第13話 卑劣な冒険者

 冒険者ギルドに戻るなり、セーコさんが受付に向かう。

 

「私の息子を、オークに売った冒険者がいる」


「なんですって!? 一体誰が!?」


「わからないよ。でも、息子がオーク共に捕まっていた」


 オークを討伐はしたが、これは由々しき事態である。冒険者が同業者の肉親に手を出すなど、最悪の背信行為だ。


 チンピラ風の男性冒険者が、ギルドに入ってきた。

 

「あなたねえ! いくらヒューゴさんたちに恥をかかされたからって、セーコさんの子どもをオークに売るなんて、ひどすぎます!」


 サクラさんが、この間食って掛かってきたチンピラ風の冒険者に噛みつく。


「オレじゃねえ! オレも現場に向かったんだ! セーコのガキがいるって聞いて!」


 チンピラ風冒険者は、首をブンブンと振る。


「待ちな、サクラ! そいつじゃないよ」


 セーコさんが、サクラさんを止めた。


「そいつの娘が最初に、とっ捕まりかけていたらしい」


「……ホントですか?」

 

「ああ。息子が証言してくれた」


 実は、狙われていたのはチンピラ冒険者の娘だった。それなりに実力のある冒険者だったら、誰でもよかったようだ。

 たまたま一人で買い物をしていたセーコさんの息子さんが、その現場を目撃した。

 冒険者の娘が連れて行かれそうになったのを、助けたらしい。 

 セーコさんの息子さんは、チンピラの娘を逃がして、捕まったという。自分のほうが、人質としての勝ちがあるだろうと。


 さすがのオークも、セーコさんの子どもに手を出したらただでは済まないと考えていた。

 しかし、相手が自ら出向いてくれている。

 これを逃す手はないと、オークたちは考えたようだ。


「えっと。あなたですよね? セーコさんを狙っていたオークを、矢で撃ったのは」


「隠してもムダよ。前にあたしがあんたの懐に入ったとき、武器を見たわ。あんたは【レンジャー】。クロスボウの矢にも、見覚えがあったわ」


 ボクやソーニャさんが尋ねても、冒険者は語らない。それが回答だった。


「ありがとうよ。おかげで息子も無事だ」


「オレは、仕事をしただけだよ」


 冒険者は、手に銅貨を握っていた。


「娘が、依頼してきた。自分の身代わりになった男の子を助けて、ってな」


 顔をそらしたまま、冒険者は語る。

 なけなしのおこづかいを、娘が差し出したらしい。父親が、金でしか動かないと知っていたからだ。


「申し訳ありません」


「いや、いいんだ。オレの方こそ、しょうもない依頼だと、邪険にして悪かった」


 今回の件で、男性冒険者も少しは考えが変わってくれたらいいけど。


「ヒューゴ、今回の件で、私はギルドと話し合う。あんたたちは、聞かないほうがいい。どうもきな臭いからね」


「わかりました」

 

「あんたたちは報酬を受け取ったら、次の依頼を受けるなり装備品を新調するなりして、宿に帰りな」


「はい。セーコさん、お気をつけて」


「あんたたちも」


 セーコさんと別れて、報酬を受け取った。

 


 無事に帰ってきた子どもが、依頼者と抱き合う。


 よかった。これで依頼は達成だ。


「依頼料はほんの少しだけど、この笑顔こそ報酬だよね」


「何を言っているの、ヒューゴ? オークからゲットした戦利品こそ、冒険者の報酬よ」


 そうだった。結構なアイテムが、手に入ったんだっけ。


「すっご! このヨロイ、強いよ」

 

 オークロードからは、金属ヨロイが手に入った。

 体力がほんの少しアップし、多少の攻撃なら跳ね返す。しかも、金属製なのに軽い。薄い板金を鎖で繋げた、いわゆる【スケイルアーマー】というやつだ。極薄金属板で構成されているが、それでも今までのレザーアーマーよりは強度が高い。魔法防御効果も、込められていた。

 盾を装備しようか悩んでいたので、アーマーが手に入ったのは助かる。


「でも、蕃刀の方は扱えないよ」


 蕃刀は、大きすぎる。片手剣なのに、両手でさえ持ち上がらない。ボクには使えないね。

 

 他のオークからは、魔石だけ手に入れた。こちらは換金だ。


「ソーニャさんの方は?」

 

「倒した個体の中に、オークチャンピオンがいたわ。そこから、これを」


 雷撃属性のある、ブレスレットを手に入れたらしい。


「攻撃にも防御にも転換できる、便利アイテムね」

 

「いい感じだね」


 この調子で、ドンドンと依頼を達成していこう。


「他に、なにかないかな。できれば、ダンジョン探索系がほしいんだけど」


 ダンジョンには、一度も潜っていない。可能であれば、経験してみたいが。


「これなんていいんじゃない? 近くのダンジョンで、新種の鉱石が見つかったそうよ。また取れるかもしれないから、取ってきてほしいって」


 柔らかい石だそうで、鉱石としての価値は低いという。が、魔法価値が高いらしい。

 

「いいね。依頼者に、話を聞いてみよう」


「ちょうど、装備品の売店がそうよ。行きましょう」


 いらない装備品の換金ついでに、依頼を受けることにした。


 店番をしているのは、ドワーフさんだ。トンカチを持っているから、装備品の修理や製造などもやっていそうだ。

 

「おやおや、かわいらしい冒険者ではないか」


「こんばんは。まだ空いていますか」


「ああ。やっているとも。どれがほしい?」


「今日は、換金なんですよ」

 

「よし。装備を見せておくれ」

 

 さっそく、オークロードの蕃刀を差し出す。


 ドワーフのおじさんが、蕃刀を持って目を光らせた。


「おお、こいつには、依頼の鉱石が一部使われておるではないか」

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