第43話 敵の本拠地へ

「ヒューゴ、ここが敵の本拠地、ケブネロスの丘です」


 ボクらは、北の山脈にたどり着いた。

 まだ冬ではないというのに、山頂には雪がまだ残っている。

 この山を抜けた先に、邪神を祀る神殿があるという。


「本当に、騎士団を連れてこなくてもよかったの?」


「ヘタに騎士団を呼んで全滅しましたなんて、目も当てられないって」


 エレオノル様率いる騎士団には、他国への支援要請をお願いしてもらった。直接戦闘はボクたちがやるので、姫には周辺諸国にバックアップをしてもらえないか、頼んでいる。


 ケブネロスに唯一ある街に、足を踏み入れた。


 さっそく冒険者ギルドに、話を通す。

  

「ごめんください。街の偉い方をお願いしたく」


 ソーニャさんが、ソフィーア名義で街のリーダーにあいさつをする。

 

「私です」と、街の領主様が出てきてくれた。


「我々は、邪教を討伐するためにやってきた、旅のものです。【赤術師 ボーゲン】の名のもとに、フルドレンの野望を阻止しに参りました」

 

 ボーゲンさんにも、一筆書いてもらっている。


「これは、ボーゲン様直筆の。確認致しました」


 領主様が、使いの魔術師に書状を確かめさせた。見ただけで、ボーゲンさんの書類だってわかったぽいが。


「こんな遠くまで、ご苦労さまでした。現在の状況は、このようになっております」


 冒険者を雇い、街の治安は守られているという。

 だが、いつ街の均衡が崩れてもおかしいくないそうだ。


「複数の冒険者が、フルドレンの居城を叩きに向かいました。しかし、誰も帰ってきません。腕のたつ冒険者だったのですが」


 領主様に、地図を見せてもらう。

 

「この円錐状の塔が、丘の上に立っております。この頂上に、邪神が祀られているそうです。誰も、到達したことはありませんが、邪神の像がこちらでも見えますので、間違いありません」


 領主が、ボクらを外へ連れ出す。


 確かにギルドのベランダから、邪神の像が見えた。あそこに、塔があるのか。


「あそこだけ、空が赤いわ」


 ソーニャさんが、塔の上を指さした。


 たしかに、黒い雲に穴が空いている。そこから見える空が、血のように真っ赤だ。 

 

 あの像は、最近できたものだという。赤い空も、同時に現れたそうだ。

 

「街の者たちも、ずっと怯えて暮らしています。ものを盗られたりなどはないのですが、邪悪な目に見つめられているだけで、心を病んでしまうものもいます」


「わかりました。これより、討伐に向かいます」

 



 街から直接の依頼を受けたことで、ボクたちは本格的に始動を始めた。


 邪神の塔に近づくと、さっそくモンスターが襲いかかってくる。

 

「ヴィク。最初から、クライマックスでいくよ」


「どうぞ、バックアップはお任せを」


 ヴィクが、ドーム状に魔法障壁を展開した。

 その外から、キルシュが槍を投げる。


 魔物たちが、キルシュの投げた槍斧のエジキに。


「ヒューッ!」


 キルシュはさらに、槍斧の上に乗り込む。


 足で槍を回転させながら、魔物の群れを突っ切っていった。


「入口の魔物は任せて! みんなは中に!」


「ありがとう、キルシュ! すぐ終わらせるから!」


 ボクたちは、塔の中へ。


「むう!」


 ヴィクの障壁が、一瞬で破壊された。

 強い攻撃が来たと言うより、対の属性魔法によって消去されたかのような消え方である。

 

「なんという。まさか鳥人族の中で、サヴィニャックに背くものがいたとは」


 鳥人族の強力な魔法障壁を消した相手は、カラスの鳥人族だった。


「久しいな、ヴィクドインヌ=メロー・サヴィニャック。我が名は、ロメロ・ギソ。邪神を祀るギソ一族の血を引く鳥人族なり」


 カラス鳥人族のこめかみからは、フルドレンを象徴する牛の角が生えている。


「なにが久しいものか。鳥人族の誇りを忘れたものなんぞ知らぬ」


 いつもバックアップに回る僧侶然としたヴィクが、やけに攻撃的なセリフを吐いた。


「まさか、こんな運命が待っていようとは。ヒューゴさん、ソーニャ殿。ここは任せて、先に行ってくだされ」


「大丈夫なの? 三人で協力すれば、倒せない?」


「おそらくは。しかし、それでは邪神復活を許してしまいます。お二人はどうか、邪神の復活を阻止してください。もはや、一刻の猶予もありませんぞ」

 

 ボクは無言で、戸惑うソーニャさんの手を引っ張った。


 ヴィクの意志を、ムダにはできない。




 *




「ふーっ。ざっとこんなもんかな?」


 キルシュが槍斧から降りると、どこからともなく槍が飛んできた。


 これは、竜人族の槍である。


「おっと。誰かと思えば」


 竜人族の女性が、キルシュの前に現れた。黄色と黒といった、病的なウロコに身を包んでいる。フルドレンを表す、牛の角が生えていた。


「アタイの名は、ラコブ・ギソ。邪神の血を引く者。ここから先には、行かせぬ」


「ちょーどいいや。ザコ相手ばっかりで、退屈していたんだよね」


「アタイからすれば、アンタの方がザコっぽく見えるけどね!」


 たしかに、肉つきは相手のほうが大きい。


 だが、ただデカいだけの魔物なら、いくらでも相手にしてきた。負ける気はしない。


「その考えを、改めさせてあげるよ!」


「邪神に楯突いたってムダさ!」

 

 毒々しい槍を構えたラコブが、キルシュの槍斧と交差する。

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