第6話 目覚め

「ん…………?」


頬に落ちてきた一滴の水滴によって目が覚めた。

朦朧とする意識を集中して辺りを見渡す。

立ち込める濃い緑の匂いが、ここが深い森の中だと教えてくれる……


記憶を手繰り寄せるのだが、外に出かけたといった類のものはこれっぽっちも出てこない……



(――確か家でゲームをしていたはずだ……

あのゲームをクリアしてまだ夕飯には少し早かったから……

そして、ニューゲームを選択したら急に眠気に襲われて……)



「いったい何が?」


立ち上がり辺りを見渡そうとするのだが、どこか自分の身体に違和感を覚える……

しかし、何がその原因かはわからない……


後ろを振り返ると巨大な石碑だろうか? 

そんな物の前に寝転がっていたことに気が付いた。


しかし普通の石碑ではない。

黒い御影石に似た石で造られているその表面は鏡のように磨き上げられ、周囲の景色を映し出している。


刻み込まれた文字は読むことはできないが、鮮やかな黄緑色に光り輝き、その光は呼吸をするように強くなったり弱くなったりを繰り返している。


「なんだ? これ……」


こんな物見たことがない……

その様子にしばらく見とれていると、その光はだんだんと弱くなり、ついには消えてしまった。


「はぁ!?」


光が消えたことにより、鏡のように磨き上げられた石の表面に姿が映し出され、そこで初めてレオンは自分の身体の異変に気が付いた。



いつの間にか服装が変わっている……

黒のロングコートに身を包み、レザー製のズボンにロングブーツ……

そしてベルトには存在感のあるバックル………


見慣れた姿だ……

そうゲームの中で――


「これってゲームの”レオン”……だよな」


視線を手や足に移動してみても、やはり服装はレオン自身が着込んでいる……

眠っている間にコスプレでもさせられたのだろうか……


背中側も見ようと体をよじるとガチャリと何かがぶつかる音が、背中から聞こえてきた。

音の要因を調べようと背中に手を回そうとすると、首の横辺りに掴める棒のようなものがあるのに気が付いた。


「?? よっと」


片手で軽々と持ち上がったそれを、無意識に正面に構える。



大剣だ――



そして、レオンにはこの大剣に見覚えがある。

そう、リリスの店ではビクともしなかった【アポカリプス】


腰の辺りにもまだ違和感があった。


「これがあるっていうことは……」


レオンは確信があったのだろう。

流れるような動きで腰の辺りに手をまわすと、グリップを掴み左手で【ダーインスレイヴ】を構える。



「いったいどういうことだよ……」


状況が全く分からない……

リリスの店では持ち上げられなかったこの2つを、今では片手で軽々と持ち上げているどころか、正直重さはあまり感じない。


それにこの服装だ……

これはゲームの中のレオンの物……

まさかレオンが”レオン”にでもなったと言うのだろうか?




「電撃よ!! 喰らい尽くせ!!!」



そんな声と共に、森の奥から巨大な虎の姿をした稲光が突如襲い掛かった。



「があああああぁぁぁぁぁ!!!!!」


そのあまりに突然の出来事に対処する暇などなかった。

凄まじい電撃はレオンの皮膚を焦がし、血液は沸騰した。


それでもまだ電撃はおさまらない。

皮膚は破裂し、様々な場所から血が噴き出した。

レオンの命を確実に喰らい尽くすべく、威力は更に増すばかりだ。



「そろそろいいだろう……」


その言葉と同時に電撃が収まり、レオンは力なく崩れ落ちた。


「これだけの電撃を受けて消し炭にならなかったのはこいつが初めてだな……」


そう呟きながら森の奥から姿を現したそれは、頭からすっぽりとローブを被った男だった。手には立派な装飾が施された杖を持ち、腰のあたりには分厚い本がぶら下がっている。


魔導師マジックキャスター――そんな言葉が自然と現れる外見をしていた。



「ククク……いやぁ俺はついてる。まさかこんな誰も来ないであろう辺境の場所で、価値のありそうな石碑を見つけただけに留まらず、こんな間抜けが恐ろしく強力そうなアイテムをもって突っ立ってたんだから……な!」


力なく倒れたままのレオンの腹に蹴りを食らわせる。

しかしレオンからは何の反応もない。


「流石に死んでいるよな! 俺の電撃を受けて生きていた者なんていねーんだよ。死体が残ったことは汚点だけどな……」


見れば皮膚などは焼けただれてはいるがその原型はほとんど損なわれてはいない。


「チッ! まぁいいや。それじゃあこの剣と銃は、俺が有効に利用するか金に換えてやるから、そのまま土にでも還るんだな」


魔導師は【アポカリプス】と【ダーインスレイヴ】に手を伸ばすが、ビクともしなかった。

更にはあろうことか、自信が張り巡らしていた魔法障壁を1つずつ破壊していくではないか。


「!!? なんだ?」


危なかった――


手を放すのがあとゼロコンマ数秒遅ければすべての魔法障壁は破壊され、何らかのダメージを追っていたかもしれない……


「こりゃあ強力なんて言葉では収まらないほどのレア物かもしれない……そうとなればこいつを何とかする手段を考えないといけないな……」


腰から下げていた本を広げると何やらブツブツと考え事を始めた。







――――っかりしろ!!


――――――おい! レオン!! しっかりしろ!!


――――――ったくクソが! 力が馴染む前にあんなもん叩き込みやがって……


誰かが呼んでいる気がする。


――――――おい! レオン!! こんなもんで死ぬようなたまじゃないだろう?


やはり呼んでいる。


「誰?」


――――――お? やっと気が付いたか


目を開けると何もない、ただただ広い空間だった。

そこに強大な鏡でもあるんだろうか? レオンが映し出されている。


―――鏡じゃねえよ……


見れば目の前のレオンはヤレヤレとオーバーなリアクションをしていた。

レオンはそんなことしていないにも関わらず……


「え? なんで?」


―――俺はお前がやってたゲームの中のレオンだ。


「???」


―――まぁいきなりわかれなんて難しいとは思うけどな。

時間がないから手短にしか言わねーぞ!! 

ゲームを始めるときに長ったらしい性格決定をしたな? 

あのおかげで俺はお前、お前は俺になった。


過去に色々あって最近のお前は自分を抑えるようになっちまったが……

思い出してみな? 

本当の内に秘めてた……家族がいたころのお前は俺みたいだったはずだぜ?


お前の気持ちに正直に生きるんだろ?

もうすぐ俺とお前は一つになる……

こうやって話すことも、もうないかもな……



お前が育てた”俺”だ!! わかってんな? 俺達にどんな力があるか?



そして俺達の剣と銃あいぼうにどんな力があるか?

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