第11話 オーク討伐へ

 依頼者はまだ、ボクの話を信じてくれていないようだ。

 

 ボクは依頼者を伴って、冒険者ギルドへ依頼書を届ける。


「ようこそ、ヴェスティの冒険者ギルドへ。受付のサクラです。えっと、ヒューゴさんですね? ご利用は初めて、と」


 受付を担当するのは、メガネのお姉さんだ。村にいた人とは違って、髪が黒い。


「この人の子どもが、オークに連れて行かれちゃったそうなので、助けに行きます」

 

 オーク討伐の依頼を、受諾すると告げた。


「セーコさん。ホントにこの子たちが、オーク討伐の依頼を受けると?」


 サクラさんは最初、メガネを何度も直す。


「本当さ。この二人だけで、やっちまえるよ」


「まさか。あなたが行くならわかりますよ? でも、こんな小さな子が」


 サクラさんに続き、依頼者の女性も首を縦に振る。


「ギルドカードを確かめてみな」


「はい……」


 セーコさんに言われるまま、サクラさんはペンのような小さい杖をギルドカードにかざした。

 カウンターの上にある白い紙に、ボクの功績が書き記されていく。『自動書記』という魔法である。


「!?」


 自動書記の動きが止まって、サクラさんが驚愕した。

 

「しょ、承知しました。いってらっしゃいませ」


 報告書を確認し、無事依頼はボクのモノとなる。

 

「あの、お待ちください。危険ではありませんか! この子たち、ウチの子と同じくらい小さな子どもなのに」


 やはり依頼者は、ボクたちがまだ年端もいかない子どもだと思っているらしい。

 

「ご安心を。ヒューゴさんたちには、一応これだけの実績があります」


 受付のお姉さんが、冷静に報告書を依頼者に示す。

 

「……っ! オークチャンピオンを撃退!?」


 依頼者が、口を抑えた。


 他の冒険者たちも、立ち上がる。


「ほっとけよ。どうせ、セーコに手伝ってもらったに決まってる」


 一人の冒険者が、ざわつく周辺を落ち着かせようとした。チンピラ風の男性で、明らかにボクたちを見下している。


「いや。今回私は同行するが、手伝わないよ。彼らの腕を、見せてもらうだけだ」


 セーコさんが首を振った。

 ボクたちも、手伝ってもらおうなんて思っていない。


「この子たちなら、オークロードくらい軽く打倒できるだろうさ」


「バカ言うな。冒険者の大人が二人がかりで、やっと倒せる相手だってのに」


「冒険者もヘタれたもんだね」


「なんだと!?」


 チンピラ風の冒険者は、ボクたちに殴りかかろうとした。脅しのつもりだったのだろう。


 だが、ボクたちは微動だにしない。まっすぐ拳を見据えて、反撃の機会をうかがう。


「どうしたの? 止まって見えるわよ」


 ボクが動く前に、ソーニャさんが相手の懐に飛び込んでいた。下アゴへ的確に、杖の先を向けていた。


 氷魔法で気管を塞いでも、人は簡単に殺せてしまう。


 そう、ボーゲンさんからは教わっていた。実践までは、したことないけど。


 相手を見下さず、油断さえもせず、ソーニャは明確な殺意を向ける。そっちがやるのなら、こちらも手加減はしないぞと、無言で。

 

 冷や汗をかいて、チンピラ冒険者は拳を引っ込めた。「チッ」と舌打ちをして、元の席に戻る。

 

「では、行ってきます。お子さんは、必ず生きて返しますので」


「お願いします」



 ボクたちは街を出て、オークの棲む森へ急いだ。

 オークの巣は、森の奥にあった。


「子どもたちが、無事だといいけど」


「心配ない。オークは子どもを食ったりはしないよ。むしろオークは、子どもを人質にして女を要求するのさ。自分の子種を植え付けるために」


 セーコさんから話を聞いて、ソーニャさんが露骨に嫌な顔をした。

 

「ひどい……最低な奴らね」

 

「そんなひどいことをするのは、オークロードくらいさ。それくらいのヤツが湧くとはねえ。とはいえ、あんたらの話を聞く限りだと、問題なさそうだ」


 今回セーコさんは、ホントに見守るだけだ。戦闘は、ボクたちに任せてくれるという。


「しくじってもいい。フォローは入れてやるから。思い切ってやりな」


「はい。手加減はしません」


「その意気だ。来るよ!」


 森の気配が、急にざわつく。

 

 オークが、襲いかかってきた。


「気を付けてソーニャさん!」


「誰に言ってるの、って!」 


 まずは、ソーニャさんがオークたちの呼吸を、氷魔法で止める。魔物相手なら、ソーニャも容赦はしない。


「今よ、ヒューゴ!」


 そのスキに、ボクが剣でオークたちをロングソードで斬っていった。

 ゴブリン戦で手に入れたショートソードと違って、すごくよく切れる。


ソーニャさんも、杖を棍棒代わりにして、オークを殴った。女性に危害を加える敵に、情をかけない。


「ソーニャさん、後ろ!」


 木陰に隠れていたオークが、ソーニャさんに抱きついた。


「ゲヒヒ! 捕まえた!」


「わざと捕まったのがわからないなんて、ねっ!」


 ソーニャさんが、オークの親指を捻り上げる。同時に、カカトでオークの足刀も踏んづけた。


「ぐひい!」


 前かがみになったオークのアゴへ、氷で固めた拳を叩き込む。


「ぎゃいーん」


 オークが、昏倒した。


「背中に汗がついた! もお、気持ち悪いのよっ!」


 気絶したオークの顔面を、ソーニャさんは蹴り上げる。 


「すごいね。ソーニャさん。その護身術、セーコさんの教えている技だよね? いつの間に?」


「今朝、道場までジョギングしに行った際に、教わったのよ」


 ソーニャさんは純粋な魔法使いだから、格闘術なんて興味がないと思っていたけど。


「子どもたちを探そう!」


「ええ。こっちね」


 子どもたちの気配を、ソーニャさんが使い魔ファミリアを使って探知した。


 白く光る綿毛が、森の奥へと向かっていく。


 追手を斬り捨てながら、ボクたちは森の奥へと進んだ。


「いた!」


 木製の檻に入れられた子どもたちを、発見する。


 ボクは剣技で檻の錠を破った。


「セーコさん、お願いできますか?」


「任せな……あんたらは、気をつけるんだ」


 森の奥が、騒がしい。


「オークチャンピオンをやったのは、テメエか!」


 赤黒いオークが、森の奥から現れた。ザコオークが豚の頭を持つ亜人だとすると、オークロードは角の生えたイノシシを思わせる。


「セーコ! 冒険者をやめてなかったんだな!」


「私は、この子たちを見てやっているだけだよ。手出しはしないから、安心しな」


「グヘヘ。お前になくても、こっちには用があるんだよ! これを見ろ!」


 オークロードが、すぐそばにある木に声をかけた。


 セーコさんの子どもが、オークに捕まっている。

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