第2話 ギルド登録

 まず、冒険者ギルドに行く。


 といっても、村の役場なんだけど。ここは、冒険者用の依頼代行も兼ねている。

 

「あら、ヒューゴくん。こんにちは」


「こんにちはー」


 受付のお姉さんに、あいさつをした。


「ロイドったら、また冒険にでちゃったのね?」


「そうなんです。昔からせっかちで」


「結果主義は、あまり褒められたものではないわね。今日は、どういったご要件で?」


「戦闘職につきたいです」


 ギルドの職業欄には、【生活職】と【戦闘職】がある。

 戦闘職を取ると、討伐依頼なども受けられるようになるのだ。

 逆に言うと、生産職だけでは盗賊などを倒しても報酬が出ない。「自衛」と見なされるのだ。

 

「あらあ、この村を出るの?」


「いずれは」


「寂しくなるわね。ささ、ではこの書類に名前と、なりたい職業を書いてね」


 書類には、職業を選ぶ欄がある。

 

 どれにしよう?


「駆け出しランクであるが、【魔法戦士】でいいよ」


「兄さんみたいに、弓じゃなくていい?」


 ロイド兄さんの職業は、【レンジャー】だ。薬草採取や弓による狩り、罠の解除などが主な仕事である。


「一人旅をするなら、ロイドのマネごとより独り立ちできるスキルがいい。【魔法戦士】とかな」


 兄さんの場合、レンジャーに向いていたからそのままにしていたようだ。


 ボクは、【魔法戦士】でいいという。

 

「強くなっていったら、中途半端にならないの?」


「ならないよ。ある程度は、なんでもできたほうがいい。どれもまんべんなく上げるんじゃなくて、自分に合った能力で振り分けるんだ」


 ボーゲンさんがいうなら、それでいいか。


「じゃあ、お姉さん。魔法戦士でお願いします」


「はい。魔法戦士ね。強くなってね」


「ありがとうございます。それでは」


 初めての、ギルドカードだ。


「せっかくだし、依頼も受けておこうよ」


「はい」


 どれにしようか。

 生産系は、もう村人に任せてもいいか。


「薬草採取にしよう」


 村人でもできる仕事だが、最近は薬草付近にゴブリンが湧いているらしい。

 それを撃退してくれとのこと。


 世間では、【ハーブジョブ】、農民でもできるような薬草採取などの仕事を、軽んじる冒険者が増えた。



「断言していい。ハーブジョブを軽んじる奴らは、本当の意味で冒険者にはなれんよ。自分のポーションの出どころさえ、把握していないってわけだからさ」


 ボーゲンさんの言葉に、受付のお姉さんも「ごもっとも」とうなずく。

 

「薬草採取で、お願いします」

 

「いいね。それでいこう」


 ボーゲンさんからも、承諾が出た。


 受付のお姉さんから、薬草採取の依頼を受ける。


 ギルドを出て、装備を整えることに。


 だが、ボーゲンさんは武器防具屋には行かない。


「装備品のお店には、行かないのです?」


「ああ。あっちにはワシのアイテム袋より、いい装備がないからね」


 ボーゲンさんは、ギルドのすぐ隣にあるの建物へ。そこは、旅人用の酒場だ。


 大物の魔物を討伐してきたのか、くたびれた冒険者がうなだれていた。全身、帰り血まみれだ。オフロに入ってから、入店してもらいたいよね。

 

 まるまると太った行商人さんが、冷えたエールを煽っている。


「こんにちは」


「これはこれは、ヒューゴくんじゃないですか。いらっしゃいませ。なにか御用ですか」


「ボクじゃなくて、こちらの方が御用があると」


 ボーゲンさんを、商人さんに紹介した。


「薬草を頼むよ。それと、武器や素材を売りたい」


「かしこまりました」 


「まずは、アイテム袋の確認を」


 ゴソゴソと、ボーゲンさんがアイテム袋を確認する。


 ボクの腕くらいある長さの剣と、革製のヨロイを出した。


「ヒューゴ、これを着なさい」


 ボクは服の上から、レザーアーマーを装着する。

 特別にあつらえたものでも、なんらかの加護があるわけでもない。普通のワニ革のヨロイだ。

 ショートソードも、特に装飾などもなかった。店売りのほうが豪華かも。

 

 装備品や素材を、商人さんに売る。


 これ、冒険譚ものの小説なら「こんな掘り出し物が!」って驚くところだ。


 しかし、ボーゲンさんの持っている品は、ありふれたものばかりだった。


 ボクが装備する分以外は、すべて売り払う。


「掘り出し物は、キミが探し当てるんだ」


 ボーゲンさんが、ボクを指さした。


「わかりました」


 欲しいものは、自分で手に入れろってことだね。


 ボクは商人さんの持っている装備品から、クツとアイテム袋を買う。ボクはこれまで村の手伝いをして、それなりの資金もある。戦闘用の装備でも、買えるのだ。

 

「それと、商人さん。娘の嫁ぎ先から、連絡はないかい?」


「ああ、ボーゲンさん宛ての手紙なら、預かってますよ。どうぞ」


 ボーゲンさんは、隣町に孫が住んでいるらしい。


「娘が貴族に嫁いで、できた子なんだよ」


「そのお嬢さんっていうのは?」


「孫を産んで、すぐに亡くなった」


 そのときボーゲンさんは冒険に夢中で、娘さんの死に目に会えなかった。

 ボーゲンさんは、それをずっと後悔しているのだという。


「名声を上げるより、大切なものがあると、思い知らされたよ」


 ボーゲンさんは、手紙を広げた。

『一度でいいから、孫の顔を見に来てくれ』という文面の他に、写真が添えられている。


「今さら、どの面下げて会いに行けばいいか」

 

 ボーゲンさんは、写真と手紙をしまう。


「行こう。キミの修行を始める」

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