第三章 狂乱の魔術師のダンジョン

第21話 竜人族の騎士と、鳥人族の僧侶

「ヒューゴ、ここが『水の都』こと、王都シュタルクホンよ」


「うわあ。大きいね」


 ボクたちは、王都に辿り着いた。


 ヘッテピさんにトロルトゥースを用意せよを依頼したのは、船を進ませる水路を作るためなんだって。


「ここか海外からも、冒険者が来るからね。彼らを通すために、水路が必要なんだ。それもこれも、【ワイルドウィザード】ことボボル・ギソ討伐するためなんだよ」


 街を案内しながら、セーコさんが教えてくれた。


 ボボル・ギソは、かつて王に仕える魔術師だったという。

 しかし、なぜか王様を裏切った。彼は城の地下に迷宮を作って、今も引きこもっている。


 こんな美しい街の地下に、大迷宮があるなんて。


 まだ、ボクは信じられないよ。


「未だに、ギソの目的はわからないんですよね?」


「ああ。だが国王は街の一大事だと、世界各国から屈強な冒険者を募っている。騎士団も派兵されたみたいだが、みんな返り討ちに遭った。ウチのパーティにも一人、騎士がいたんだけどね」


 ボクたちが話をしていると、カフェからこちらをまねこうと手を振っている人物が。 


「おお、セーコじゃん! おひさー!」

 

 ハルバートを持った女性が、酒場でこちらに声をかけてきた。【竜人族ドラゴニュート】の少女である。ドラゴニュートとは、ドラゴンと人間との間にできた子どもで、もとを辿れば伝説の英雄の血を引いているらしい。

 勇者ともなると、添い遂げる相手はドラゴンなのかも。あるいは、高貴なお姫様に見初められた、オスのドラゴンって場合もある。

 とにかく、ドラゴンとヒト属って、案外愛し合うことがあるみたい。


「キルシュ? お前さん、ひょっとしてキルシュかい?」


「そうそう。ようやく【ナイト】になったよー」


 少女はナイトと言っているが、見た目は超ギャルっぽかった。二年前に、ナイトになったという。

 

「おめでとう。これで一人前の冒険者だね」


「そうなんだよね。後ろの子たちは、セーコの仲間?」


「ああ。男の子がヒューゴに、女の子がソーニャだよ」


「息子さんが、いなかった?」


「あの子は小さいから、故郷においてきたよ。でもね。彼女ができたんだよ!」


「やるじゃん! さすがセーコの子だね! ダークエルフだから、モテるんかね?」


「それもあるだろうね」


 セーコさんが苦笑いをした。

 

 

「みんなは、はじめましてだね? ウチ、キルシュ! キルシュネライト・ブルメ。こう見えて、【ナイト】。騎士だよー」


 キルシュが、両手でVサインをする。


「ボクはヒューゴだよ。よろしく」


「ソーニャよ」


 ボクたちがあいさつをすると、キルシュが「いえーい」とボクらの手を取って握手してきた。二人いっぺんに。


「二人は、強いね」


「わかるの?」


「あたりきじゃん。ウチだって、鍛えてるからね」


「どうして強くなりたいの?」


「うーん。竜人だから」


 竜人族は、強くないといけないという。子どもすら、作ることを許されない。


「ウチは落ちこぼれでさ。竜人の中では弱い方なんだよね」


 キルシュのおじいちゃんは、竜人の一族を率いる王様らしい。

 でもキルシュの家族は弱すぎて、家を追い出されたという。


「だから、ここで鍛えてる。ぶっちゃけ、ギソは後回し?」


「いいの? そんなんで」


「いいって。ギソは脱走した以外に、何もしてないんだし」

 

 国を裏切ったが、なにもギソは反旗を翻したわけじゃない。国家転覆をはかるつもりはないという。ただ、魔物を地下に呼び出した程度だ。


「ギソが呼び出した魔物ってさ、地下から出られないんだよね」


 魔物を呼んだものの、弱い魔物以外は瘴気が強すぎた。そのため、太陽の光に弱いのである。 


「キルシュは、セーコさんとパーティだったの?」


「ううん。ウチのオヤジがパーティだったんだよね」


 キルシュの両親は、現在シュタルクホンの近衛兵なんだとか。大出世である。


「未だに、ギソが国王を裏切った理由は、わからないと」


「うん。パパも『そもそもギソがどこにいるのか、まったくわからない』って」


 セーコさんが、首をかしげた。

 

 どうして国王がギソを討伐したいのか、謎なのだ。ぶっちゃけ、無害なのに。

 ギソの目的も、あやふやである。ウワサだけが、独り歩きしている状態だ。


「たとえば?」


「ギソが、お妃様とねんごろになっちゃったとか。でも、パパが言うにはありえないって」


 王妃は夫を愛していて、不貞を働く女性には見えないという。そもそも魔術舎に寄り付かないため、王妃はギソと面識自体がない。

 


「で、あんたは」


 キルシュという騎士の隣に立つのは、タキシードを着たダチョウ頭の男性だ。ダチョウの頭ではあるけど、首までは長くない。首は、人間サイズである。

 

「ワタクシはヴィクドインヌ=メロー・サヴィニャック。鳥神サヴィニャックに仕える、【プリースト】です。以後、お見知りおきを」


 ダチョウさんは、ヴィクドインヌと名乗った。『メロー・サヴィニャック』とは、「神であるサヴィニャックに仕える」という意味らしい。


「ワタクシのことは、ヴィクとお呼びください」


ハリョール村のヒューゴヒューゴ・ディラ・ハリョールです。よろしく」


「敬語は結構ですよ。ほう。ハリョール村の。ひょっとしてロイドさんの?」


「ヴィクは、兄を知っているのです……知っているの?」


「はい。彼は、気の毒でした」


 どうやらヴィクは、ロイド兄さんと知り合いらしい。

 

「数年前まで、ワタクシはロイドさんたちとパーティを組んでいました。キルシュの面倒を見るため、ワタクシはパーティを離れたのです。今思えば、ヒーラーのワタクシがあの離脱すべきではなかったです」

 

「ムリだよ。ヒーラーから真っ先にやられるよう、セットされていたらしい」


 悔やんでいるヴィクを、セーコさんがなぐさめる。

 

 財宝の呪いは、神に仕えるヒーラーを優先して狂わせるように、呪いがかかっていたのだとか。


「いったい誰が、その呪いを?」


 キルシュが「それがね」と、会話に入ってきた。


「ロイドたちが見つけた財宝に呪いをかけたヤツが、ギソらしいんだよね」

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