第19話 さらば、人妻ニンジャ?

「アンタたちとは、ここでお別れだ。達者でな」


 ヴェスティの街に戻って、セーコさんから話を聞く。

  

「フルドレンを撃退したら、王都への道も安心して抜けられる。私の手助けは、いらないだろう」


「トレーニングは、どうすれば?」


「ぶっちゃけ私がヒューゴに教えられることは、特にないんだよな」


 ボクたちは誰かの指導を受けて訓練するより、自分たちで試行錯誤する方が向いているそうだ。


「なにより、あんな戦い方で【ツバメ返し】をやるなんてな」


 ボクはゴーレムと戦ったとき、ツバメ返しを放った。【爆炎撃】の爆風を利用して。


「爆炎撃をあんな使い方するなんて、発想自体がなかったよ」


「あれは、あたしも驚いたわ。岩が飛んできたときも、魔法で止めようか考えたのよ。なのにヒューゴったら、全部避けちゃうんですもの」


「ですよね。ソフィーア様」


 ソーニャさんと話しながら、セーコさんがメイドの口調になる。ソーニャさんの母親に仕えていたんだもんね。


「じゃあセーコさん。お別れってことですか?」


「ああ。私はソフィーア様に、指導なんてできないし。術の系統が違いすぎて、姫の参考にならないんだよ」


 ソーニャさんも臨機応変なタイプなので、自力で困難を突破するタイプなんだとか。


「正直な話をすると、もっと冒険はしたい。ソフィーア様の警備もあるけど、なにより私自身が旅を求めている。ダークエルフだからかねえ。魂は旅に引きずられているんだ」


 ダークエルフは、生まれながらの冒険者である。風とともに生きて、土とともにして死ぬ。スリルのある仕事をしていないと、メリハリがないそうだ。


 とはいえ、セーコさんの意思は固い。危ない仕事はできないと、身体はわかっているのだ。


 プロの冒険者にそこまで言われたら、引き止めるわけにはいかないか。


「なにより、私にはチビがいる。まだ小さい上に身体も弱いから、放っておけないんだ」


 セーコさんの息子さんは、身体に障害がある。そのため、誰かがついてあげないと、と考えているようだ。


「……ん? あの、セーコさん。その必要は、果たしてあるんでしょうか?」


「どうして、そう思うんだ?」


「だって、ほら」


 ボクは、セーコさんの後ろを指さした。


 セーコさんが、ボクの手が指し示す先を、目線で追う。


 そこには、女の子と仲良く並んで歩く息子さんの姿が。その姿は病気を持っているなんて、少しも感じなかった。いたって、普通の少年である。


 

「あはは。まいったね!」


 過保護な心配をしていたと気づいてか、セーコさんはお腹を抱えて笑った。

 

「これぞ、『男子、三日会わざれば刮目かつもくして見よ』てヤツかね。人間、どう成長するかわからないね」


 セーコさんは笑いつつ、少し涙ぐんでいる。その笑みには、自分の息子を信じてあげられなかった自分への、侮蔑も込められているようだ。


「坊!」


 息子さんを、セーコさんが呼び止める。


 半べそをかいている母親の姿に、息子さんも何事かと立ち止まった。


「坊、お母ちゃんは旅に出ていくけど、平気かい?」


 母からの問いかけに、少年は力強く頷く。

 

「うん! おともだちがいるから、だいじょうぶ。冒険がしたいんだよね? いってきなよ!」


 少女と手をつなぎながら、息子さんはセーコさんを後押しした。


「ああ坊や。ありがとう」

 

 少女もろとも、セーコさんは息子さんを抱きしめる。


「さて、お別れのあいさつは終わりだ。ギルドに報告して、準備をしようじゃないか」


「はいっ」


 ボクたちは、冒険者ギルドへ向かった。


「おかえりなさい、ヒューゴさん」


「ただいま帰りました。サクラさん」


 まず、サクラさんに戦果を報告する。


「なるほど。その魔法石によって、ローブは復活しますよ」


「本当ですか?」


「はい。アイテムの灰に、その魔法石をかざしてみてください。元に戻りますから」


 サクラさんに言われたので、やってみた。


 魔法石が粉々になった後、魔法防御のローブが復元される。


「すっご」


「ただし一度だけです。それも、同じような魔力のものしか復活させられませんから、お気をつけて」


「アドバイス、ありがとうございます」


 他にも魔法石関連は、ヘッテピさんに加工してもらえばいいという。


「ヘッテピさんは、もう王都を出たそうです。明後日には、ヴェスティに帰ってくるそうですね」


 やけに早いな。あのゴーレムのおかげだろうか?


 それまで、戦利品を売買して装備を新調することにした。


「どう? このドレス・スーツ? いい感じじゃないかしら?」


 ソーニャさんが、服装を仕立ててもらう。いつものパフスリーブのついた村娘風から、学校の制服のような衣装に変えた。


「すごくかわいい! いい感じだね!」


「ウフフありがと。王都に行くから、衣装も新調したのよ。アンタも野暮ったい服装から、ちょっと変えたら? コーディネートしてあげるわよ」


 お金は潤沢にあるので、多少のムリはきく。


「でも、ボクなんかにおかねを使っても」


「アンタはよくても、あたしはイメチェンしてあげたいの。一緒に並ぶんだから」


「そっかぁ」


「いらっしゃい」


 ソーニャさんが、ボクの手を引いた。

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