第7話 レオンと”レオン”
そうか……言われて気が付いた――
俺はゲームの中のレオンを通して昔の自分に憧れていたんだ……
お調子者だったけど……曲がったことは大嫌いだった……
忘れてしまったあの頃の俺――
―――いい眼になったじゃないか。
「ありがとう……レオン」
―――何言ってんだ? お前は俺だぜ?
「ああ!」
―――じゃあとりあえず、俺達にいきなり喧嘩売ってきたアホのご尊顔を拝むとしようか?
「そうだな。俺達に……いや……俺に! 喧嘩吹っ掛けてきたことの落とし前をつけさせなきゃな!」
―――いいね! 景気良く全開でな!!
「人を雇うか? 雇うとしたら運搬系の召喚に特化したやつか? しかし、この武器の価値なんてどんな馬鹿でも見ただけでわかるぞ……ダメだ間違いなく吹っ掛けてくる……やはり自分だけで何とかするしかないか……」
「オイオイ? 自分は喧嘩吹っ掛けてくるくせに、人に吹っ掛けられるのは嫌いなのか?」
!?
近い? 一体どこから??
視線を自らの魔法で葬った男に向ける。
しかし、ピクリとも動かない……もちろんそうだ、こいつの死は揺るがない。
仲間でもいたか!? そう思い、一旦男から距離を取る。
どこからも仕掛けてくる様子はない。
しかし警戒は怠らない……魔法などが存在するこの世界では一瞬の油断は命取りだ。
即死系魔法なんて唱えられては面倒なことこの上ない。
探知魔法に反応はない……
不可視化と隠密系の魔法やスキルに特化している者だろうか?
となると……近接系、遠距離系どちらにしろ
すぐさま自身の周りに自動追尾の球体型電撃魔法を複数配置させる。
どうやら男は電撃系の魔法に特化している
いくら不可視とはいえ、攻撃をする際には不可視化は強制的に解除される。
自動追尾型をこれだけ周囲に配置すればまず近接職は近寄れない。
遠距離型ならば問題ない。
遠距離攻撃の打ち合いで自身が負けるようなことなどないからだ。
「どうした? 腰抜けめ!! コソコソと隠れていないで出てくればどうだ!?」
声が聞こえた瞬間は正直焦ったが、すぐさま自身の優位を取り戻し、魔導師は息巻いている。
「コソコソと隠れてないで……だと? それをお前が言うのか? 笑わせる……」
声は聞こえるが相変わらず探知魔法に反応はない……
いったいどこから?
周囲に視線を走らせる。
その時、視線の端で動く物を感じはしたのだが、無視して警戒を続ける。
なぜならそこにあるのは死体だからだ。
だが、その事実に反して死体はゴソゴソと動き続け、ついにはムクリと起き上がった。
そこで初めて視線を向け現実を受け入る。
しかし、少し認識は違うようだ。
「しまった!?
