第39話 第四章 完 兄に帰還を報告

「ヒューゴに、厳密には彼の兄貴に対して、迷惑料を払ってちょうだい」


「ソフィーア殿! いくらビルイェル伯爵のご令嬢といえど、国王に対してなんたる口の聞き方を!」


「うるっさいわね。事実を伝えただけよ」


 無礼な口の聞き方をしたせいで、ソーニャさんが騎士たちと一触即発になった。


「王子様が犠牲になったのは、同情するわよ。けどこっちだって、仲間のお兄さんが廃人になっちゃったのよ。辛いのはお互い様でしょ? お金で解決できるようなことじゃ、ないと思うのよね」 

 

 よせばいいのに、ソーニャさんも腰に手を当てて物怖じしない。


「待て。兵たちよ、下がってよい」


「しかし!」


「ソフィーア嬢のいうとおりだ。納得はできまい」

 

 国王に指摘され、兵士たちが下がっていく。


「すまなかった。国王として、非礼を詫びよう」


 恐れ多くも、国王自らが頭を下げる。


「無礼なのは、こちらの方でした。お許しを」


 さすがに言い過ぎたと思ったのか、ソーニャさんもヒザを折った。


「さて、ヒューゴとやら。貴殿の兄が心を壊してしまったこと、なんと申し上げてよいか」


「あっ、いえ。お気遣いくださるだけで、ありがたき幸せであります」


「うむ。してヒューゴ。なにか、国王として役に立てることはあるだろうか。国王といえど、単なる人間だ。できることは、限られてしまうが」


 本当に、国王はボクを心配してくれているようだ。

 なんだか、悪いなあ。


「どうしようかな。お金をもらったとしても、ロイド兄さんは金貨なんか見たくもないと思うんだよね」


「そうだわ。ザスキアに、弟子入りさせてもらったら?」


 ザスキアさんは、王家お抱えの【サムライ】だ。彼女から剣術を学べば、もっと強くなるだろう。


「あたしがアンタなら、弟子入りを志願するわね」


「うん。あの、お金入りません。ザスキアさんに、ご指導をいただきたいです」


「あいわかった。手配しよう」

 


 話が済んだので、ボクたちは王都を離れ、ビルイェル伯爵領・ヴェスティへ向かった。

 セーコさんとは、ここでお別れである。


「世話になったね。しっかりやりなよ」


「今まで、ありがとうございます。セーコさん」


 息子さんのいる家へ、セーコさんは一直線に帰っていった。


 

 ボクは、ロイド兄さんがいる病院へ。


「ただいま。兄さん」


「おお、ヒューゴ! 無事だったか!」


 兄さんは、ボクの生還を心から喜んでくれた。

 

「みんなの仇は、取りました」


「ありがとう。情けないオレに代わって、よく成し遂げてくれた」


「いえ。兄さんの助力がなければ、あそこまでうまくはやれなかったよ」


「そうか。これで、あいつも浮かばれるかな」


 兄さんは、自分の部屋の壁に手を添える。


「あ……」


 以前ソーニャさんが怯えていた、壁一面の血文字に目を通す。


 ボクは最初、邪神にまつわる呪いの文章かな、と思っていた。


 でも、違う。


 これは、恋人への謝罪文だった。


 ずっと、うなされていたんだろうな。

 大好きだった人を手にかけて、兄さんは何度も自分を責めたことだろう。


「きっと、その女性も浮かばれたと思うよ」


「ああ。あいつの分も、オレは生きるよ。まだ、自立には時間が抱えるけど」

 

「ゆっくり休んでよ。兄さんは、人よりがんばりすぎた。今は、身体を休めるときだと思う」


「ありがとうな、ヒューゴ」


 兄さんには、休んでもらう。


「いい顔になったな、ヒューゴや」


 ボーゲンさんが、ソーニャさんと一緒に、兄さんの部屋の入口で立っていた。二人は二人で、いっぱい話し合ったんだろうな。


「それでボーゲンさん、質問なんですけど」


「なんだい、ヒューゴ?」


「邪神って、どうやって殺せますか?」


 ボーゲンさんの顔つきが、険しくなった。


「キミ、まさか」

  

「ボクは、ギソにトドメを刺しに行きます」


 まだ、ギソは殺しきれていない。


「どうして、ギソを倒せていないと思ったんだい?」


「アイツを斬ったとき、手応えがなさすぎました。おそらく、ヤツはどこかに逃げたんだと思います」


「ふむ。ワシはその現場を見ていないから、どうなったかはわからないよ。でも、強くなったヒューゴが言うんなら、そうかもしれない」


 だから、準備を万全にして、今度こそギソに挑もうと考えている。


「驚いたな。まさかキミが、孫と同じ結論に達するとは」


「ソーニャさんと?」


「ああ。ソフィーアも、『ギソを殺す方法を教えてくれ』ってさ」

 

 ソーニャさんはボーゲンさんと再会してそうそう、魔術のすべてを教えろと詰め寄ってきたらしい。ギソを倒すための技を、仕込んでくれと。


 ボーゲンさんは、カッカッカと笑った。


「まったく、二人して面白いことを考えやがる」


 スキットルを開けて、ボーゲンさんはキツイお酒をグッと煽る。

 こちらにまで、キツイ酒の香りが漂ってきた。

 

「いいねえ。邪神狩り。いいよ。熱くなってきた」


 ケケケと、ボーゲンさんが不敵に笑う。


「ヒューゴ。ちょいと、ソフィーアを貸してくれ。一ヶ月ほど」


「はい。構いません」


 ボクもそれくらい、ザスキアさんに指導してもらうつもりだったから。


「一ヶ月ほどで、ソフィーアを見違えるほどに鍛え抜いてやる」


 ソーニャさんとボーゲンさんと別れて、ボクは王都に帰ってきた。


「ウチらは当分、攻略の厳しそうなダンジョンを回ることにするよ」


「ではまた一ヶ月後。ご武運を」


 キルシュとヴィクとも、別れる。


 ボクは、ザスキアさんに指導を受けることとなった。


(第四章 完)

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