第18話 ツバメ返し

 ボクは剣を構えて、ゴーレムを迎え撃つ。


「みんなは、冒険者さんの治療に専念して! コイツは、ボクがやっつける」


 ソーニャさんとセーコさんに、負傷した冒険者の相手をしてもらう。

 ヘッテピさんには、二人の護衛を頼んだ。


「一人でなんてムチャよ、ヒューゴ!」


 ソーニャさんが、ボクを心配して呼びかけてきた。


「ゴーレムに乗らないと何もできないやつなんかに、ボクは負けない!」


 こんなヤツ、ボク一人で倒してやる。


「なにを!? テメエなんかにコレダーを使うのはもったいねえ! 叩きつぶしてやる!」


 怒り狂うフルドレンが、ゴーレムを操った。腕をブンブンと振り回して、ボクを追い回す。蹴りも繰り出して、大きな体を活用してボクをペシャンコにしようとした。


「大丈夫なの、ヒューゴ!?」


「ボクに任せて! 問題ない!」


「わかった。もう何も言わないわ! ファミリアだけ、側につけてあげるから!」


「ありがとう、ソーニャ!」


 ソーニャさんのファミリアが、ボクの顔の側に。


『治癒はまかせろー』


 精霊は、大量の小さいポーションをリュックに背負っている。

 

「頼みます!」


「こしゃくなボケが! 喰らえ!」

 

 またゴーレムの押しつぶし攻撃が、襲いかかってきた。


 ボクはゴーレムの懐に滑り込んで、またぐらをくぐる。足を開きすぎていて、好きだらけだ。


「くらえ!」


 すれ違いざまに、太ももと腰の付け根へ剣を叩きつける。


 だが、そんな攻撃ではゴーレムに傷をつけられなかった。

 

「テメエ!」


 ゴーレムが、岩を投げ飛ばす。


「わっと!」


 起き上がったボクは、岩をかわした。

 だが、岩の破片が顔に直撃する。


「痛った!」


 顔を覆った死角に、ゴーレムのパンチが飛んできた。


「死ね、クソガキ!」


「そんな鈍重な攻撃が、当たるか!」


 ボクは背面跳びで、敵のパンチをよける。


 敵の動きは、鈍い。重みはあるが、当たることはないだろう。


 とはいえ、こちらも決定打がない。


 そこで、ボクはふとある技を思い出す。取ったけれど、使い道がないなと思っていた、【ツバメ返し】を。


 相手の弱点さえ別れば、多段攻撃で打ち込むことができよう。

 しかし、相手の急所なんてどうやって探せば……ファミリアか。たしかファミリアって、相手の弱いところを教えてくれるはずだ。


「ファミリア、危険だけど、相手の弱点ってわかる?」


『見つけ出しすのなんて、よゆー』


 精霊がサムズアップをする。 


「よし。ボクが相手の注意を引き付けるから、弱点を探すんだ」


『おけまるー』


 指で輪っかを作って、精霊がボクの話を聞きもせずに飛び出していった。こちらに注意を向けさせるって、言ったばかりなのに。


『ぺかー』


 ファミリアが、ゴーレムの真正面に。両手両足をデーンと広げて、発光した。


「なんだ、この精霊は!? アッチへ行け!」


 ゴーレムが、視界を奪う精霊を払いのける。


 その瞬間、脇のスキマからフルドレンの操縦席が見えた。あそこは、トロルトゥース鉱石が行き渡っていないようである。


「あそこだ! くらえ! 【ツバメ返し】!」


 ボクは、ゴーレムの懐に飛び込んで、一太刀を浴びせた。返す刀で、逆袈裟を見舞う。


「なにを、こしゃくな!」


 だが、相手にすぐ、こちらの狙いがバレてしまった。すぐに脇をしめられ、攻撃は防がれる。


 やはりボクのスピードでは、ツバメ返しは難しいか。


「このヤロウ、もう容赦しねえ! ガキだろうが、死ね! コレダー!」


 自分さえ被害が及ぶかもしれないのに、ゴーレムは至近距離で雷撃魔法を発動した。


「うわああああああ!」

 

 ボクはとっさに、フードの中へ身を隠す。


「どうだ、くたばったか、ガキ……イィ!?」


 魔法を退けるフードによって、ボクはどうにか雷撃の嵐から逃れることができたようだ。

 その代わり、フードはチリになってしまったが。


 とはいえ、ゴーレムの動きがさらに鈍っている。攻撃するなら、今しかない。


「いちかばちか。やってやる! 【爆炎撃】!」


 ボクはゴーレムの脇に、爆炎撃を叩きつけた。


 ゴーレムの腕が、爆発によって持ち上がる。


「からの、ツバメ返し!」


 がら空きになった操縦席へ、ツバメ返しで切りかかった。


 閉所で逃げ場のないフルドレンは、そのままボクの剣で斬られる。


「おのれ。そんな技を……」

 

 フルドレンが死んで、ゴーレムも動かなくなった。


「見事だぜ。たいしたやろうだ、ヒューゴ」


 報酬として、見たこともない大金をもらう。魔法石も、おまけしてくれた。


「旅をするんだろ? 少ないが、もらってくれ」


「でも、いいんですか? トロルトゥースが、採れませんでしたが」


「あるじゃねえか。ここによ。どっこいしょっと」 


 確実にフルドレンが死んだことを確認して、ヘッテピさんがゴーレムに乗り込む。


「これをトロルトゥースとして、提供することにするぜ」

 

 ヘッテピさんは、このまま王都にゴーレムごと、トロルトゥースを差し出すそうだ。


「すばらしい働きだったぜ。こいつは俺が、責任を持って王都へ届けてこよう。騎士の詰め所に報告にも行かんと。んじゃ、王都に向かうんなら、そっちで会おうぜ」


 生き残った冒険者たちと、ヘッテピさんは王都へ向かう。


「じゃあ、私は街へ帰るよ。事が済んだら、アンタたちはこのまま王都へ進みな」


「え?」


 王都に迎えと?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る