第31話 故郷での宴

 セニュト・バシュ遺跡へ向かう前に、一旦故郷へ戻ることに。


 ハリョール村では、長男夫婦が迎えに来てくれた。


「どうもみなさん。よくおいでくださいました。ですが、これだけの人数が、我が家に入りますかどうか」


「お気遣いなく。我々は、宿を取っておりますので」


 姫様は、宿屋を使うという。


「えーっ? 姫様、こっちで一緒に寝ないの?」


 キルシュが、エレオノル姫にダル絡みする。まだ一滴も飲んでいないのに。


「ムチャを言うな。キルシュ。お姫様などを村に泊めたら、この家が注目されてしまう。離れたほうが、この家主のためになるのだ」


 ザスキアさんが、キルシュをたしなめた。


「えーっ。風呂ぐらい、入ろーぜっ」

 

「宿でいただくんだから、自重しろ」


「メシ、ワンチャンッ」


 どうしても、キルシュは姫様とお話がしたいみたいである。


「わかりました。家主、今夜はこちらで宴をしたいと思います。準備はこちらでいたしますので、ムリを言って申し訳ないのですが」


「構いませんよ。コチラに寄るというお話はヒューゴから聞いていましたので」


 すでにバーベキューの準備を、始めているという。

 

 さすが我が長男だ。頼りになる。

 こういう性格だから、長男は村でも重宝がられていた。


「あの、ソフィーアお嬢様」


「お気になさらないで。こちらでお休みさせていただきますわ。今日のあたしはソフィーアじゃないわ。ただの町娘ソーニャとして振る舞うのでそのつもりで」


「わかりました。ソーニャさん」


 長男も、ソーニャさんの押しの強さにまいってしまったみたい。

 

 バーベキューが始まり、さっそくキルシュがウチの銘酒を肴に肉を食らう。


「姫様はぁ、カレシとかいないの?」


 キルシュが、さっきより遥かにダルい絡みを始める。


「今のところ、わたくしに縁談のお話は来ておりません。それより、兄のことが心配で」


「うーん。オトコっ気がないってのは、さみしいかい?」


「特に、困っておりません」


「もっと甘酸っぱいお話が、聞けると思ったんだけどなあ」

 

 キルシュが、首を傾げた。


「すいませんね。姫君よ。ずっと戦闘ばかりで、キルシュは世間話に飢えているのです」


 相棒のヴィクが、サポートに回った。彼は僧侶なのに、骨付き肉をしゃぶりつくしている。


 ここんところ、キルシュはずっと槍を振り回していた。先陣を切って、魔物を払う役割である。色っぽい話を聞きたがるのも、ムリはないのかな。


「しかも、ここの魔物は弱すぎて話にならないよ。魔物を避けて迂回するにも、かえって遠くなるし」


「じゃあ、早く出ていく?」


「でも、お酒は最高なんだよねえ」


 ボクが意地悪な質問を投げかけると、グラスを持ってキルシュはニヤッと笑った。


「ヒューゴ、この家のお酒、ちょっともらってってもいい?」


「いいよ。あのさ、キルシュっていくつなの?」


「一八歳。レベルは二〇を、超えてるけどね」

 

 やっぱり戦闘力では、キルシュがもっとも高いようだ。


「二人はさ、いくつになるの?」


「二人とも、もうすぐ一二歳だよ」


「じゃあ、愛とか恋とか、興味津々なんじゃないの?」


 キルシュが、意味深な言葉を投げかけてくる。


「ないよ。ボクは早く一人前になることが目標かな」


「あたしもね。祖父を追い抜かないと、祖父が安心して逝けないのよ」


 ボクたちの話を聞いて、キルシュがほっぺたをふくらませた。


「もっと人生を謳歌しませんか、二人ともさあ! 冒険ばかりが人生かーっ? もっとエンジョイしなよ」


「そういうあんたが、一番戦闘ゴリラじゃないの」


「そうだったー! ぐああああ。このまま戦闘狂として生きていく未来しか見えないー」


 なんかキルシュ、人生に絶望しているみたい。

 

「ここから遺跡までは、どれくらい距離があるんです?」


「順調に行けば、二ヶ月もあれば。ですが最悪、半年ほどかかります」


 なんでもエルンスト王子は、雪に見舞われたときに向かったらしく、かなりの足止めを食らったとか。

 

 とんでもない、道のりだな。


「雪がなくても、険しいゲネブカセイ山を越えていかなければなりません」

 

「なのでエルンスト王子は、かなり迂回したルートを選択なされたそうだ」


 王子は船を使って、大陸を遠出したという。


 雪の山を抜けるのは、得策ではないと考えたのだろう。


「現在、雪は収まっています。なので我々は、ゲネブカセイを抜けたいと思います」


「わかりました」


「ただ、ゲネブカセイ山には強力なモンスター、ギータが潜んでいます」


 ギータとは、ゲネブカセイ山を根城とする、ドラゴンだとか。


「それ込みで撃退していくので、ご協力お願いします」


 ルートも決定し、お風呂に入る。


 他の人たちは、みんな宿に泊まるらしい。


 ボクは一人で、桶の湯船を楽しむ。


 今日は騒々しかったなあ。今は一人で、至福の時間である。


「イヤッホー!」


「やめなさいっての!」


 そこに騒々しい二人の乙女が乱入してきた!


「キルシュ!? ソーニャさんまで」


 キルシュが、なにも身に着けない状態で現れた。両手に、ソーニャさんを抱きかかえて。


 ボクが桶から飛び出ると同時に、二人は桶にダイブする。

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