第10話 幕開け

しかし、衝撃が来ると思っていたが、いつまでたってもそれは訪れない……


「おかしいな?」


確認してみようと振り返る前に、背中に柔らかな二つの衝撃がやってきた。


「嗚呼、レオン様」

「レオン様~!」


聴いたことのある声だ。

声の主を確認するために振り返り、唖然とした。



女性だ、女性が二人いる――



一人はエルフ。 

長くピンと尖った耳が特徴的で、長く透き通ったように白い髪は、毛先に行くにつれてほんのりと赤く染まり、とても幻想的だ……


そして、視線を下げると、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる……

メリハリが凄まじく、彫刻の様に完成されたの代名詞のような身体は、思わず生唾を飲み込んでしまいそうになる……

一度見てしまうと、しばらく視線を外せそうにない……



そしてもう一人。


身体の大部分は人間だが、特徴的なのは、弾けるほどの笑顔によって大きく開いた口から覗く牙と、頭頂部にある耳。

更に、お尻の上辺りから垂れ下がっている尻尾だろう。

獣人と言うのだろうか? 

青みのかかったシルバーの髪や、フサフサの尻尾、少し肉厚で大きな耳などから、猫と言うよりは……そんな印象がしっくりくる。


スレンダーな肉体から、活発な雰囲気を漂わせているが、小ぶりで形のいい胸や女性的曲線はとても魅力的である。


特に、お尻の形と肉付きは、雄と言うカテゴリーに組するものならば、その視線はココに釘付けであろう。


フルフルと嬉しそうに揺れる尻尾がその魅力を更に引き出していた。



両者のこの世の物とは思えない……

転移してきた人間からしたら、とはどちらのことなのか……

いや、そんなことはどうでもいい。

そんな互いに別々の魅力をもった美女達に、レオンは絶句した。



そして大問題がもう一つ。

両者とも何も身に着けていない……まさしくの姿なのである。



「……うわ」


自身のの部分が激しく自己主張を始めているのがわかる。


「まぁ……」

「やった~~!!」


それは、目の前の美女にも即バレてしまった—―


(タイトなズボンをはいていたゲームのレオンを呪いたい……)


「レオン様! 私レオン様の御力で、このような姿に変わることが出来ました!!!」


「ボクも!! この姿ならレオン様にいっぱい甘えられそうで、すごくうれしい!!」


そんなことを言いながら、二人はそのままの姿でレオンの胸に飛び込んでくる。


(この美女はいったいどこからきたんだ?

俺の力がどうとか……俺は美女を生み出す力でもあるんだろうか?)


見下ろす先は刺激が強すぎるので、レオンは店内に視線を泳がせる。


「あ……剣と銃がない?」


「ほんとだね!! と言うことは?」


剣と銃が無いことにリリスも気が付き、美女へと視線を送る。


「私【アポカリプス】です。レオン様」


「ボクは【ダーインスレイヴ】だよ~」


突然のカミングアウトにレオンは動揺を隠せないでいる。


「すごい!! すごいよ!!!! レオン君!!!!!」


今までで一番興奮しているリリスのせいで、背中を押されたレオンは大きく体制を崩した。

二人に抱き着かれていたため、思うように体を動かせず、どこがどうなったのかはわからないが、


右手は【アポカリプス】の胸を――


左手は【ダーインスレイヴ】のお尻を、各々鷲掴みする。


「アンッ……」

「キャッ……」


艶っぽい声が漏れ、慌てて手を放そうとするのだが、その行為は二人に即座に腕を掴まれ阻まれる。


「もっと……この素晴らしい身体を触って感じてください……レオン様」


「レオン様に触れられるとボク……なんだかすごく幸せな気持ちになるんだ……」


美女二人からこんな反応をされるなど、ここは天国だろうか?


