第12話 一筋の光明
「レオン様、そちらに行きました」
「レオン様~こっちからも行ってる~」
「ああ。問題ない」
レオン達は現在、深淵の森と呼ばれるあの森の入り口あたりで突然襲い掛かってきたモンスターの群れを相手にしていた。
今見えてるだけも6、70体はいるであろう。
しかし、残念ながらこのモンスターの群れの中にはルズと言うモンスターはいないようだ。
いわゆる、ゴブリンに似た物や、トロール……そんなイメージのモンスターをはじめ、これは飼われているのだろうか? 狼や猪に似たモンスターなども一緒に群れを形成し襲い掛かってきていた。
ルズが逃げてはいけないと思い、レオンはアロクネロスを少し離れた位置でいったん帰らせたのだが……
あの穏やかな村への道中を思い出してみても、いかにアロクネロスが睨みを利かせてくれていたのかがよくわかる状況となっていた。
そんな状況を
モンスター達は襲い掛かってきた速度のまま、レオンの後方に
現在のレオンの戦闘スタイルは二刀流。
この無駄に多いモンスターの群れに対処するための手数が欲しかったので、リプスに剣を2本借りている。
形状は二刀流と言う状況に合わせて、短剣に近い物に変化していた。
当のリプスも自分用に出した1本の細剣で、涼しげな顔のまま大型のトロールを真っ二つに切り裂いたところだ。
「お~りゃ~~」
そんな間の抜けた声の方向に目を向けると、イヴは迫ってきたゴブリンを蹴り飛ばし、後方で集まっていた集団にぶち当てる。
更に轟音をあたりに響かせ、一発の魔弾でその集団を貫いた。
「お~やるな~イヴ」
「へっへーん!」
レオンの声に鼻息を荒げ、満面のドヤ顔を披露する。
本当に危なげがなさすぎるパーティーだ……
まさしく強くてニューゲーム状態で、初期村での戦闘をこなしているような感覚……
ここにいるモンスターの知能は高くはないんだろうな……
こんな状況なのに、逃げるって言う選択肢を取らないし……
辺りを見渡すと、まだ奥にいた数十体がレオン達に向かって来ようとしているのが見える。
レオンはホルスターからイヴに借りた銃を取り出すと、途切れることのないマズルフラッシュの光を轟音と共に辺りにまき散らし、モンスター達の頭部をすべて吹っ飛ばした。
銃声の余韻が消えるのと同時に、やっとのことでモンスター達はいなくなったようだ。
「落ち着いたか?」
レオンの言葉にリプスとイヴが辺りをうかがう。
「そのようですね」
「うん! もういないね」
その言葉を聞き、レオンは2本の短剣と銃をホルスターに収める。
サイズが合っていないため、収まりはかなり悪いが……それは仕方ないだろう。
「それにしても、今のモンスター達……なんていうか……あれ、死にに来てたのか?」
いくら知能が低いとはいえ、あそこまで一方的な仲間の死を見せられて、生存本能と言うものはないのだろうか?
鬼気迫る……そんな印象すら受けていた。
「それに量だ。 流石にあの量が正常だとは思えないが……」
「私もそれは疑問に思います……」
「うんうん」
どうやら二人も同じ意見のようだ。
「村を襲うモンスターも含め、なんか引っかかるな……」
レオンが考えこもうとしたその時、
「あ! み~つっけた!!」
イヴが大きな声を上げる。
「お? ルズか!?」
「うん! あっちから毛皮と同じ匂いがする!!」
「よし! でかした!! さっさと狩って村に帰るぞ。 近くに5頭ほどいてくれるといいんだがな」
とりあえず考えることは後回しにして、レオン達はイヴを先頭にルズ狩りを再開し森の中へと入っていくのだった。
「お……お主達、本当にたった三人でこれを……? それに……どうやってこんな量を村まで??」
イヴが見つけたルズは、幸運にも群れを成してくれていたために、狩りはまさしくあっという間に終わった。
どのように捌くのかが不明だった為、とりあえず
村の人達を驚かせてもと思い、アロクネロスは村の手前で帰らせ、広場に三人で5頭のルズを積み上げた後、家から出てきてくれるように声をかけたところだ。
そして、ざわざわと驚く村の人達の先陣を切って声をかけてきたのが、村長の奥さんだった。
「ああ、俺達三人だけだぞ……村の入り口に馬車があったろ? あれを勝手に借りたんだが、よかったか?」
「あ~あのくたびれた馬車かの……かまわんよ……馬達に回してやる食料もつきてな……朽ちていくのを待っておっただけの物じゃ……ん? 馬はどうしたんじゃ?」
「馬は召喚したよ」
「なんと……召喚も駆使されると……さぞ名が知れておるのでしょうな……そんな御方達がこの村を訪れて下さるなど……なんという幸運じゃろうか」
もしかしたら召喚は魔法よりも若干ハードルが高いのかもしれないな……
今の村長の奥さんの言葉からそんな印象をうけた。
「うわ~~! いっぱいだ!!!」
「本当にお兄ちゃん達がいっぱい獲ってきてくれた!!!」
「ありがとう!!」
元気な声の方向に目を向けると、フレムさん達と共に子供達がこちらに走り寄ってきているところだった。
「お~! いっぱい獲ってきたからな。 沢山食えよ!」
「うん!」
「はーい!!」
レオンの言葉に子供達の目はまさしく宝石のように光り輝く。
”子供達はこの村の宝です!”
