第14話 アイテム合成

 ドワーフさんの話によると、オークロードの使用していた蕃刀には、一部特殊な鉱石が使われているという。


「こいつに使われているのは、【トロルトゥース】だ」


「トロルトゥースとは?」


「トロル族の歯って意味を持つ、極めて硬い魔法石だ。高い腕力が必要な代わりに、持ち主に絶大な攻撃力を与える」


 ここから北に行った、トロルヘッドの鉱山から取れる鉱石だ。


「昔、トロル族がこの地を支配していた頃、よく採掘されていたらしい。今でも、多少は取れるはずだけどな」

 

「まってよ、店主さん」


 ドワーフさんの話を、ソーニャさんが一旦止めた。


「トロル族って、もう絶滅したはずだわ。魔王との戦いで、この地を追われたって聞くけど?」


「それでも、文明は残っている。今でも人間と交配した【フルドレン】という種が、生き残っているそうだぜ」


 フルドレンは今でも、魔王復活のために活動しているらしいが。


「まあ、それも伝説だけどな。さて、仕事をしようか」


 ドワーフの店主が、手を叩く。


「この剣は、買い取りでいいんだな? 素材の剥ぎ取りもできるけど?」

 

「素材を、剥ぎ取れるんですか?」


「ドワーフの手にかかればな。こいつからは、さっきのトロルトゥースが手に入るぜ」


 さっき渡したオークロードの蕃刀を、ドワーフさんがこちらに見せてくる。


 ボクはソーニャさんに、「どうする?」と聞いてみた。


「いらないわね。力が強くなる代わりに、重いんでしょ? ヒューゴじゃ扱えないわよ」


「ボクも、そう思っている」

 

 ボクは、蕃刀を買い取ってもらうことに。


 鉱石採掘ミッションをこなしたら、トロルトゥースは報酬で少し手に入るから。

 

「じゃあ、この剣からは、なにか抽出できますか?」

 

 ゴブリンから手に入れたショートソードを、店主に提供した。


「おお。できるぜ。こいつからは、【紅蓮の石】かな?」


 炎を固めたような鉱石であり、炎属性の威力が上がるという。


「では、それをお願いします」


「やってやらあ。見てな」


 ドワーフさんが、ボクたちを店の中へ案内する。ゴブリンの長剣を、大きな金床に置いた。


「見てもいいんですか?」


 こういうのって、企業秘密だって聞くけど。


「見たところで、誰もマネなんかできねえよ。よく見てろよ。これが、失われつつあるドワーフの真髄ってやつよ」

 

 ドワーフさんが、トンカチを一振する。


 バチイン、と激しい音が鳴って、火花が散った。


「この金床とトンカチは、魔法の材料を剥ぎ取る専門の道具なんだ。ドワーフのスキルがなければ、こんな芸当はできん」


「すごいですね」


「魔王が支配していた頃は、重宝された技術らしい。が、今は使えるやつがどれだけいるか」


 ゴブリンの長剣が砕け、魔法の素材らしきアイテムとなった。光熱の金属片が、熱を発している。


「こいつが、紅蓮の石だ。強化したい武器を出しな。合成してやる」


「あっ、はい。どうぞ」


 ボクは、オークチャンピオンから手に入れたロングソードを、ドワーフさんに差し出す。


 武器とアイテムを重ね合わせ、ドワーフさんがトンカチで何度もドンドンと叩く。店に並んでいた売り物まで持ってきて、同じように混ぜ合わせる。


「いいんですか? 売り物ですよね?」


 結構いい装備じゃないか。代金なんて、出せないよ。


「もう何年も売れてねえ商品だ。構うもんか。お前さんに上げたほうが、楽しそうだ」


 ドワーフさんの力で、剣がさらにパワーアップした。柄や鞘まで、新調してくれているという。


 つけてほしい柄や鞘は、ボクが選び放題である。


「ひっさびさに、いい仕事をした。ありがとうよ。低い等級とはいえ、レアアイテムを触るチャンスなんてあまりないからな。張り切っちまった」

 

 汗びっしょりになって、ドワーフさんが座った。布のタオルで汗を拭き、一息つく。


「ありがとうございます。お代金を」


「いらねえ。いい練習をさせてもらった。蕃刀の代金も、払わなくていい」


 レアアイテムを打つという基調な経験をさせてもらったことで、代金は不要だという。

 

「明日はよぉ、俺もついていくからな」


「いいんですか?」


「鉱石の種類なんて、お前さんたちにはわからないだろ?」


「そうですね」


 ボクたちは、採掘スキルを持っていない。適当に壁を掘ったところで、めぼしい鉱石などは見つけられないだろう。

 

「それに、作った武器の性能を、見ておきたい」

 

 ドワーフさんが留守の間、店番は奥さんがやるらしい。


「依頼人兼同行者のヘッテピだ。よろしくな」


ハリョール村のヒューゴヒューゴ・ディラ・ハリョールです」


 ボクは、ヘッテピさんと握手をかわす。


「ソーニャよ。魔法使い」


「ヘッテピだ。戦士」


 ソーニャさんも、ヘッテピさんとあいさつをかわした。


「物理の武器屋なんてお嬢さんにはしょうもなかったかもしれんが、アクセも置いてるぜ」


「いいわね。見せてちょうだい」


 ソーニャさんは、ひときわ大きな魔法石のネックレスを見つける。魔法石が、ひし形にカットされていた。

 魔法効果は低そうだが、明らかにビジュアルに目を奪われている。


「ソーニャさん、迷ってるならボクが出すよ」


「いいの?」


「これくらい、どうってことないよ。一緒に冒険しただろ? プレゼントくらいさせてよ」


「ありがとう」


 ボクがお財布を出すと、ソーニャさんは微笑む。

 

「そうしてちょうだい。ヘッピテ店主、これがいいわ」


 ソーニャさんが、ペンダントを手にした。 


「そいつは、セール品だぜ。効果も【魔法威力の上昇:極小】と、たいした価値はない。もっといいのが」


「こういう大げさなアイテムが、好きなのよ。冒険者っぽいでしょ?」

 

 耳まで伸びたピッグテールに、大げさなペンダントは映える。


「さあ、あんたのお家が見つかったわ。いらっしゃい」

 

 ソーニャさんは、ペンダントにファミリアの毛玉を住まわせた。


「あら?」


 なんと、ペンダントが光り出す。毛玉だったファミリアが、トンボの羽を生やしたフェアリーに変わる。


『あーよくねたー』

 

 カタコトを話しながら、フェアリーが伸びをした。


 ファミリアが、レベルアップしたみたいである。

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