第3話 初戦闘

 ボクとボーゲンさんは、森に向かった。

 薬草採取自体は、あっという間に終わる。

 

 ゴブリンも、見当たらない。いるのは、もっと森の奥のほうだろう。

 

「では、ヒューゴ。訓練を開始しよう。【身体強化レインフォース】は、できるよね?」


「はい。よいしょっと」


 ボクは、全身に魔力を込めた。

 魔力で自分の身体を包んで、肉体を強化する。

 生産職でも戦闘職でも使用する、普通の肉体強化スキルだ。

 それでも、ゴブリンに毛が生えた程度の力しか出ないけど。また、すぐに疲れてしまう。


「さすがだ。一〇歳に満たないながら、そこまで身体の強化ができるとは。大人の男性にも、勝てるかも知れない」


「そうかな?」


「ヒューゴは、自分の力を過小評価しすぎなのさ。次のステップに行こう」


 続いてボーゲンさんは、ボクに剣を振るように指示をした。


 ボーゲンさんは木を切って、木製の訓練用カカシを即席で作る。


「これを斬ってごらん」


「ええ、ムリだよ」


 ボクはノコギリで木を切ったことがあるが、身体強化しても一苦労だった。


「大丈夫さ。【マナセイバー】を覚えるといい」


 マナセイバーとは、武器に魔力を込めて攻撃する技だという。


「戦闘職を得た今なら、使えるはずだよ」


「はいっ」


 ボクは、剣に魔力を注ぎ込む想像をした。


「うわ。本当に、剣に魔力が行き渡っている」


「驚かなくていい。集中力を切らさないで」


「は、はい。えい!」


 ボクは、カカシに突撃した。マナセイバーで、丸太をスパッと切り裂く。


「おおおお」


 ちょっと、感動した。なんだか、強くなった気がする。


「いいね。このまま修行を続行……おっと」


 森の奥に、動く影が。

 あれは、魔物だ。


 雑草を食べながら、ポヨンポヨンと跳ねている。

 

 スライムである。

 ただの草やコケだけではなく、動物の死骸も食べる。スライムがいるから、森に腐敗臭がこもらない。しかし増えすぎると、薬草まで食う厄介者に変わってしまう。なので、定期的に狩る必要がある。


「マナセイバーと、【エンチャント】もやってみようか」

 

 エンチャントとは、武器に属性効果を付与する魔法だ。


「魔導書は、持っているよね?」


「ああ。五種類ちゃんと持っているよ」


 魔法には、属性が存在する。基本は、火炎・氷結・雷・風・土の五種類だ。これにさらに、光と闇といった二種類の上位魔法がある。


  基礎的な書物は、さっき行商人から買い取った。ボーゲンさんが持っていたけど、「自分で購入して覚えなさい」と言われたている。

 

「適当に、炎属性でいいよ。武器に炎が宿るイメージを、頭に思い浮かべるんだ」


 剣に、火が灯るイメージを。


「できた」


「そのまま。今のうちに切って」


「はい。やっ!」


 スライムを、剣で殴る。


 切るというより、炎の塊を殴りつけた感じになった。


 それでも、スライムには効果があったみたい。


 スライムが、ポーションになった。薬草を、食べたせいだろう。


「これって、飲んで大丈夫なの?」


「平気だ。魔物がアイテムに変換するのは、魔石の影響だよ」


 魔物は、体内に魔石という核を持っている。

 その魔石が壊れると、魔物の生きてきた経験が、アイテムという形で残るのだ。主に魔石とともに、ドロップする。


 別の個体は、倒すと魔石だけ落とした。


 魔石だけドロップするケースは、経験の記録があぶれたか、価値のある魔石に変わったかである。ときには、【魔法石】という素材になることも。


「ふむ。スライムを喰らおうとして、大物が釣れたぞ」


 森の奥に、小鬼が一匹潜んでいた。

 小鬼と言っても、ボクと同じくらいの背丈がある。


 あれが、ギルドで話していたゴブリンか。

 

「ゴブリンですね」


 一気に、緊張が走る。

 見た感じ、魔物は一匹しかいない。

 

「怖がらなくていい。さっきのマナセイバーの要領で」


「はいっ」


 ボクは、武器に魔力を流し込む。


「集中力を切らさない。属性攻撃は、なんでもいい。ゴブリンには、目立った弱点はないからね」


「わかりました……いきます!」


 ゴブリンに向かって、ボクは突撃した。


「っが!?」


 斬りかかろうとして、ボクは石ころにけつまずく。

 マナセイバーに意識が向きすぎた。そこまで、集中力を持っていかれちゃうのか。


「とっと!」


 姿勢を立て直して、再度剣を振った。

 

 だが、ボクの剣は、ゴブリンの棍棒に受け流される。

 

 やはり、物語のようにはいかない。

 だが、これでいいんだ。すぐに倒せるようでは、いつかどこか大事な局面で大失敗する。


 相手も突っ立っているわけじゃない。棍棒で、ボクの脇腹を狙ってくる。

 

 ボクは、さらに集中した。


「剣がダメなら、拳で!」


 魔法使い系のスキルには、マナフィストというものがある。拳に魔力を込めて、直接殴るのだ。武器を失った魔術師が、苦し紛れに行う応急処置ではあるが。

 

身体強化レインフォースからの、【マナフィスト】! てええい!」


 ゴス、とゴブリンの顔面に、ボクのゲンコツがめり込んだ。


 ゴブリンが、力なく倒れる。魔物は、アイテムに変化した。


「やった。武器だ」


 魔物の死体が、ショートソードに変わる。


「へえ。これは、レアアイテムだね」


 ボーゲンさんが、武器を吟味した。

 たしかに、一般的な武器より装飾が複雑でかっこいい。


「これって、すごいの?」

   

「ああ。すごいとも。魔法戦士にはね、【レアドロップ】のおまけが付くんだよ」

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