第4話 百姓:百の仕事を持つもの

 大量の成果を持って、ボクはギルドに帰ってきた。

 

「おかえりなさい。あらあ、魔石もこんなに。ありがとう、ヒューゴくん」


 受け付けのお姉さんが、ボクの持ってきた薬草や魔物の素材を吟味する。


 ボクは薬草採取のついでで、森周辺のモンスターもあらかた片付けた。


 アイテムも、レアが少し集まっている。剣と、ガントレットだ。手甲は、魔力を増強する力が込められていた。

 

「どれも状態がいいわね。魔法戦士って、難しい職業だけあって、いい素材を持って買えてきてくれるのよ」


 武器戦闘術と魔法を同時に操る【魔法戦士】は、強さが平均以上になりづらい。結果、中途半端な能力値になってしまう。

 そのため、アイテムで強化する必要が出てくる。結果、魔法戦士は専門職より【レアドロップ】の確率が高い。


「強い相手と戦うほど、魔物はいいアイテムを落とすの。魔物だって、戦闘の経験を積むから」


「そうなんですね」


 ボクのアイテムは、かなり状態がいいみたい。


 魔物も、ボクとの戦いを、いい経験と思ってくれたんだろうか。


 

 

 その後も修業を兼ねて、魔法戦士としての腕を磨いていった。


「とにかく、【魔法戦士】は誤解の多い職業だ。基本的に覚えるスキルは三つだけでいい」


 基本的な【レインフォース】以外だと、専用スキルの【マナセイバー】、【エンチャント】、遠隔攻撃ができる【ウェーブスラッシュ】があれば十分だという。


「それだけ? 魔法戦士って、魔法も使える戦士でしょ?」


「だが、魔法を覚える必要はほとんどない」


 魔法戦士の誤解とは、「魔法が使える以上、魔法を覚えなくてはいけない」と思い込んでいることだ。


 とにかく魔法戦士は、覚えられるスキルが多すぎる。

 使おうと思えば、魔法使いでも熟練が困難な魔法まで覚えられてしまう。やらなくてもいい魔法の習得に、時間をかけるのだ。


「絞り込んで、一部のスキルだけマスターすればいいのに。彼らは、覚えられるものはすべて覚えようとしてしまう。結果、成長を遅らせる」


 戦士としてのアイデンティティを忘れて、「魔法が使える近接職」を目指す。よって、中途半端な魔法職の出来上がり。


「本来、魔法戦士が目指す先は、『物理で殴る魔法職』だよ。魔法は相手の弱点を突くためにのみ、使用する。メインはあくまでも、物理攻撃だ」


 まず魔力を高めて威力に転換し、相手を殴ることを覚える。


 

「ボクに、そんなセンスはないよ。ただの農民だよ?」

 

「そのとおりだ、ヒューゴ。ぶっちゃけると、キミには冒険者の素質はない」


 あーっ。やっぱりかぁ。


「でも、ふたつ、冒険者にふさわしい要素を持っている」


「たとえば?」


「キミが【百姓】だからさ」


 百姓が、冒険者の素質があるって? 聞いたことないよ、そんなこと。


「ヒューゴ、キミは百姓の意味を知っているか?」


「農民って意味でしょ?」


 ボクが言うと、ボーゲンさんは首を横に振った。


「百姓とはね、『百の仕事を持つ』って意味なのさ」


 畑を耕すだけではない。農具を直したり、ときには武器を持って、領地をパトロールする。


「ワシも、色々学んで、広く浅く見識を深めたかったんだが、純魔ではなあ」


 ボーゲンさんは【純魔】……いわゆる、純粋な魔法使いである。とはいえ、魔法戦士でソロ冒険を夢見たこともあったという。自分で好きに、採取や採掘をできるからだ。


「ほうっておいて、もらえなかったと」

 

「専門職になると、どうしても人とつるむことが増えるからね。それはそれで楽しいんだけど、ワシは違った。一人のほうが、気楽だったのさ」


 そんなものなのか。


「ヒューゴ、キミはまだ若い。色々学んで、吸収していきなよ」


「はい」


 ボーゲンさんは、まだ話していないことがある。

 

「要素の、もうひとつは?」

 

「ワシがコツを教えるんだからな」


 ボクとボーゲンさんは、笑いあった。




 しかし、一週間後、事件が起きる。


 我がハリョール村の領主であるビルイェル伯爵のメイドさんが、冒険者ギルドに現れたのだ。神妙な面持ちで、メイドさんは受付のお姉さんと話している。


「恐れ入ります。私が目を話したスキに、お嬢様がいなくなってしまいました」


 なんでも、村でお買い物に付き合っていたところ、お姫様が迷子になってしまったという。


「……すまんがヒューゴ、今日は一人で修行しろ」

 

「え、いいんですか?」


「構わんさ。ワシも、人探しに付き合うとしよう」


 ボーゲンさんが、珍しくやる気になっている。


「お姉さん、すいません。ボクも、手分けして探します」


 修行なんて、している場合じゃない。


 もし、お嬢様が盗賊に捕まったりしたら、大変だ。


 この村はせいぜいゴブリンが悪さするくらいだが、それでも集落はどれだけ潰しても湧いてくる。魔物とは、そういうものだ。


「メイドさん、写真はありますか」


「ございます。助かりました」


 ボクも写真を見た。姫様の名前は、ソフィーアさんという。


 眼を見張るほど美人なのに、すっごいやんちゃそう。目つきも鋭い。笑ったら、かわいくなりそうなのに。


「ん!?」


 この写真って、ボーゲンさんが見せてくれた写真の、女の子じゃないか。

 どうりで、ボーゲンさんが血眼になっているわけだ。


「行き先に、心当たりはありますか?」


「なんでも、『祖父に弟子ができたらしいから、ぶちのめしに行く』と息巻いておられました」


 うわああ。

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