第22話 狂乱の魔術師ダンジョン 第一層

 キルシュの話は、本当なんだろうか。


「ギソが、ロイド兄さんの見つけた財宝に呪いをかけた、だって?」


「ていうか、ギソってさ、あらゆるマジックアイテムに呪いをかけまくって、世界中にばらまいたそうだよ」


 その一つを、ロイド兄さんたちは見つけてしまったらしい。


 マジックアイテムに呪いがかかっているかどうかは、僧侶などのヒーラー職にしか分析できない。


 ボクやセーコさんでも、アイテムが呪われているか多少はわかる。けど、本職ほどではない。複雑な仕掛けがされていては、熟練のセーコさんでも見分けがつかないだろう。


「どうして、そんなことを?」


「わかんない」


「フルドレンみたいに、魔王復活に傾倒していたとか?」


「ギソの一族は、魔王を倒した側だよ?」


 キルシュによると、狂乱の魔術師ギソの先祖は、魔王を倒した術者らしい。


「だから、【ワイルド・ウィザード】と呼ばれています。とにかく行動目的が不明でして」


「ホントに、ワイルドすぎるな」


 ヴィクとセーコさんが話し合う。


「冒険者たちに国王が出した依頼ってのが、ギソを倒すことと、ギソがばらまいた呪われた財宝の回収だったんだよ」


「ですから、ギソを追求する班と、お宝を探す班で別れたのです。それがいけなかった。ボーゲンの忠告に、従うべきでした」


 ヴィクが、話を締めた。


「さて。湿っぽい話は、そこまでにしようか。ヒューゴ、ソーニャ。腹が減っただろ?」


 とにかく、昼食がまだだった。

 なのでキルシュとヴィクの二人に、カフェのオススメを教えてもらう。

「シーフパスタ」っていう、大皿に乗った肉団子のパスタを、キルシュが注文した。


 ボクたちは、小皿にパスタをシェアし合って、口の中へかきこむ。おいしい! 肉肉しくて、食べても食べても飽きない。

 

「これを食べて、まずは一層を攻略しちゃおうか」


 キルシュだけ、まるまる一皿平らげてしまった。


 食事を終えて、ボクたちはギルドで登録をする。

 ダンジョン通行許可証と、攻略の手引をもらう。


 このダンジョンには許可証が必要で、「今日はここまで回りました」とマッピングまで自動でしてくれる。でないと、遭難したときに調査隊を派遣しなければならないからだ。なんか、登山届けみたいだね。


「えーっと、『全部で一〇階層まであるダンジョンを進んで、地下一〇階にいるギソを倒せ』だって」


「わかった。じゃあ、オイラは店の準備をするから。帰ったら、寄ってくれよな」


 鍛冶屋のヘッテピさんが、王都の物件へと向かう。


 ダンジョンの入口は、ギルドの隣にあった。


 間違えてギルドより先に入ってしまわないように、門番さんが立っている。


 通行許可証を差し出して、ダンジョンの中へ。


「うわあ、思っていたより広いね。天井も高い」


 また、ダンジョンには多少の鉄骨が使われている。お城でもあまり使われないくらいなのに。

 見た感じ、ダンジョンはかなりしっかりした作りのようだ。

 

「いきましょ。【ファミリア】のフェアリーが案内してくれるわ」


 ソーニャさんが、使い魔を先に向かわせる。

 

「敵が来たわ!」


 フェアリーがピューと引き返してきたのを確認して、ソーニャさんが身構えた。

 

「人間だ!」

 

 五人組の敵が、ボクたちの前に。コボルト族の盗賊と、人間の戦士である。犬の頭をした盗賊の中には、弓を構えているものも。


「人間同士の殺し合いなんて」


「遠慮しなくて、構いませんぞ」


 ヴィクがいうには、彼らはホムンクルスらしい。ギソに敗北した冒険者たちをベースにした、人造人間だという。


「【マン・アット・アームズ】と、【コボルトシーフ】だね」


 把握した。


「【ファイアソード】を喰らえ! 【ブレイズ】!」


 ボクは、ファイアソードを道具として扱う。


 それだけで、マン・アット・アームズの一団が半壊する。

 数名が、恐れをなして逃げていった。


 コボルドシーフは、ソーニャさんの【チェイン・ライトニング】で黒焦げに。

 弓使いも、どうして自分の弓が味方を攻撃のかわからないまま絶命した。


 ヤツの弓が放たれた瞬間に、ソーニャさんがその矢に向けて魔法を放ったのである。


 雷魔法が篭った矢が、コボルトの集団を貫き、最後に残ったアーチャーを突き刺したのだ。


「すごいね。ウカウカしていられないよ」


 キルシュが、ハルバートを別方向へ向ける。


 ワーラットの戦士が、増援で現れた。一匹一匹はボクより小さいが、一〇〇体から出てくる。


「見ててよね」


 キルシュがハルバートをぶん回す。


 ワーラットが、面白いように吹っ飛んでいった。誰一人、キルシュに傷一つつけられない。


「だいたいみんな、ワーラットの戦士の群れにビビって、逃げていくんだよね」


「ワーラットだけでは、ありませんぞ」


 続いて現れたのは、スケルトンの兵士だ。これも、冒険者の成れの果てか。

 民間人に犠牲者が出ていないのか、ゾンビなどの類いは現れない。

 

「我に加護を!」


 鳥人族の神【サヴィニャック】に祈りを捧げ、ヴィクが翼を広げた。

 ヴィクの頭上が輝き、【天使のハシゴ】がスケルトンたちに降り注ぐ。


 ハシゴに触れたスケルトンたちが、砂へと変わっていった。


「いえーい」


 キルシュが、ヴィクとハイタッチをする。


「みんなもやっぱり強いじゃん」


「でも、レアアイテムは出てこなかったね」


 第一層の敵は、ボクたちでは問題なかったみたい。

 

「キルシュ、ヴィク。あんたらは、どこまでいったんだい?」


「二人旅だからね。七層辺りだよ」

 

「キルシュ。あんたそこは、ハズレ階層じゃないか」


 セーコさんが、妙なことを言い出す。

 

 なんだろう、ハズレって?

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