今だレオンを死体と思い込むのは、自身の魔法に絶対の自信を持っているためなのだろう。
「……よく見ろよ? こんな
「!? 死霊が己の意志でしゃべる!? そんなことが可能なのはかなり高位のはず……しかし媒体はなんだ? こんな人間の死体程度のみでは器にはなりえないぞ……と言うことはゾンビ化と意識支配系の魔法を併用しているとでも言うのか?」
「ざけんな!! 俺は死んでねーって言ってるだろうが!!!」
話を無視して自分の世界に飛んでいる魔導師に苛立ったレオンは、上空めがけて【ダーインスレイヴ】を怒りのままに放った。
鼓膜が破れそうなほどの轟音と共に放たれた魔力の弾は、上空を覆っていた厚い雲を貫きその衝撃で半径100mほどの大穴をあけた。
その勢いはいまだ留まることを知らず、大穴の端では栓の抜けた水の様に、厚い雲が止めどなく上空に飲み込まれている……
「な!? な???」
あまりのことに魔導師は言葉が出てこず、更に視線は上空とレオンの間を行ったり来たりとせわしない。
「二度も言わせるんじゃねーよ……」
「な!? なぜだ……お前は俺の魔法で……電撃で!! 確かに死んだ!!!」
見れば焼けただれていたはずの皮膚が何事もなかったように戻っている。
回復魔法? いやそんな気配はなかった。
勿論自身が己にかけたのも、第三者による物もである。
「何か特殊なアイテムでも装備していたか!?」
思わず出た言葉だが、言ってから納得したようだ。
確かにアイテムならば可能だ。
装備者の死に反応して一度だけ蘇生させるアイテムが存在するという。
それは大国の国王クラスの人間が持っているかいないか……
そんなレベルの物である。
しかし、こんな剣や銃を持っている男だ……
もしかしたら持っていたのかもしれない……
そのアイテムを奪えなかったことは残念だが……
そんな物を複数持っているということはありえないだろう。
つまり次はないということ……
思わず笑みがこぼれそうになるのを何とかこらえた。
銃の威力は度肝を抜かれたし、あんなものをこっちに向かって撃たれていればアウトだった……
しかし、それもこの馬鹿はあろうことか上空に放った。
そしてあんな威力だ……連発することなんてかなわないだろう。
残るは剣……しかし剣であれば近づかず、そして近づけなければ問題ない。
あんな大剣を担いで駆けてくる速度だ……
昼寝をしてしまわないか心配してしまうな……
起き上がってきたときは正直焦ったが、俺の優位は変わらない。
それにしても銃とは……
魔導師は再分析を終え、自信を取り戻したようだ。
「いや~! お前は何者なんだ? そんなレア物ばかり持って……行商人かなにかか? それとも貢物でも届けている最中だったか?」
「問答無用で仕掛けてくるくせに、案外グダグダとうるさいやつだな――」
ギロリと睨むその眼光に、魔導師は初めて自分が狩られる側の人間なのではないか?
そんな予感が頭をよぎる……
しかし、そんなことを許すわけがない。
これでも数多くの修羅場は通ってきている……
縮みあがりそうになる心をすぐさま精神強化系の魔法で打ち消した。
「――今から質問に1つだけ答えろ? 余計な言葉はいらない……シンプルに」
有無は言わせない――
そんなプレッシャーが精神強化を施しても尚ヒシヒシと伝わってくる。
「いったい……なんだと言うんだ……」
なぜ俺は無意識に精神強化を行った? なぜだ……??
いや……そうだ。
そんな事はない。
問題ない……
「お前は俺にいきなり攻撃を仕掛けてきたが……それは何のためだ? ここはお前のテリトリーか何かか? そうであればこの件はとりあえず見逃してやる。失せろ。 俺もここにさほど用があるわけじゃない……すぐに出ていくさ」
何を言い出すかと思えば、命乞いか?
プレッシャーこそかなりの物だがやはりそれだけのことだ。
こんな獲物をみすみす見逃すなどありえない。
俺はやはりラッキーだ!
「それはこちらの台詞だな。お前こそ何者だ? 俺の目当てはお前のその武器だよ! めんどくさかったから殺す気だったが……まぁ何かの拍子で拾った命だ。その二つを置いていくと言うなら見逃してやる。さっさと尻尾を巻いて逃げな!!」
なるほど……金品狙いで即殺しをするようなやつか。
ならまぁ遠慮はいらないな……
こいつの土地とかに勝手に……と言っても俺のせいではないと思うけど……
入ってしまっていたのなら不本意だが詫びて帰ろうかとも思ったんだが。
「よくわかった……純粋に俺に喧嘩売ったんだってことがな。遠慮はしないぜ……あの世があるなら自分のアホさ加減を後悔しろ」
両手に持った【アポカリプス】と【ダーインスレイヴ】からとてつもない力を感じる。
そして、両者は俺の力を取り込み馴染んでいくのがわかる。
さっきまでとは違う……
ゲームのレオンが繰り出していた剣技や銃での立ち回りはどうすればいいのか……
力の開放はどうすればいいか――
全てが手に取るようにわかる!
