第46話 最後の一撃

 ボクは、邪神に斬りかかる。

 敵が大きかろうと、関係ない。迷わず、剣を突き刺しにかかる。

 

 邪神ギソ一世。コイツだけは、絶対に許さない。


 だが、邪神の周りを赤黒い障壁が包む。

 障壁は粘り気があり、攻撃がほとんど通らない。


『ムダだ! この障壁は、あらゆる物理・魔法攻撃も通じぬ!』

 

「だったら、コイツはどう?」


 ドラゴン化したキルシュが、大きく息を吸い込んだ。


「みんな、どいて! 最初っから、飛ばしていくよ!」

 

 黄金色のブレスを、キルシュが吐き出す。


『ぐおおお!』


 邪神を取り囲む障壁が、破壊された。


「どんなもんよ!」


 キルシュがフーッと、煙を吐く。


「すごいね、キルシュ!」


「じいさまに頼み込んで、ドラゴン化する方法を教わったもんね」


 ボクたちが修行・転職している間に、キルシュたちも故郷でレベルアップに励んでいたという。


「訓練していたのは、あなたたちだけではありませんぞ」


 邪神の反撃によるパンチを、ヴィクが魔法障壁で完璧に弾く。

 

『こざかしいまねを。おとなしく塔と運命を共にできなかったこと、後悔するがよい』


 巨大化した邪神が、腕を振り上げた。

 赤い空から、黒い雷撃が落ちてくる。


「やっば!」

 

 キルシュが、ボクたちをかばった。雷撃を、まともに浴びてしまう。


「おお、こいつはヤバいね」


 パワー切れを起こしたのか、キルシュが縮んでいく。変身が解けて、素っ裸になってしまった。


「キルシュ!」


 ヴィクが、キルシュを抱きかかえ、着地する。


「すいません、あとは頼みます!」

 

「わかった!」


 あれだけ、ダメージを与えてくれていたら、十分だ。


『人間の分際で、二人だけで神に挑むとは。たった二人で、なにができるというのか?』

 

「二人だけじゃない!」


 ボクには、たくさんの仲間たちがいる。


 ボーゲンさんも、エレオノル姫様も、みんな味方してくれているんだ。


『おろかな。たとえ世界中の人類を集めたとしても、この邪神の侵攻は止められぬ』


「止めるさ」


 ボクたちなら、それができるはずだ。


『ならば、ドラゴンすら退ける、我がイカヅチを喰らうがいい!』


「それなら、もう見たわ!」

 

 赤い雷撃を、ソーニャさんが引き受けてくれた。

 

「ソーニャさん!?」


「こっちは、構わないで! 思い切り行きなさい!」


 ソーニャさんの服が、ボロボロになっている。杖も、ズタズタだ。

 

「あたしは、賢者よ! 一度見た魔法は、対策できるわ! あんたは、やつにトドメをさすことだけ考えなさい!」


「……はい!」


「相手だって、必死なのよ! さっきの雷撃も、二発目は威力が大幅に落ちていたわ!」


 邪神の顔が、歪む。どうやら、本当のことらしい。強力な攻撃であるがゆえに、消耗も激しいんだ。

 

 最後の力を振り絞って、ボクは剣を構えた。

 神殺しを、もたらせ。

 もっと。もっとだ。まだまだ力を引き出す。


【リーンフォース】で、全身の筋力を上げた。

【エンチャント】で、聖属性を剣に付与する。


「【ディサイド・ブリンガー】!」

 

 最後は渾身の力を込めて、剣をふるった。トドメの【ウェーブスラッシュ】、衝撃波を撃ち込む。


 相手の魔法障壁は、キルシュが潰してくれた。

 ヴィクの障壁が、ボクを包んでくれている。

 ソーニャさんが避雷針となって、相手の魔法を引き受けてくれた。


 三人とも、限界だ。


 ボクが決めないと。


『こしゃくな、木っ端が!』

 

 だが衝撃波は、巨大なガイコツ状の手により虚しく止められる。

 やはり、敵のサイズが大きすぎるのだ。


 とはいえ、こちらにはまだ秘策がある。

 衝撃波だって、まだ完全に消えたわけじゃない。


「からのお! 【ツバメ返し】!」


 ボクはさらに、衝撃波を押し込んだ。もう一度、【ディサイド・ブリンガー】を撃ち込む。


 X状になった衝撃波が、今度こそ邪神を八つ裂きにする。


『ぐおおおおおおおお!?』


 邪神が、十文字に切断された。


『人間の攻撃が、神に届くとは。貴様は、伝説の勇者か? それとも、古の神の血を引き継いでいるのか?』


「……ボクは、ただの百姓だ」


 特別な力なんて、なに一つ引き継いでいない。

 勇者だとか、英雄だとか、そんな存在からは、ボクはもっとも程遠いだろう。


「お前の敗因は、ボクの兄を廃人にしたことだ」


 それでボクに目をつけられ、トドメを刺された。それだけのこと。


『ぐああああ……』


 邪神がだんだんと、しぼんでいく。人間サイズのガイコツとなった後、灰になって消えた。


「終わったね」


 陸に降りた途端、ボクの背中から羽が消えた。ソーニャさんの背中からも。

 ヴィクの言っていた、鳥人族の神の加護が消えたのだろう。

 

「ええ。これは、なにかしら?」


 一本の杖が、残されている。


「賢者になるための杖と、同じ形ね」


 ソーニャさんの杖に形状は似ていたが、なんだか魔物の骨を連想させた。いかにも呪物、といった見た目である。


「どうやらこれが、ギソを邪神に焚き付けていたんだろう」


 杖は力を失ったのか、粉々になって消えた。

 

 ただの人間が、神に近い力を得る。よく考えれば、恐ろしいことだ。


 しかし、ボクだってただの人間だ。闇に取り込まれることなく、生き延びることができる。


 特別な力なんて、なくたって。

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