第20話 第二章 完 王都進出前のおめかし 

「このお店は、魔法で仕立てるから一日でできちゃうのよ」


「たしかに、ソーニャさんも早かったね」

 

 ボクも、服を仕立ててもらう。装備はそのままで、少しビシッとした衣装に変えてもらった。やや軍服っぽい感じ?


「どうだろう?」


 姿見で自分を映してみた。どうも、服に着られている感じがしちゃうな。

 

「似合っているわ、ヒューゴ。王都でも、恥ずかしくないわね」


「そうかな? ありがとう」


「しいていえば、そうね。髪型も、少し変えてもらいなさいよ」


 というわけで、床屋にも入った。


 なんだか、着せ替え人形みたいだな。まあいいか。ソーニャさん、楽しそうだし。


「決まってるわね。いいわよ」


「そうかな? どうもありがとう」


「特に、剣と合っているわね」


「たしかに、この剣はすごいよね」


 ボクは、新しい武器を手にする。刀身の中央で炎が揺らめいている大剣だ。両手持ちだけど、分厚い見た目に反して軽い。片手でも振り回せそう。


「これ、【ファイアーソード】っていうんだって」


 炎属性の魔法が付与されていて、道具として使うと【ブレイズ】……炎の竜巻を起こすらしい。これで、ソーニャさんをサポートできそうだ。


「あたしも杖の他に、オフハンドを手に入れたわ」


「オフハンド?」


「魔法使いはオフハンドと言って、補助武器を装備できるの。あたしは、魔導書にしたわ」

 

 手帳サイズの石盤を、ソーニャさんは手首にベルトで固定している。


「これ、石の板に見えるでしょ。周りに金をあしらっていて、雷属性の魔導書なのよ」


 ソーニャさんが杖の先で、薄い石盤をコツンと叩く。


 石盤型の手帳が、ひとりでに開いた。これで、魔法を撃つのか。


「攻撃は杖で行って、オフハンドは基本的に補助や付与で用いる予定よ」


「すごいね。一気にパワーアップだ」


「あんたのレアドロップのほうが、すごいわよ。もっと自分の強さに、自覚を持ちなさいっ」


 ボクが褒めると、ソーニャさんが顔を真赤にしてボクをたしなめた。

 なんなんだろう?


「いったん、おやつにしましょう。疲れたわ」


 夕方になる前に、オープンカフェで一服することに。


「王都には、なにがあるの?」


「色々あるわよ。装備も、こちらとは比較にならないものが揃っているわ。ヨロイも充実していると思うから、防具はそっちで本格的に揃えましょ」


 今はアクセサリなど、ここで使えそうなアイテムを見繕った。


「ヨロイも、向こうで換金?」


「そうなるわね。あちらでは、使い物にならないかも」


「わかった。他には?」


「話題があるとすると、ワイルドウィザードの迷宮かしらね?」


 シフォンケーキを頬張りながら、ソーニャさんは空を見る。

 

「どんな場所なの?」


「二〇年前、王国を脱走した【ワイルドウィザード】 ボボル・ギソが、お城の地下に迷宮を作り出したの。今でも迷宮は健在で、国王はギソを倒せる精鋭を集めているそうよ」


 今のところ、名声を上げるならギソの迷宮だろうとのこと。


「とりあえず、ギソの迷宮を目指そうか」


「そうね。行くところがないなら、そこでトレーニングしましょ」


 ボクたちは、世界平和なんて大きな目標はない。


 ギソは倒せなくても、強くはなれるはずだ。

 


 最後に、ロイド兄さんに会いに行く。


「兄さん、お久しぶり」


「お、おう」


 ロイド兄さんは、まだ顔つきに生気がない。大丈夫なんだろうか?


「食事は、取れていますか」


「消化のいいものならな」


 ちゃんと、食べてくれているようだ。しかし、まだ精神的には本調子じゃないみたい。

 

「ボクは、王都へ行ってきます」

 

「おう。気を付けてな」


 相変わらずの、生返事ぶりだ。冒険に、興味を示していないみたいである。

 

「ではボーゲンさん、よろしくお願いします」


「おう。任された。気を付けてな。そうそう。王都に知り合いがいるから、頼るといい」


 ボーゲンさんが、紙をくれる。


「お友だちがいるんですね?」


「そうさ。王都にいた頃の知り合いでね。現在、ギソの迷宮を攻略中のはずだ」


「ボーゲンさんは、ギソの迷宮には?」


「五年前だったか。入ったけど、道に迷ってね。それで、リーダーはセーコを勧誘したんだよ。それでも、ギソの迷宮攻略は難しかった」


 ワイルドウィザードの迷宮と言うだけあって、魔法使いには相性のよくない場所だったらしい。


「今も、セーコがいるからね。キミたちでも、それなりに進めるだろう」

 

 セーコさんを引き止めて、よかった。

 もしセーコさんが動けなくなったら、ボクたちはダンジョンに入ることさえ難しかっただろう。


「その二人は変わり者でな、ガイドがいないながら潜ってる。敵からのドロップアイテムを掘れるスポットを発見して、そこでずっとアイテムを集め続けている」


 色んな人が、ダンジョンに潜っているんだな。

 

 

 

 翌日、ヘッテピさんが帰ってきた。ゴーレムに乗って。

 

「よお。今帰ったぜ」


 ヘッテピさんはこのまま、王都へ引っ越すという。商品や荷物を、アイテムボックスにまとめた。


「出世したら、王都で店を買うって決めていたんだよ。ちょうどコイツで大儲けできたんで、王都でやっていくぜ」


「すごいですね」


「お前さんの方が、すごいぜ。んじゃ、しっかり捕まっていなよ」


 ボクとソーニャさん、セーコさんを、ヘッテピさんはゴーレムに乗せる。


 王都へ向けて、ゴーレムが移動を開始した。



(第二章 完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る