ふとフレムのあの言葉がレオン頭をよぎった。
こういったストレートな意味でも
宝
なのかもな……
「御怪我などはどなたもないのですか?」
フレムが側に寄ってきてレオン達の身体をくまなく見つめている。
「ああ問題ないぞ。な?」
「大丈夫ですよ」
「ブイ!」
この村を守るという俺の意志を汲み取ってくれている今の二人の対応は、もう何も心配はなさそうだ。
まぁ俺が助けると意思表示してからの村の人達の接し方が、リプスが満足しうる扱いだから……と言うのも少なからずありそうな気はするが……
「そうですか。皆さんがご無事で何よりです」
フレムは心の底から胸をなでおろしているようだ。
「早速だが、このルズ……捌かないといけないだろ? 男手がないとこのサイズは骨が折れるだろうし、俺が手伝うから捌き方を教えてくれ」
「よろしいんですか?」
「折角獲ってきたんだ。皆余裕ないだろ? 少しでも早く食べさせてやりたいしな……」
「ああ……ありがとうございます!」
「調理も微力だが手伝えるぞ?」
「え? 台所に立たれるんですか!?」
フレムさんが中々に大きな声を上げる。
「……まぁ料理はするが……おかしいのか?」
レオンのこの回答にフレムさんはあのもう1人の女性をはじめ、複数の女性に走り寄り何やら耳打ちを始める。
なにかまずいのだろうか……
そしてフレムをはじめとした、村のお母さん連中とでも表現されそうな女性達が、ずらっとレオンの前にやってきた。
みんな痩せてしまっているが、中々の威圧感だ……
「なにか……?」
レオンは恐る恐る口を開く。
「イイ男じゃないか!」
「整った綺麗なお顔だこと!」
「腕も立って、男気がある!」
「それに、こんなにもお優しい!!」
「そして……」
お母さん連中がお互いにアイコンタクトをかわし……
「料理ができる!!」
綺麗に揃った声が村に響き渡る。
「爪の垢を頂戴して、うちの父ちゃんとバカ息子に煎じて飲ませてやりたいよ!」
「世の中にこんな人がいるんだね~……」
「あたしがあと20若けりゃ……」
「だ~れがあんたなんかに!」
”女性が元気なら、どんな状況でも幸せはある”
婆ちゃんが常日頃から俺に言っていたことだ。
現に残された俺と婆ちゃん二人の家庭だったが、どん底まで落ち、這い上がることは不可能だと思っていた俺は、婆ちゃん自身と婆ちゃんからもらったあの言葉のおかげであそこまで戻ってこれた。
笑いだって……二人だけの家庭にもあった――――
村を訪れた時に感じたあの悲壮感は、この女性達のおかげで今や嘘のようだ。
「父ちゃん達元気でやってるかね……」
「そうだね……」
しかし、やはり領主のあの行いの爪痕は大きい――――
「ほら! みんな!! せっかく獲ってきてくれたのよ。子供達の為にも下ごしらえを済ませてしまいましょうよ!」
雰囲気を察したフレムさんが集まった女性達に声をかける。
「そうだね……まずは子供達だ!」
「こんなに材料があるのいつぶりかね!?」
「さ~腕によりをかけるよ!」
「誰か~! これ運ぶから台車もってきておくれ!」
母は強いとはよく聞くが、どの世界でも共通のようだ。
「台車はいらない。 どこに運べばいい?」
レオンはルズを1頭担ぎ上げる。
これには周りの女性達が悲鳴に近い叫び声をあげる。
「え……? ちょっと……あんた!? どういう力してんだい……」
「いいから、皆腹減らしてんだろ? ほら! どこに運べばいいんだ?」
レオンの催促に女性達は顔を見合わせ、
「こ……こっちに作業場があるから、そこまでお願いできるかい??」
かなり引き気味の女性達が作業場へと案内するため移動を開始する。
「リプス、イヴ! 二人も持ってきてくれ」
「かしこまりました」
「はーい!」
レオンの時の倍以上の悲鳴が上がったことは言うまでもない……
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