第17話 ボスは、アイアンゴーレム

 フルドレン探索は置いておき、ひとまず鉱物を探す。


「ふむ。あらかた削られているなぁ」


 めぼしい鉱物は、手に入らない。

 

 掘り返した土をいじりながら、ヘッテピさんがつぶやいた。


「ヒューゴ、どう思う?」


「例のフルドレンが、なんらかの作戦としてトロルトゥースを採掘した可能性が、ありませんかね?」


「だよな。採掘の形跡が、限定的すぎる。明らかに、トロルトゥースを狙った採掘だ。知っているやつでしか、こんな掘り方はしない」


 その証拠に、採掘現場には貴重な魔法石が散乱している。魔力のこもった鉱石にも、目もくれていない。


「もったいねえから、もらっていくけどよ」


 ヘッテピさんは自分のアイテム袋に、散らばっている魔法石や鉱石を詰め込んでいく。


「トロルの末裔……フルドレンの可能性がでかいのかい?」


 セーコさんが、ヘッテピさんに問いかける。


「かもな。トロルトゥースってのは、加工がムズい。冒険者の子どもをオークに誘拐させていたのも、単に足止めしていただけかもな」


「トロルトゥースを掘るためだけに、ってわけかい?」


「ああ。本命は、トロルトゥース掘り」


「何のために?」


「そこまでは、わからねえ。だが、トロルトゥースの用途はわかるぜ。あれは元々、武器としての用途は低いんだよ。使用価値があるとすれば、建築用なんだよな」


 城や城壁の骨組みとして、トロルトゥースを用いるのかな?


「オレがトロルトゥースを探しているのも、街の壁を補強するように領主様から頼まれていたからなんだ」


「建材として、重宝するのか?」


「違う。建築する装置を作成するためだ」


 トロルトゥースは重いながら、魔力伝導率が高い。そのため、金属でできた装置の骨組みとして活用されれるのだ。

 重機など、そちらの部品として役立つ。

 ウチの水車や風車などにも、トロルトゥースが使われているんだって。


「あたしのお屋敷にある車という乗り物にも、トロルトゥースという金属が使用されていると聞くわ。あまり乗ったことないけど」


「新しいものって、あんまり興味ない感じ?」

 

「魔法があるからよ。自分であれこれする方が、楽しいもの」


 馬車を活用するより、ホウキに魔法を込めて浮遊するほうが、ソーニャさん的には面白いのだという。文明に否定的ってわけじゃないけど、コントロールできる方が好きらしい。


「建築装置って言ったら、例えばゴーレムみたいなものでも?」


「ああ。トロルトゥースっていったら、ゴーレムっていう奴らもいる」


 トロルトゥースで作ったゴーレムを、【トロル】と呼称していたという伝承まである。 

「ゴーレムって、あんな感じですか?」


 ボクは、ヘッテピさんの後ろを指差す。


「そうそうあんな……って逃げろおおおおお!」


 ヘッテピさんが、ボクとソーニャさんの腰を抱え上げた。一目散に、洞窟から脱出する。


 洞窟から脱出したと同時に、入口が爆発音を上げた。通路が、土砂で塞がる。

 

「おいでなすったか、ゴーレム!」


「あれが、ゴーレムなんですか? ヘッテピさん?」


「ああ。アイアンゴーレムだ」


 ボクたちの前には、ズングリムックリした鉄の塊が立ちはだかっていた。なんだこの化け物は? 今まで見たことのない形の、魔物である。


「よお、ヘッテピ! そっちにゴーレムがいなかったか?」


 冒険者の一団が、王都へ続くルートから現れた。王都への道を塞ぐモンスターを討伐するチームである。



「おう。このヤロウ、こっちまで逃げてきたようだな」

 

「ようやく、追い詰めたぜ。こいつをしょっぴいて、お宝をいただく!」

 

 ボクたちの元まで、冒険者の一団がやってきた。


 ゴーレムの頭上にある、ハッチが開く。

 中から、牛の角を生やした男が現れた。

 

「クソが! セーコの息子をさらったってのに、しくじりやがって! おかげで、コイツまで駆り出すことになっちまった! これでは、ゴーレムが量産できん! 王都を襲撃する計画が、台無しだ!」


 どうもこの男が、セーコさんの息子をオークに誘拐させた張本人のようだ。王都への道を通せんぼしていたのも、コイツか。


「フルドレン族! おとなしく俺たちに捕まりやがれ!」


「うるさい。我がアイアンゴーレムの、練習台になってもらおうか!」


今度は逃げず、ゴーレムは冒険者たちに立ち向かうつもりらしい。


 それにしても、変な形だな。頭なんて平べったく、樽のフタみたいだ。手も、マラカスを握っているような形状である。


「死ねえ!」


 冒険者たちが、飛びかかった。


 マラカスのような手から、突起物が現れる。


「ストーム・コレダー!」


 突起物から雷が巻き起こり、冒険者たちを直撃した。


 ボクたち以外の冒険者が全員、黒焦げに。

 

「みんな、平気?」


「ファミリアが安全地帯を見つけてくれて、助かったわ」


 ソーニャさんだけでなく、セーコさんやヘッテピさんも、土を掘って回避していたようだ。


「あんた、すごいわね。あの雷撃をかわすなんて」


「いや」


 ボクは遠くにいたから、たまたま回避できただけだ。

 ゴーレムの間近にいたら、ボクも死んでいたかも。

 

「生身の人間ごときに、我がアイアンゴーレムは打ち破れぬ!」

 

「やってみなけりゃ、わかんないよ!」


「なんだとガキが!」

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