第36話 VSデーモンプリンス

 まずは、デーモンプリンスを。操られているエルンスト王子を、倒さないと。


 だが、もうヒザが動かない。


 と思ったら、ヴィクが回復魔法を施してくれた。


「この、バカヒューゴ!」

 

 同時に、ソーニャさんに杖で小突かれる。


「あいた! こんなときになにするんだよ、ソーニャさんっ」


「こんなときだからよ! あたしが何も知らないと思ったの!? このバカ!」


 やはりソーニャさんは、ボクの異変に気づいていたか。


「まったく。【身体強化レインフォース】で上がった程度の身体速度に、我が神の治癒魔法が間に合わないとでも?」


「ついてこられるの? ボクの動きに」


「あのねえ、あたしだって、ボーゲンの弟子なのよ! 孫娘ってだけじゃないの。ボーゲンにできるなら、あたしにだって!」


 ボクは、ソーニャさんを見くびっていたかもしれない。


「ヴィクは? 大丈夫?」


「この、ヴィクドインヌ。鳥神サヴィニャックに仕えるプリーストですよ? 我が崇拝する神サヴィニャックに、不可能はありません」

 

 なんだか、二人とも頼もしい。


「相手だって、ギソが裏でバフを掛けているのです。こちらも、バフのマシマシでまいりましょう」 


「そうよ。一人でやっててもしょうがないでしょうが」


 二人の言うとおりだ。ボクはいつの間にか、自分だけで戦わなくちゃって思っていた。他人に、身を任せてもいいんだ。パーティなんだから。


「身体強化はあたしが唱えてあげるわ。あんたの中途半端なパワーアップより、幾分かマシなはずよ」


 ソーニャさんが、ボクにレインフォースをかけてくれた。


 すごい。身体能力も、魔法の持続時間も、ボクより高い。


「これで、アンタは武器への付与魔法に全力を注げるでしょ? やっちゃいなさいよ」


「この二人は、ウチがしっかりカバーしておくから。二人も守らなくちゃって、思わなくていいからねっ」


 キルシュが、二人の前で槍を構えている。ボクがしくじったら、キルシュが補助してくれるみたいだ。


「ありがとう。ソーニャさんとヴィクをお願い、キルシュ!」


「あいよ」


 キルシュが、セーコさんと合図をした。


「セーコ、いざとなったら煙幕。あと、敵の動きの見極めをお願いね」


「任せな。ヒューゴ、左!」


 さっそく、セーコさんから指摘が飛んだ。


 ボクは、デーモンプリンスの剣を弾き飛ばす。

 ソーニャさんがレインフォースで強化してくれたおかげで、ちっとも痛くない。自分だけで剣を受け止めていたら、腕が粉々になっていただろう。


「お返しだ!」


 受け流した拍子に、剣で敵のノドを突く。


 しかし、これは相手に止められてしまった。

 

「打ち込みが甘いよ、ヒューゴ! まだ、相手が応じだと思っていないかい?」


「はい! やらかしました!」


「反省は後! 前に立てているだけでも、アンタはすごいからね! かち上げが来るよ!」


 デーモンプリンスが、下からすくい上げるように剣を振るってくる。


「この動き、利用させてもらうよ。【ツバメ返し】!」


 相手の剣戟を受け止めつつ、振り下ろす力に変えた。


 さしものデーモンプリンスも、かわしきれなかったようである。肩に、深い傷が入った。


 とはいえ、まったく安心できない。相手はまだ、腕が死んでいなかった。


「浅かったか!」


「いや。ダメージは通っているよ。アンデッドだから、ムリヤリ動かされている」


「浄化魔法などは、効かないですよね?」


「ギソに操られている、だけだからね。ギソを探したほうが早い。今、やってる」


 セーコさんは、後ろからアドバイスをしているだけじゃない。ギソの気配を、王女やザスキアさんと探り合っているのだ。


「このフロアのどこかにいるのは、確実なのです。しかし、どこにいるのか……!?」


 エレオノル王女が、急に総毛立つ。


「ヒューゴさん、ザスキア!」


 ボクとザスキアさんに、エレオノル姫が合図を送った。


 ザスキアさんと、ボクはうなずき合う。


 狙うは、デーモンプリンスの足元だ。


 ボクは前、ザスキアさんが後ろから、足に向けて攻撃した。


 ザスキアさんの刀を、デーモンプリンスが跳躍して回避する。


 そのスキに、ボクが剣で王子の腹を突く。


「今です、姫!」


 ボクは、王子から飛び退く。


 エレオノル姫が、王子の足元を撃った。王子の影に、魔法の銃弾を浴びせる。


「ギュオ!?」

 

 目を押さえながら、ギソが王子の影から実体化した。


「やはり、そこにいましたか。ボボル・ギソ」


 ボボル・ギソは、空間を操る魔法使いだ。ならば、空間を捻じ曲げでどこかに潜んでいる可能性がある。まして王子に対して強力なバフをかけるなら、至近距離でなければならない。

 となれば、可能性は一つ。王子の影となって張り付いていればいい。


 王子の身体が、壊れた人形のように崩れ去る。


「見事だな、エレオノル。さすが王家の血を引く者だ。しかしお前は、自らの手で兄を葬ったことになるのだ」


 ギソが、不愉快な笑い声を上げた。


 しかし姫は、毅然とした態度をとる。


「構いません。わたくしは兄を殺したのではない。兄を天に返したのです」


「……王家の最強伝説も、今日で終わる。兄妹もろとも、あの世に送ってくれる!」


 いよいよ、ギソとの本格的な戦いが始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る