第17話 特別な間柄
店の扉を開けた瞬間からぼやけていた視界がクリアな物へと変わる。
辺りを見渡すと、アレアの前でベルを鳴らした場所と寸分の狂いもなかった。
「す……すごいです! レオンさん!!」
アレアがレオン達を興奮しながら見つめている。
「驚いてくれたか?」
「それは勿論!!」
どうやらレオン達が異世界人だということは信じてもらたようである。
「あ! ちょっと聞いていいか?」
「なんでしょう?」
「俺達はどんな感じで消えてたか教えてくれないか? 移動することはあっても移動しているやつを見たことがないもんでな」
かっこよくスッと消えたりしてるならいいが……
どうしよう、とても言葉では表現できないような、おぞましい感じに身体が解けながら消えている……
なんて答えが返ってきたら。
興味本位で聞いてはみたが、知らぬが仏……なんてことにならないとも限らない……
レオンは聞いたことを少しだけ後悔した……
「そうですねぇ……」
アレアの答えを前にレオンは思わず生唾を飲み込んだ。
「レオンさん達の上部に黒い穴のようなものが開いて、その中に吸い込まれる……そんな感じに見受けられましたが……」
「なるほどな。そんな風になってたのか」
概ね想像通りの答えにホッと胸を撫で下ろした。
「どうだ? 俺達が異世界から来たって少しは信じてもらえたか?」
「はい! このような魔法は見たことも聞いたこともありません!これで安心して皆に知らせることができます」
「そのことなんだけどな……出来れば俺達が異世界から来たってのはアレアの心の中だけに置いといてくれないか?」
「それは……なぜでしょう?」
「俺達の今のところの目的は……この世界の様々な場所を見て回ることだ」
頭上を覆いつくす星空へとレオンは視線を向ける。
「俺が元いた世界にはこんな見事な星空はなかった。それにアレアが住んでいるこの湖もそうだ。こんなに透明度が高く、こんなにも広くて深い湖を俺は見たことがない。まだまだ俺が見たことの無い刺激がこの世界にはもっともっとあるはずなんだ。
それをこの目でみたい!」
目をキラキラさせながらアレアに語り掛けるその姿は、まるで小さな子供のようだ。
「そんな時に……異世界出身者なんて肩書は邪魔でしかないからな……行く先々で不必要に騒がれたくない。今後アレアの時みたいなことが起こらない限り、出来れば話したくはない」
「確かにそうかもしれませんね……」
アレアも同意してくれているようだ。
その言葉を聞き、少し考えるそぶりを見せると、
「それでしたら私とレオンさん達は、お互いの秘密を打ち明け合った特別な間柄と言うことになりますね」
そう言いながら明るい笑顔を向ける。
「特別な間柄か……なんか含みがありそうなんだが……そうだな。アレアと俺達は互いの秘密を共有する仲だ! なあ?お前達」
「かしこまりました」
「ハ~~イ!!」
リプスとイヴもアレアの提案に異議はない様だ。
「丁度私一人で行動をしていましたし、同族の仲間達にも見られてはいないはずです。安心してくださいね」
「ありがとう。俺達もアレア達の存在を広めるつもりはないから安心していいぞ」
「ありがとうございます」
お互いの出会い方は特殊な物だったが、幸いにもアレアと良い関係を築くことが出来た。
この世界には文明がある。
今後、様々な場所を見てみたいと思っているんだから、むやみやたらに敵を作るのは得策ではないだろう。
勿論、あの
この力に物を言わせて問答無用で世界を見て回ることは可能だろう。
でも、それでは面白くない――
ゲームだってその土地固有のミッションなんかをこなしていくことが楽しいのだ。
”バランスブレイカー”リリスはそう言っていた。
他の世界の転移者の中にはその力を使って好き放題世界を壊す輩もいたかもしれないが、俺にはそんな欲求はない。
そんな深読みをしてアレアとの関係を築いたわけでは決してないが、今後も俺はこういった行動をとり続けていくだろう……
