第38話 ダンジョン消滅

 ボクはエレオノル姫といっしょに、ダンジョンの九層に転送される。


「あ、ヒューゴ!」


「ボクは大丈夫。みんなは無事!?」


「ええ。無事というか、なんというか……」


 ソーニャさんが、足元を指差す。

 

 ギソが、うつ伏せに倒れていた。息をしていない。


「死んでる?」


「死んだっていうか、急に止まった感じ」


 邪神ギソを倒したことで、ホムンクルスの機能が停止したのだろう。


「ホムンクルスは、術師が倒されると動かなくなります。今度こそ、危機は去ったといえるでしょう」


 エレオノル姫が、このダンジョンの無事を宣言する。


「姫様!」


 ザスキアさんが、エレベータの作動を確認した。

 ちゃんと、九層に止まっている。


「それじゃあ、本当に」


「はい。ダンジョンは、元に戻ったようです」


 切り取られた空間が、正常に戻ったようだ。



 ダンジョンが正常に戻ったことで、ボクたちはようやく長いダンジョンを抜ける。


 すごい、長い旅だった。兄の無念を晴らす旅とはいえ、時間がかかったなぁ。


 久しぶりに、外の空気を吸った気がする。

 



 ボクたちは、戦利品を確認する。


「ボクが手に入れたのは、ロングソードだった」


 ヘッテピさんに調べてもらったところ、【デュランダル】というロングソードらしい。片手でも、両手でも使える。今度は、雷の力を帯びているそうだ。

 今まで使っていたフレイムタンより、遥かに激レアアイテムだという。

 

「あたしは【ジョワユーズ】って杖を、手に入れたわ」


 ソーニャさんは、聖なる杖ジョワユーズを得たらしい。これを持つ者は、王になる器だと、ヘッテピさんから説明を受けていた。


「この杖自体が強いってわけじゃないの。持っていると、【賢者】に転職ができるのよ」


 魔法使いだけではなく、僧侶の神聖魔法まで獲得できるという。


「ほう。もはや無敵ですな」


「おじいさまを超えて強くなっちゃう? まあ、それもいいけどね」


 ボーゲンさんを超えても強くなったら、ソーニャさんはどうなっちゃうんだろう?


「祖父を超えても、祖父の偉大さは消えないわ。あたしは祖父よりちょっと強い、ただの魔法使いになるだけよ。彼の偉業は、覆されないから」


 そうだよね。冒険者の基準は、どれだけ強いかではない。どれだけ世界に貢献したかだ。

 

 他にも、キルシュは【オートクレール】という槍をゲットしたそうだ。飛ばしても、戻って来る槍型斧だとか。


「ヴィクは?」


「聖典ですな。といっても、ワタシは神に仕える身。無報酬でも、文句は言いませんよ」


 邪悪を追い払う強烈な魔法障壁を放つ、経典だという。これがあれば広い範囲をカバーでき、治癒魔法詠唱中でも襲われない。


 


 後日、ボクたちはまたお城にお呼ばれした。


 しかも、今回はシュタルクホン国王直々にお礼を言いたいそうだ。



 ボクたちがダンジョンを出たと同時に、ギソのダンジョンが世界から消滅した。邪神ギソの力が、世界に影響しなくなったからだろう。


 冒険者たちが、頭を抱えている。レアアイテムを、掘ろうとしていたのだろう。実際あそこは、いい狩り場だったし。

 どのみちあのダンジョンは、消さなければならなかったのだ。それが早まっただけのこと。


 忌々しいダンジョンが消滅したことで、街の雰囲気もよくなった気がする。治安がよくなり、陰気な淀んだ気配も消えていった。街の中にダンジョンがあるだけで、あそこまで雰囲気が悪くなっていたとは。


 

 あの後、姫様はザスキアさんと、死んでいった部下の埋葬をしていたという。

 ギソのお墓も作って、祈りを捧げたそうだ。

「事件の元凶である人物の墓など」と、ザスキアさんは反対したらしい。

 それでも、エレオノル姫は埋葬せずにはいられなかったそうだ。彼の一族が受けた仕打ちを、少しでも和らげようと。

 

「此度の働き、感謝する」


 報酬として、大量の金塊をもらう。この金貨の山は、セニュト・バシュにあったお宝だという。


「恐れ多くも国王、聞きたいことがございます。ギソの扱いは、なんだったのでしょうか?」


「……歴史を調べた結果、ギソに不当な扱いを行っていたのは、事実だった。情けないことにな」


 かなり昔のことになるが、ギソが魔王討伐部隊から帰った後も、実験動物のような仕打ちを受けていたらしい。しかも、王族自らが率先して、ギソをモルモットにしていたという。


「ひどい話ね」


「まったくだ。我々の代では、そのようなことはなかったのだが」


 ギソは自分の歴史を調べていた際に、先代ギソの書物から、邪神の禁忌に触れてしまったそうだ。それにより、邪神の操り人形にされてしまったという。


「代は変わっても、ギソの憎しみは消えなかったのだ」


 このお金は、ギソの故郷であるセニュト・バシュの復興に充てるという。


 眼の前にある金塊も、その一部でしかない。


「その金は自由だ。気に食わなければ、我が王国で補填させてもらう」


「よろしいので?」


「息子のことを思えば、これでも足りぬくらいなのだ。我が息子エルンストを看取ってくれて、礼をいう」


 ボクは、これでもいいと思っている。十分すぎるくらいだ。


 しかし、これで黙っていない人がいた。


「全然足りないわ」


 ソーニャさんである。

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