第17話 美人姉妹
しばらく歩いてみるのだが、至って平和そのものだ。
二人もあの提案のお陰だろう……まじめに周囲の気配を探っている。
森の奥へと歩みを進めていても、こちらに向かってくる物がいないのだから、順調にモンスター達を押し戻すことに成功していると思っていいはずである。
「レオン様? 1つよろしいでしょうか?」
そんな道中、リプスがレオンに声をかける。
「ん? 構わないが……どうした??」
「先程の村でのレオン様の行動で気になったことがありまして……」
何かおかしなことをしただろうか?
「ああ、遠慮なく聞いてくれ」
「では……あの野盗達から回収した金貨のことなのですが」
「フレムさんに渡したのまずかったか?」
「いえ……そう言うことではなく……。金貨は数種類あったはずです。私の考えで行けば、恐らくその国ごとの金貨だと思われるのですが、レオン様が御渡しになった金貨、フレムさんは金貨自体には違和感をもっておられませんでした。よくあの数種類の中から、この国で使用されている金貨がお分かりになりましたね? 何か予備知識を持っておられたのですか?」
リプスは興味深そうにレオンの人ならざる顔を覗き見る。
「そう言うことか。なに、たいしたことじゃないさ。俺がフレムさんに渡した袋に入っていた金貨には、獅子の紋章みたいな刻印があったろ?」
リプスは唇に左の人差し指を当て、少し考える素振りをみせ、
「ええ、確かにそのような物がありました」
ウンウンとうなずく。
「それと同じ物をあるところで目にしてたから目星をつけてたってだけさ」
「目星とは……?」
「鎧さ」
「鎧ですか?」
「そう、鎧。王子のとこの近衛兵と最初に遭遇した時があったろ?」
「はい」
「あの時、その近衛兵の鎧にあの金貨と同じ刻印を見つけてな。後々そいつらが王子の近衛兵だってわかって、ここの国の紋章がこの獅子なんだろうって推測したのさ。王子の近衛兵がまさか他国の紋章なんて装備に入れないだろ?」
レオンは少し得意げにリプスに話す。
すると……
「レオン様! 流石です!! あのような状況でもそのような部分にまで注意を巡らせている観察力! そしてそれを組み立て活用する考察力!! 私感激いたしました!!」
リプスはそのままのテンションでレオンに抱き着いてくる。
「カンゲキいたしました!!」
それにつられてイヴも……
イヴは……絶対に内容分かってないよな……
「大げさだろ……」
これは……ゲームで培ったある意味、癖みたいなもんだ。
ゲームの進歩に伴い、グラフィックなんかも爆発的に進化して、ほぼ実写だろ? なんてゲームはごまんとある。
設定資料集など、そんな物を眺めることも好きだった俺は、ゲーム内の装備なんかを可能であれば隅々までじっくり見てしまうのだ。
「リプスの方が遥かに俺より凄いじゃないか? 様々な知識を持っているんだろ?」
リプスは抱き着いたままレオンを見上げるとフルフルと首を横に振る。
「確かに知識はあります。それについては自信があります! ですが……その知識を掛け合わせるというか、うまく利用するという点においては少し疑問が残ります。応用力と表現するのでしょうか? 魔法も、私が使用している物は術式などが確立されている物を主に使用しておりますし、そういう部分についていえば、レオン様の足元にも及ばない自信があります!」
ものすごく真っ直ぐな目で宣言されてしまった。
及ばない自信ってのもどうなのか……
つまり……ペーパーテストやクイズならばどんな物でも満点だが、その知識を使っての新技術の開発が苦手って認識でいいのだろうか?
なるほどな……
「完璧な者なんていないんだ。俺が足りない部分はリプスに補ってもらいたいし、リプスに足りない部分は俺が補うさ」
レオンはこの姿に変化したリプスに初めて、イヴにするように、自然に頭を撫でることができた。
俺自身緊張してたんだな……
完璧超人だと勝手に思っていたリプスにも苦手な事がある……
それがわかって、支えてやりたいと心から思えたってことだろう。
「はい……必ずやレオン様の御力になって見せます」
リプスも今までの反応とは少し違い、イヴの様に幸せそうにレオンに撫でられている。
「ねえ? ボクは??」
そんな様子を見てイヴも問いかけてきた。
「イヴだって同じだ。イヴにしかできないことで俺を補ってもらいたいし、イヴにできないことは俺が補ってやる」
「うん!」
イヴもやはり幸せそうな表情をレオンに向け、ギュウギュウと抱きついた。
「私もイヴに補っていただきたいです」
すると今度は、リプスがイヴに問いかける。
「え? リプスも??」
「ダメですか?」
「ううん! ボク、リプスにもい~っぱい力かすね!!」
「まぁ! ありがとうございます。私もイヴにた~くさん、力御貸ししますからね」
レオンを挟んでにこやかに話す二人を取り巻く雰囲気から、外見は違えど、仲のいい姉妹……
そんな温かい物を感じ、自然とレオンも笑顔になった。
だが……現在、人ならざる姿のレオンの表情は、
誰も読み解くことはできない――――
そんなやり取りをしながら、モンスターを押し込むべくしばらく歩いていると、開けた場所に出た。
しかし、レオン達の目に飛び込んできたのは異様な光景。
「モンスター達が村を襲うようになった原因は……これかもしれないな」
「ですね……可能性は高いと思われます」
「なんでこんなことになっちゃったのかな?」
「流石にこれを見ただけじゃ判断つかないな……」
レオンは空を見上げる。
あの三つの太陽……今は夜だから月なのだろうか?
その周囲が少し明るくなってきている。
どうやら夜明けが近い様だ。
「ここまで押し込んどけばしばらくは大丈夫だろう。それに朝には戻るとも言ってある……フレムさんにこの状況に心当たりがないか聞いてみるか……」
レオンはもう一度周囲を見渡す。
「…………引き上げるぞ」
「かしこまりました」
「は~い!」
無事にモンスター達を森の奥へと押し込み終わったレオンは、元の姿へ戻ると、
両腕に抱き着いてきている美人姉妹をそのままに、この場所を後にしたのだった。
――――――――――
あとがき
ルーウィンの近衛兵と鉢合わせた際、このレオンの気付きの伏線は書いていました。
このエピソードを読んで”あれか!”と思ってくれた読者の方がいらっしゃれば、素晴らしい記憶力や洞察力を御持ちの方だろうと思います!
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