくれる! 世界全てを闇にしてな!』


「自分の国だけでは飽き足らず、周りまで巻き込もうなんて。迷惑千万なのよ!」


『黙れ! すべての人類は、セニュト・バシュの血脈をわずかに引いているのだ。その地を絶やさぬ限り、ギソの呪いは永遠にこの地を呪う!』


「やっぱり、完全消滅させるしかないのね」


 ソーニャさんが、本気の構えを取った。

 

『完全とはいかぬが、お主にやられた傷も癒えた。ここからは、本気でいかせてもらうぞ!』

 

「どれだけ復活しても、また倒すだけだ!」


 ボクも剣を取る。いきなり、全力で押し切ることにした。

 

『矮小な人間が、神を退けようとするか。哀れな!』


「くらえ! 【ディサイド・ブリンガー】!」


 剣の刀身を撫でて、魔力を注ぎ込む。

 刀身を駆け巡るイカヅチが、より激しさを増した。

 ボクの魔力を吸って、聖剣デュランダルがより光を増幅させる。

 

『なんと、その技は!?』


 渾身の力を込めて、ボクは剣をふるった。


 稲妻を抱いた衝撃波が、邪神ギソに迫る。


「こしゃくな!」


 だが、神殺しの一手も、邪神の身体を切り裂ききれない。

 わずかながら、威力が止まってしまった。

 まだ、未熟だったか。


『なんと。かつて我を滅ぼした剣術の使い手が、まだいたとは。こうなれば……』

 

 塔を破壊しながら、邪神が巨大化した。


『我が全力を持って、相手をしてやろう! 今まで世界に散りばめていた我が呪いの数々を、すべてこの地に集め、我が糧とする!』


 ガラガラと音を立てながら、塔が崩れ始める。


「ヤバいわよ、ヒューゴ! このままだと、なにもできずにガレキの下敷きだわ!」


 ボクたちは、足場を失った。

 

「大丈夫!」


 塔の下側から、声がする。キルシュのようだけど、やたら声がでかい。


 ボクとソーニャさんは、灰色の大地に落ちた。固くもないし、なんだか温かい。


「なに、これ!? ふにゃふにゃだわ!」


 ソーニャさんが、地面を軽くつまむ。


「ひっどいなぁ。ウチ、こう見えてドラゴンなんですけど?」


 どうやら、ドラゴン化したキルシュの背中に乗っているらしい。



「ご無事のようですな。二人とも」


「ヴィク!」


 ヴィクが、ボクタチの前に。ただし、ヴィクは完全な鳥になっていて、キルシュの隣を舞っている。


「無事だったんだね。ヴィク?」


「ええ。おかげさまで。あんな不埒者に負けるほど、力は衰えておりませんよ」


「でも、あんな邪神どうやって倒したらいいのか? いつまでもキルシュの上に乗っているわけにもいかないし」


 ボクがいうと、「そうでもないけどねー?」と、キルシュはあっけらかんと答えた。


「心配無用。そのためのこの経典ですぞ」

 

 ヴィクの手には、鳥人族が崇拝する神・【サヴィニャック】の聖典が握りしめられていた。聖典の力を開放し、今の姿になったらしい。


「鳥人族の神・サヴィニャック、真の力をお見せしましょうぞ」

 

 ヴィクが、聖典を天に掲げた。


 なんだか、背中がかゆくなってきたんだけど?


「わわわ!」


 ボクの背中に、鳥の羽が展開する。

 

 ソーニャさんの背中には、黒くて大きい羽が生えてきた。カラスかと思ったけど、あれは黒い白鳥の羽だ。

 

「これが、鳥人族の力?」


 サヴィニャックの聖典を使えば、一時的に鳥の羽を展開できるらしい。


「あなた方には、我が神サヴィニャックがついておりますぞ。サヴィニャックも邪神ギソの横暴には耐えられぬようだ。共に打倒致しましょう」


「ドラゴン族も、邪神復活にはガマンできないよ」


 ドラゴン状態のまま、キルシュが吠える。

 

「みんな、いくよ!」


 ボクは、宙に浮いている邪神に突撃した。

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