「いや~、御三方……お熱いですなぁ~」


そんな様子を見ているリリスは、レオンの背中を楽しそうに小突くのだった。





やっとのことでレオンを解放した二人は、裸ではなんだからと、今はリリスによって用意された装備を着込んでいる。


なんでもが、だそうである。


【アポカリプス】はツヤツヤときらめく白を基調とした、何処かドレスを思わせる、タイトな騎士風の軽装備。

胸元は大胆にバックリと開き、その周りにはゴージャスなフリルで装飾されていた。

随所に金の刺繍が施され、所々に使われている黒の革が、その美しい身体のラインをより一層引き立てる。

腰の辺りから下がる、服と同じ素材の布は、何処かマントを彷彿とさせ、高貴な存在であると言うことを周囲に否応なしに知らしめている。



【ダーインスレイヴ】は本人の希望で、かなり露出度が高い服装だ……

【アポカリプス】のような服装を進めたのだが、なんでも動きにくいとのことで、最初はドラゴンの素材で作られた黒と赤の胸当てと籠手、足にはすね当、そして腰は同素材で作られた、かなり際どいTバック――

尻尾があるとはいえ、屈めばこぼれてしまいそうなそれは、三人からの猛反対の末、その上から、これもドラゴン素材でお尻など半分出てしまっているが……

黒のホットパンツをはくことで、なんとか【ダーインスレイヴ】が折れた。



レオンの穴だらけの服も、リリスによって修復が施され、三人が並ぶと、見る者を圧倒するようなパーティーが完成した。



今はレオンを挟んで右に【アポカリプス】、左に【ダーインスレイヴ】と言う状態でカウンターでコーヒーとお菓子の続きの最中である。

人型になったため、二人もごく自然に、初めての食事を楽しんでいる。


「リリス様 これ大変おいしいです!」


「うんうん! すごくおいしいね~。レオン様の味の次に!」


「ええ【ダーインスレイヴ】。それには共感いたします。レオン様の味の前には全ての物は無意味です」


(俺の味とか……なんか誤解がすごそうだ。……深読みしすぎだろうか?)



「いや~、まさか家の最高の商品だった二人に、おもてなし出来る日が来るとはね~……お姉さん泣きそうだよ……」


リリスの冗談を真に受けた二人は、【アポカリプス】どこからかハンカチを取り出し、【ダーインスレイヴ】に至ってはアワアワと辺りをせわしなくかけだした。



なぜだろうか。この三人を見ていると、レオンは心が休まった――



「でもさ~レオン君。ちょっと君の力、あまりにも規格外すぎる……本来、意志をもってしゃべるってことですら、神や悪魔の一歩手前なんだよ? 今までのお客さん達もここまでは結構あったんだ。でもね? この子達はしゃべるどころか人の形をとっている……これはもう神や悪魔の領域に入ってるんだよ。つまりは、レオン君の力を吸収して、神や悪魔が誕生したってことだよ……」


凄い事なのだろうが、いまいちピンとこない。


「ん~~~伝わってないなぁ!! 神と悪魔なんて存在がホイホイ現れてみてよ? ありえないでしょ? 下手するとレオン君……は規格外だな……他の転移者と同等の力を持つようなのだっているんだ……そんな存在を、レオン君は自分の力を吸収させて、しかも二人も誕生させているんだよ? それも、自分はしたままで……」


「凄いと言われてもな……俺自身が苦しんで生んだわけでもないし、こう実感がないな…」


「そこがすごいって言ってるんだけどなぁ……」


リリスはどう伝えていいか困っているようだ。


「そうだ! 手っ取り早い方法があるね!!」


リリスがしばらく唸っていたが、何やらいい方法を思いついたようである。


「レオン君のゲームで変身した時ってその能力使うのにあったよね?」


人ならざる姿のことだろうか?