「アレア、もう一つ聞いてみたいことがあるんだけどいいか?」
「なんでしょう?」
アレアは首を傾げている。
「異世界人だと信じてもらっておいてこんなことを言うのもあれなんだが……なんで転移の魔法をみて俺達が異世界人だと断定できたんだ? アレアの知らない魔法ってだけで、実はこの世界の魔法かもしれないだろ?」
「簡単なことです」
俺の問いかけに、アレアは自信ありげにうなずいた。
「魔法とは本来私達、人魚族、エルフ族をはじめとする者が使用していた物を、人間種も進化の過程で使えるようになっていったためです。その為、魔法の素質などから私達を凌駕する強さを持った人間種も存在しているとは思いますが、事魔法に関する知識については私達の方が恐らく5000年ほどは進んでいるかと。魔法とはすなわち、火、水、風、土、などの四大元素などの操作や、生や死を操作する特殊な力……その他様々な力達……それらを素養を持つものが自身の力で掛け合わせるなどすることによって、数多の魔法を生み出しているのです。ですが、未だ
ね?っといった感じでアレアが笑顔を向けてくる。
「そう言うことだったのか……と言うことはアレアも魔法が使えるのか?」
「フフッ」
アレアは少し意味深な笑いを見せると、右手を湖の中心方向へかざす。
かざした右手を中心に大小様々な魔法陣が幾重にも展開し、時計回りや反時計回りを各々が不規則に繰り返す。
「いでよ」
静かに……しかし力強くアレアがそうつぶやくと、湖の水が何本も柱のように立ち昇ったかと思うと、渦を巻くように収縮し、一本の巨大な水柱へと姿を変えた。
そして、巨大な水柱は一本では収まらず次から次に同じように現れていく。
「え? ちょっと……オイオイ」
これヤバくないか?
この後この水柱はどうなるんだ?
「レオン様私達の後ろに」
「ガルーー!!」
これにはリプスとイヴも黙ってみているわけにもいかず、自らの主人に何かあってはいけないと前面に出る。
「きます!!」
リプスの凛とした声が辺りに響き渡るのと同時に、その巨大な水柱達は、圧倒的な水量と鉄砲水の様な勢いの津波へと姿を変え、レオン達を飲み込もうと轟音と共に向かってきた。
「マジか!」
レオンは咄嗟に後ろを確認した。
後ろには森林が広がっている。
このクラスの津波が来れば、恐らく風景は一変するだろう……
レオンが視線を戻すと、リプスはいつの間にか前方に障壁のようなものを展開していた。
更によく見ると、リプスが剣であったころのデザインはそのままに、サイズだけが細剣へと縮小されている剣を、自身の前の地面に突き刺している。
透明な障壁の表面には、レオンには読むことのできない文字と図形が共に規則正しく配置されていた。
その横ではイヴも銃であったころのデザインはそのままに、サイズだけが通常の銃の大きさに変わっている二丁拳銃をその両手に持ち、襲い来る津波へと照準を合わせていた。
「レオン様に仇なす物には容赦は致しません! イヴ!!」
「まっかせろ~~!!!」
轟音を轟かせながら津波は依然レオン達めがけて向かってくる。
二人が力を発揮しレオンを守るべく行動を開始しようとした正にその時、突如辺りは静寂に包まれた。
見ればあの圧倒的な津波が時間でも止まってしまったかのように、レオン達の数メートル手前でピタリと止まっているではないか……
「ごめんなさい。 少しやりすぎちゃいましたね……」
アレアはそういうと右の手のひらを下に払う様な動作を行った。
すると、あの荒々しかった津波は嘘の様に、ゆっくりと穏やかな湖の一部へと姿を変えていく。
その様子をみて、二人は構えをといた。
「すっげーじゃないか! アレア!!」
そんなアレアの魔法を見て、レオンは子供のようにはしゃぐのだった。
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