第13話 招かれた客
スゥー……スゥー……
あちらこちらから穏やかな寝息が聞こえてくる。
お行儀よく布団をかぶって寝ている子、なんでそうなったのか……枕のある位置と真逆の方向に頭を向けて寝ている子、仲良く手を繋いだまま寝ている子……
などなど、殆どの子供達は夢の中へと遊び場を移したようだ。
「よく寝てるな」
「ええ。皆沢山食べてくれましたから。きっと朝までぐっすり眠れると思います」
「目が覚めてしまう子は多かったのか?」
「親がいないと言うとんでもないストレスの上に、空腹まで合わさって……眠りが浅くなってしまう子が多かったのは事実です。元気に見える子供達も体調が崩れる時は突然ですから。本当によかった……」
フレムは子供達の寝顔を眺めながら安堵の溜息をもらした。
レオンはあの後、作業場に運んだルズで血抜きの手順、捌き方、部位の切り分け方などを女性達に教わっていた。
これを覚えていれば、大まかな工程はどのモンスターや動物でも大きくは変わりはしないため、これからの旅で大いに役立つことだろう。
元の世界にいた頃は、スーパーに並べられている既にそれらの処理が終わった綺麗な肉を安易に手に入れられた。
魚を生きたまま捌いたことがある人は結構いても、牛や豚などをはじめとする動物を、生きたまま捌いたことがある人はそうそういないだろう……
勿論スーパーに並べられている肉を調理して食べる際も、命を貰って食べているという自覚をレオンは持っている方ではあったのだが、自分で捌いてみてその思いはより強くなっていた。
命は他の命を奪いながら生きている……
でも、だからこそ……無意味に命を奪う行為を俺は許したくはない……
レオンはそう再認識していた。
調理に関して、今回は肉以外の材料などが乏しいため、焼きのみだったのだが、その際に生肉の保存方法なども教えて貰っていた。
レオンの場合はリリスにもらった鞄があるので特に気にする必要もないが……
流石異世界と感じた物では、氷属性魔法を利用した保存方法があるらしい。
こんな田舎の村ではその才能がある者が村から生まれてこない限りは無縁の物で、王都などの
次々に焼きあがっていく山のような肉を、村の人達は順番に各家に持ち帰ったので、今日の夜はどの家も穏やかで深い眠りにつくことができるだろう……
「フレム、子供達は私が見るから、皆さんに何か温かい飲み物でも出してあげたら?」
「そう? じゃあお願いね」
「私も寝てしまってたらごめんなさいね」
「あんなに食べてたんだもの。そうなっても仕方ないわね」
女性はもう少しで完全に寝付けそうな最後の子供の側に行き、優しくポンポンと背中を叩いて夢の中へと誘導していく。
子供達が寝ている部屋の扉をそっと閉め、応接室のような部屋へとやってきたレオン達はソファへと腰を下ろした。
「今温かい飲み物をいれますね……とはいえ、そんな大層な物はお出しできませんが……」
「いや、ありがたく頂くよ」
「少しお待ちくださいね」
そう言うとフレムさんは台所の方へを消えていった。
「レオン様~?」
壁紙などが少しくたびれてきてしまっている室内をレオンが見渡していると、イヴが声をかけてきた。
「どうした?」
「お肉って美味しいね! イヴお魚も美味しかったけどお肉も好き」
ニコニコと満面の笑みだ。
「イヴも結構食ってたもんな。確かに今日の肉は適度にさしも入ってて、ありゃいい肉だぞ!」
「ですね。赤身と脂身のバランスは素晴らしかったです」
リプスもルズの肉は気に入ったようだ。
そんな話で盛り上がっていると、
「お待たせしました。この地方でよく飲む香草茶です。お口に合うといいのですが……」
フレムが戻ってきた。
4つのカップからフワフワと湯気が立ち上る。
それと同時にこの部屋いっぱいに心を落ち着かせてくれるような……
そんな豊かな優しい香りが充満していく。
レオンはカップを手に取り、もう一度深く香りを楽しみ、ゆっくりとカップに口をつけ、一口含む。
こんなにも豊かな香りと裏腹に、驚くほどにさわやかな苦みを感じたかと思うと、苦みは後を引くことなくスーッと消えていった。
「どうですか?」
「ああ、飲みやすくていいな。なんというか落ち着く……」