確かに、魔力ゲージが0になると自然にあの状態は解除されていた。


「ああ、確かにあったな」


「それを今試してみよう! どれくらい持つのかで、まぁ……比較対象なんてないんだけど、あんな凄まじい力をどれだけの時間使えるのか? ってことで大体のレオン君の力のが見えてくるんじゃないかな?」



なるほど。確かにそれは興味がある。

レオンは、カウンターから立ち上がり一歩下がったところで、人ならざる者へと姿を変えた。


「ああ……なんと凛々しいお姿でしょうか。普段のレオン様も素敵ですが、こちらのレオン様も……」

「レオン様~かっこいい!!」


二人はその姿を前に、両足に抱き着き、その身体をこすりつける……

主人想いと言うかこれは……

まぁ正直嫌な気分ではない……

むしろこんな美女二人から、こんなことをされてうれしくない男などいないだろう……



レオンはこのままにしておくことに決めた――



そのまま5分が経ち、10分……30分……1時間……が経った。


「いつまでやるんだ?」


あまりにも暇なので、ついにしびれをきらしリリスに問いかける。

下の二人は、結局最後まで同じ状態でそこに居続けた。


「めちゃくちゃだ!! レオン君? 君ゲームの時、この状態どれくらい維持してたか覚えてる?」


確かに、ゲームの中でもこの状態はバランスブレイカーだった。

その為、そんなに長くはこの状態を維持してはいられない……


「強化が最終段階まで行って……3分くらいじゃなかったか?」


「だよね? そうだよね??」


リリスが物凄い剣幕で、唇が触れてしまいそうなほど近くまで顔を詰め寄るので、レオンは思わず身体をのけぞらせる。


「可笑しい……ねぇレオン君? ゲームをやっている時や、再開するときに何か気になる事とか、気が付いたことなかった??」



(気になる事ねえ……そりゃあゲームの内容とか、要所要所に残ったままになってる謎なんかは、今でも気になっているけど……

気が付いたことと言えば………)



「そういえば、プレイ中にプラチナトロフィーの実績を解除したんだ。で、何が起こるのかと楽しみにしてたんだけど、プレイ中には何も起きなかった。クリアしてみると・NewGame+の下に”・NewGame+ Eternal Mode”ってのが新たに表示されてて、その”Eternal Mode”のせいでここに今いるんだろうけど……リリスあれはあんまりだぜ? あんな普通のやつがプレイしても見つけられないだろ? 常連の客にしたいならもう少し簡単な物を……」


「ええ!? いや……すべてのゲームはそれをクリアして・NewGame+を選択すれば、その世界に転移される仕組みのはずだよ? Eternal Mode?? そんなの聞いたことがないな……そのプラチナトロフィーの実績の解除をした時、ゲーム上では何か言ってなかった?」



”Eternal Mode”を選んだことで、この世界に飛ばされたのではないのだろうか?



「確か……”世界すらも打ち破りし者よ……その力、未来永劫語り継がれるだろう――”そんな感じのことを言ってたような……」



「んんん?? すっごい意味有り気だねぇ……ちょっとから待ってって」


ゲメる?なんだそれ……

もしかしてそれグ………


見ればリリスは、やはりレオンからは見えない何か……

画面のような物を目で追っている動きをしている。

グ……る

そんな認識で、あながち間違っていないのだろう。



リリスの調べ物はなかなかに時間がかかった。

その間、レオンと【アポカリプス】【ダーインスレイヴ】の三人は雑談をしていた。

雑談と言っても、先ほどの戦闘を二人がひたすら、

「流石です」や「しびれた!」と言いながらレオンを褒め称えていただけではあったのだが。



「いや~~、お待たせお待たせ……私達のデータを持ってしても、前例がなくてね……探すのに苦労したよ……」


雑談にも飽き、【ダーインスレイヴ】が机に突っ伏して昼寝を仕掛けていた頃、やっとのことでリリスに動きがあった。


「Eternal Modeの記載は結局なかったんだけど、似たような前例があったよ。そこからの推測になるんだけど……」


リリスの顔つきは神妙なもので、聞く側も思わず息をのむ。


「レオン君、君のその力はEternal……つまりは……どれだけ使おうが、底を尽きることはないみたいだね!」


どこから取り出したのか、派手に紙吹雪を散らしながら、クラッカーを鳴らしたリリスは笑う。


「……人が真面目に話を聞こうかと思えば、なんだよそれ?」


「真面目になんて話せないでしょ? もうだよ? これ。だってさ……レオン君かなりやり込んでるから、その”人”と見分けが付かない状態でもこの世界じゃ規格外なの。それなのに、力を開放している状態なんてさ……ねぇ? そんな状態がずっと維持できるんだよ? もう笑うしかないでしょ?」