あれだけやり込んだゲームだ。
コンボの仕方なんかも染みついている。
ただ……無限とも感じるこの力は何だ――
「……負ける気が微塵もしない」
レオンは眼前に剣と銃を構える。
「時間をくれて感謝する!!」
しかしその直後、魔導師は待ってましたとばかりに魔法を詠唱する。
それは先ほど一度はレオンの命を喰らい尽くしかけた魔法だ。
電撃は何匹もの猛虎の形に変わり、電光石火のスピードでレオンへと襲い掛かる。
通常、強力な魔法は発動までかなりの時間がかかる。
この男がどれほど前から発動にとりかかっていたかは定かではないが、
レオンが起き上がってからだったとしてもそれはかなり早い部類である。
――そして再び電撃は直撃した。
「ハハハハハ!!! 結局さっきと変わんねーじゃねーか! この馬鹿が! さっさと武器を置いて逃げればいいものを! 今度は死体すら残らない様に葬ってやるから安心して死にな!!」
先ほどの電撃とは比べ物にならないほどの威力の電圧がレオンを襲う。
前回死体が残ったことが、よほどプライドを傷つけたのだろう。
電撃を繰り出している時間も前回よりも長い。
「こいつはおまけだ! 礼はいらないから遠慮なく受け取ってくれ」
アサシン対策として、自身の近辺に現れたものに自動で攻撃を仕掛けるよう命令していた球体型の電撃も、レオンに向かって突撃させる。
相手がレオンだけだとわかった今ではもう無用の長物なのだろう。
かなりの魔力を消費したが、ここまで全力で力を使うとむしろ逆にすがすがしい。
あのムカつく顔……
俺のプライドを傷つけた忌々しい男を此の世から完全に消し去る……
嗚呼なんと甘美な刺激だろうか……
これだから死体すら残さず殺すということがやめられないのだ。
「なあ? もっと電圧上げてくれねーかな? ゲームのしすぎで首と肩がこってるんだ……もうちょっとでこう……いい感じなんだ」
凄まじい電撃のせいでレオンの周囲は青く光り輝き、目に突き刺さる程であるため、とても直視できない。
しかし、中心からはそんな状況とは正反対の呑気な声が聞こえてきた気がした。
「……そんなはずはない……テンションを上げすぎて俺も少し狂ったか……」
流石にこれ以上の電撃は自分の身にもこたえる……
魔導師は魔法を収縮させていく。
だが、徐々に弱まっていく光の中でありえない光景を目にした。
レオンのシルエットがくっきりと先ほどと変わらない状態で見えるのである。
「また死体が残ったか……よほどのマジックアイテムでも装備しているのか? ここまでくると後でみぐるみをすべて剝してでも、消し去らないと気が収まらないな……」
そんな考えは電撃が完全に収まるときには綺麗さっぱりと消え去った。
「なんだ? 電圧上げてくれって頼んだのになんでやめるんだ?」
なぜだ? なぜこの男はここに立っているんだ?
――しかも無傷で
さっきよりも威力を上げている! 死なないわけがない……
倒れてまた立ち上がってきたならまだしも……なぜ無傷なんだ!!