レオンはゆっくりと二口目、三口目と香りと味を楽しむ。
それにならって左右に座っている二人も同じように飲もうとしたのだが、リプスは問題なさそうだが……
イヴが鼻の下をごしごしとこすりだした。
「どうした?」
「うん……いい匂いだと思って匂い過ぎたらお鼻がムズムズしてきた」
へへっとイヴが笑う。
「あ~鼻利くからな……イヴにはちょっとキツすぎたか?」
「あ! ごめんなさい……獣人種の方々の知識があまりないので……」
「ううん。ボクが匂い過ぎただけだからもう大丈夫だよ」
そう言うとイヴは気を取り直してゆっくりと口に含んだ。
「ニガイィ……」
今度は何とも言えない微妙な表情のまま固まってしまった。
「子供か……」
そう突っ込んでみたのだが、イヴは内面に関して言えば間違いなく子供である。
「子供達が飲むときは砂糖などを入れて飲むのが普通なんですが、生憎そんな調味料も底をつきかけてまして……」
「砂糖入れるのか……なら」
レオンは鞄をあさり最低限の調味料の中から砂糖を取り出しイヴのカップに入れる。
「飲んでみ?」
イヴは少し警戒しながら再び一口含む。
「あ! これならボクも飲める」
イヴは嬉しそうに香りと味を楽しんでいるようだ。
「食材の他にも底をついてる物がありそうだな」
「ええ……稼ぎ手がいなくなったうえに、作物までこうなっては……」
そりゃそうだよな。
恐らくだが薬類なんかもなくなってそうだ……
どこか買い出しに出れるような場所はあるのだろうか?
その前に……確認しておきたいことが何個かある。
今のフレムさんとの関係ならば教えてもらえるかもしれないな……
まずは……
「今更なんだが、この村は何て名前なんだ?」
「え? 村の名前ですか?」
フレムは驚く。
それもそうだろう……
ここまで密接に関わった者が村の名前すら知らないのだから……
「聞く機会を完全に失ってってな……教えてもらえないか?」
「そういえば皆さんが来てから、目まぐるしく時間が過ぎましたものね」
フレムは今日一日を思い返しているようで、少し笑った。
「では改めまして……ここは”ネートル村”と言います」
「なるほどネートル村ね。覚えた」
「はい。 グレオルグ王国の端も端にある辺境の村で、イーベル
「イーベル
「そう言うことになります」
「なるほど……」
ゲームから得た知識なうえに、結構前にやったやつだから忘れかけてるが、確か
「連れていかれる時に逆らうって選択肢はなかったのか?」
「この国では上……王族や貴族の権力は絶大です……逆らうなんて……そのようなこと考えたことなど……」
”ありません”
そう言葉は続きはしなかった。
誰だって考えたことはあるのは間違いない。
ただ、それを口にすることは許されないのだろう……
「次なんだが……」
「なんでしょう?」
「俺達をフレムさんが初めて見た時、この国の人達じゃないって直ぐに判断したよな? あれってなんでそう思ったんだ?」
そう……俺達はすぐにこの”グレオルグ王国”と言う国の人間ではないことがバレた。
その理由を知っておかないと今後、旅するうえで面倒なことになるのは間違いない。
立ち居振る舞いからバレたのならば直せるように努力しなければ……
「それは……」
大事なことではあるが、俺からすれば
”ここがおかしかったのよ~”
くらいで済む話だと思ったんだが、どうやら違うようだ。
フレムさんは先程の和やかなムードから一転し、バツが悪そうに俺、そしてリプスとイヴの間で視線を泳がせている。
そういや王子もリプスとイヴ見てたな……二人に何かあるのか?
「もしかして、言いにくいことなのか?」
「…………正直に申し上げれば、お伝えしづらいです。更に、こんなにも良くして下さった皆様にとなると尚更……」
異国出身者と断定しうる条件は、俺達の立ち居振る舞いではないようだ……
そして、どうやらその内容は好ましい物では無い……
フレムさんが言いたくない理由は俺達のことを思ってのことのようだが、それでも、話してもらわなければ……
今後の俺達のために――――
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