――ゲームのおまけ要素だとしても確かにそれはお祭りモードだ。

多分レオンもゲームをしながら笑うだろう。


「………なるほど。 よくわかった」


ほらね? リリスの表情からはそんな言葉が読み取れる。


「さて……レオン君の、あまりの規格外の力はまぁこの際おいておいて……大体のことは説明が終わったはずだよ。何かまたわからないことが出てきたら気兼ねなくここにおいで。じゃあ最終確認と行こうか?」


「最終確認?」


リリスは【アポカリプス】と【ダーインスレイヴ】の手を引き、改めてレオンと対峙させる。


「レオン君……君はここ”ルクス”の世界に転移した。今ならまだ元の世界に戻ることはできる……でもリミットを過ぎれば、二度と元の世界のに戻ることはできない。君の言葉で今宣言してほしい。【アポカリプス】【ダーインスレイヴ】とこの世界で生きていくかい?」


リリスの言葉に二人は瞳を潤ませ、すがる様にレオンへと視線を送っている。



――二度とと元のあの世界のレオン君に戻ることはできない。



元の世界に戻って何があるんだろうか?

家族もいない……友達だって……

あの世界に戻っても力の無い自分がいるだけ……


レオンは、視線を目の前の三人に向けた。


【アポカリプス】【ダーインスレイヴ】そしてリリス。


まだ会って間もないと言うのにこの三人を見ていると、不思議と心が休まった。



「………ないな」



その言葉に二人の顔が引きつった。今にも泣きだしてしまいそうだ。

しまった……声が小さかった。


「帰る理由がないな!」


今度は力強くそう言葉を発する。

泣き出してしまいそうだった二人はすぐさま満面の笑顔に変わり、レオンに飛びついた。


「本当ですか!? レオン様!! 私一生……未来永劫、御供致します!!!」


「ボクもレオン様と、ず~~っとず~~っと一緒にいる~~!!」


「おう!【アポカリプス】に【ダーインスレイヴ】!! これからよろしく……」


突如考え込むレオンに、三人は何事かと顔を覗き込む。


「どうしたんだい? レオン君」


リリスが代表して声を出した。


「長い……」


「長い?」


「そう……二人の名前が長すぎて呼びにくい!」


「ほぉ?」


【アポカリプス】………アポ? ……アホっぽいな。


【ダーインスレイヴ】 ………ダー?……イチ、ニー、サン!?



「よし! 決めた!!」


しばらく、う~う~唸っていたレオンの表情が晴れ、二人と向き合う。


「まずは【アポカリプス】!!」


「ハイィ!!」


突如、大声と共に右手人差し指でビシィ!!と指され驚いた【アポカリプス】裏声になりながら姿勢を正す。


「俺は今から【アポカリプス】のことをと呼ぶ!!」


今度は【ダーインスレイヴ】に 向き直り同じように指を指す。


「次に【ダーインスレイヴ】!!」


「は~~い!!」


【ダーインスレイヴ】は、リプスの時とは違いそれを予想できていた為、元気のいい返事を返す。


「俺は今から【ダーインスレイヴ】のことをと呼ぶ!!意見があるなら正直に言ってくれ! 善処する」


その提案に二人は顔を見合わせた。


「素晴らしいです! 意見などあろうはずもありません!!」

「ないで~~~す!!」


そう言いながら、嬉しそうに再びレオンに抱きついてくる。


「アハハハハ!!! あの【アポカリプス】と【ダーインスレイヴ】に愛称をつけるなんて……すごい……すごいよ!! レオン君はやっぱり私のとっておきだ」


そこにリリスも加わり四人はお互いに笑いあった。



父さん、母さん、姉ちゃん、婆ちゃん……


”俺はこの世界でこいつらと生きていくよ”




レオン、リプス、イヴ……そしてリリス。


彼らの冒険はこうして幕を開けるのだった――――

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