魔導師はその高すぎるプライドから状況を受け入れられない……
半ば半狂乱になりながら次の魔法を繰り出す。
繰り出された魔法は無数の電撃の槍……
その凶悪な威力を槍のような形状に凝縮することによってほぼ実体となった電撃は、魔法攻撃と言うよりは実際の槍での攻撃に近い……
そして勿論それが突き刺さった後には解放された電撃の力が対象に襲い掛かる。
魔法が効きにくい相手などには有効な戦術を、この精神状態で選択してくる辺り、この男の実力者としての側面がうかがえる。
「行けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
主の怒号によって様々な角度から飛来する槍は対象の急所を的確に貫こうと……
いや、そんなものではない。
次々と現れるそれはもはや対象の周囲に降り注ぐ雨。
レオンの腕に、足に、胴体に、次々と突き刺さり貫く。
噴出す血と焼ける肉の臭いが辺りに充満していく……
「ハッハハ……!! ハァ……ハァ……手間取らせやがって……」
遠目に見えるレオンは無数の槍で体中を貫かれ、 さらには眉間から一本の槍が後頭部まで達していることもうかがえた。
流石に死んだだろう……
魔導師はすべてを出し切り、乱れたその呼吸を整えるべく、地面に座り込んだ。
「針治療なんてやったことなかったが、刺激的にはこっちの方が上だな」
嘘だ……嘘であってくれ……
見たくもない現実を確認するために声のする方に視線を向けた。
レオンは眉間に突き刺さっている槍に手をかける。
いまだに威力が収まらないその電撃の槍が、バチバチと音を立てるが関係ない。
なぜならそんな物ではダメージは負わないのを知っているから。
少し力を入れ、頭部を貫いたそれをゆっくりと抜きに掛かる……
ズルズルと抜き取るそばから傷口はふさがっていき、槍先が現れるのと同時に、何事もなかったかのように元の整った顔がそこに現れた。
体中には数えるのもめんどくさい……それほどの槍が刺さっている。
一本一本抜いていくのもあほらしい……
全身に力を籠めると自身の筋肉によって槍が押し返され、あっという間にすべての槍が抜け落ちた。
「バ……バケモノ」
魔導師はそんな言葉を呟きながらどこか遠くを見つめている。
せっかく自分の力を試せるかもしれない相手だ……
このまま自暴自棄になられて無抵抗のまま……と言うのは面白くない。
これまで好き勝手やらせているんだ、とりあえずやり返して痛みで正気に戻ってもらおうか……
そう思って少し驚いた、これはゲームのレオンの思考だ。
流石に高校生をやっていた自分の思考ではない。
でもなぜだろうそれを受け入れることに抵抗がない……
深い部分でレオンとゲームの中のレオンが一つになっていっているためだろう……
レオンは軽く剣を振るう。
しかしその軽くが凄まじい速度だ。
その切先から生まれた衝撃破は男の左肩から下を吹き飛ばし、ドォン!と地面に叩きつけられた剣の音が遅れて男の耳に届く。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
焼けるような熱さの後、その激痛から意識を取り戻し、すぐさま回復魔法を施す。
しかし、回復魔法には特化していないため、止血することが精いっぱいだ。
せめて痛みだけでも無効化しなくては……
ポーチから麻薬と言われる薬草を迷うことなく口に放り込み痛みを麻痺させる。
「おはよう? 俺はまだ何にもしてないんだ……そんなに早く
わかりやすいほどの挑発をするレオンだが、魔導師には十分だった。
元々の高すぎるプライドと、更には先ほどかじった薬草のせいで、もはや冷静な判断など出来るはずもなく、頭から撤退と言う二文字は完全に消え去った。
「くそがぁぁぁぁ!! テメーはもうどうなっても許さねぇ!!! てめぇの×××しちぇええ あがるはろぼごぐらが!!!!!!」
かなり強力な麻薬なのだろう。
口からは白い泡があふれ、後半はもう言葉ではなくなっている。
「お~お~……なんともまぁ素敵な感じになったな? グダグダとうるさいよりはよほど好感がもてるよ」
そんな壊れていく様子をレオンは見つめていた。
「このぉぉぉ ……を つか……う。もう……どうな しらねぇ……!!! 全部 終わっ」
なんとか聞き取れる内容から、どうやら最後の切り札を出してくれるようだ。
光り輝くクリスタルのようなもので出来た短剣を掲げるとそれを天に放り投げ、次の瞬間、自身の電撃で粉々に破壊したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます