第4話 NewGame+


―――寝起きは驚くほどよかった。




一晩中ゲームをやっていたため、目の疲れや、身体の痛みなんかが残ると覚悟していたが、不思議とそんなものはないようだ。



時計を見れば13時を過ぎ。

今日も適当にご飯を済ませてしまうことに決めた。


インスタントラーメンにお湯を注ぎ終わり、冷蔵庫を見渡す。

流石に食材が無い。

明日は買い出しに出かけないとならないだろう。



起きて一番にとる食事だから朝食? 

いや……時間的に言えば遅めの昼食だろうか。 


どちらともわからない食事をあっという間にすませ、昨日入り忘れてしまったのでシャワーを浴びてからゲームを再開する。



この手のゲームは気になる箇所が多すぎてなかなか前に進まない……

流行りのオープンワールド系のゲームはその自由度の高さが売りだ。


レオンのような性格の持ち主がこのゲームをやると、ストーリー上の進行具合による進入禁止区域などが存在しない物もある為、どこまでもどこまでもメインストーリーとは関係ない方向に進めるのである。


現に今もメインストーリーとは全く関係ない広大な大地の端の端、ワールドマップのヘリの山脈を無理やり外へ外へと出ていこうとしている最中である。


「なんか……行けそうなんだけどな……こう……隙間があって……」


造り手への無意味な挑戦を繰り返すレオン……

きっと担当が見たらやめてくれ! と叫びたくなるんではないだろうか?



ズル……



「あ!!?」


みるとキャラが山脈に半分埋まった。


「これ……いけるんじゃないかな?」




レオンはそこから剣による刺突系のスキルをこれでもかと言うくらい連続で放ち続け、キャラは案の定ズブズブとその身体を山脈に埋め込んでいく……


「後もう少し……!!」



パリーンッ!!!



次の瞬間画面が割れた。

いや正しくは表示されていた山のモデリングが割れた。

どこまでも落下していく主人公……

嫌な予感がよぎる。


「やりすぎたな………」


これは恐らく前回のセーブデータから復帰しないと再開できないだろう……


「前回セーブしたのっていつだ? かれこれ5時間はそんな記憶はない……」


はまっているゲームだけにこれはつらい……

オートセーブ機能もあった気はするが、それもチェックポイントからだろうし、ストーリーと関係ない山登りをしている最中のチェックポイントっていつだろうか……?


道中、レベルも2か3上がっていた……

あ〜……良さげなアクセサリー拾ってたな……


そんな事を思い出すたびに、ショックを受け、レオンはしばらく奈落へと落ち続ける主人公を見つめていた。


諦めてリセットボタンを押そうと視線をそらしたその時、





スタッ!





着地音だ。


「ん?」


画面に目を戻すと、何もない真っ暗な空間に主人公が降り立っていた。


「ああ……これモデリングの最下層地点なのかな? このゲーム地下ダンジョンもあるし……」




そう思ったのだがどこか様子がおかしい。

主人公の視線の先に何やら祠のようなものが見える。

レオンは主人公を操作しその祠に近づいた。


「こんな場所にこんな物配置するってなんだろう……」


近づいてみると祠の周囲には様々な文字が彫られている。


「そういえば昔やったゲームで、無理やり登った山頂に製作者の名前を彫ってある石板が配置されてたことがあったな……」


恐らくこれもそういった類の遊び心なんだろう。



”世界すらも打ち破りし者よ……その力未来永劫語り継がれるだろう――”



突如メッセージが表示されたかと思うと、



”プラチナトロフィー エターナルモード解禁 の実績を解除しました”



画面右上にクロステ4のシステム効果音と共にメッセージが表示される。



「……てことはこれ隠し要素だったのか? しかもプラチナって最上位だよな?」



どんな変化が現れるのだろうとワクワクしていると、祠の横にワープホールのようなものが現れている。


「ここから帰れるのかな?」


その光に触れると画面がホワイトアウトして、見覚えのある城の前に転移した。


そこで一通りの技を出してみたり、力の開放、などありとあらゆることを試してみたが、主人公の変化は特に感じない……


「詐欺?」


(プラチナトロフィーなんて書いてるから、なんか絶対良いことが起こってると思ったんだけどな……それに解禁とか言ってた気もするんだけどな……)



残念に思いながらもレオンはゲームを再開した。


その後は、それはもう隅々の町や村を回り、ダンジョンの中にあった隠しダンジョンを制覇し、アイテムと能力を駆使し、通常ではたどり着けない島にまで上陸を果たすなど隅々までこの世界を調べつくした。


”できるだけこのゲームをやり込むんだ”


リリスに言われたからではない。

恐らく、そんなことを言われたことをレオンは完全に忘れてしまっている。


それくらい面白かった。


そしてついにその時は訪れた……

メインストーリー上のラスボスを倒してしまったのである。

ふとカレンダーを見るとゲームを手に入れてから2週間程が経過していた。


途中買い物やもちろん睡眠などもとっているため、プレイし続けたわけではないが、それ以外はずっとゲームに没頭した。


ネットなども検索してみたが誰もやっていないであろうこのゲームを、自分の知識だけでクリアしていく課程が楽しかったし、何よりレオンはこの主人公に憧れたを抱くようになっていた。


レオンが感傷に浸りながらエンディング映像を見ていると最後に、


To Be Continued 


の文字が表示された。


「あれ? これ続くの??」


通常こういった場合、FinやEndなんて文字が表示される。

thanks for playingなんて物もある。

続編の製作が既に決定している場合はTo Be Continuedなどの表記があるとは思うのだが、リリスに貰ったこの得体のしれないゲームに続編などあるのだろうか?


しばらくするとタイトル画面が表示され



・NewGame


・LoadGame


・NewGame+



と言う表示が現れた。


選択肢が増えている。



「NewGame+……意味は確か……強くてニューゲームだったっけ?」



と言うことは自分がクリアした時の状態でゲームを最初からやり直すということだ。

既に思う存分やり込んだレオンには特に魅力はなく、達成感と共にやってきた喪失感に苛まれながら、最後の1本のエナジードリンクを冷蔵庫に取りに行こう……


そんなことを考えていると、クロステ4のシステム効果音と共に、選択肢がもう一つ追加された。




・NewGame+ Eternal Mode




エターナルモードの文字に、レオンの脳裏にあの出来事が蘇る。



「ああ! そういうことか……あれってクリア後の要素だったのか」


そうなると俄然・NewGame+ Eternal Mode が気になる。

時計を見ると18時を回ったところだ。

エナジードリンクを取りに行くのを後回しにしたレオンはもう一度画面に向き直り、カーソルを合わせ、




決定ボタンを押す――




”NewGame+ Eternal Modeが選択されています。 現世に未練はないでしょうか?”




ゾクッとした……




”この世界に嫌気がさしていないかい?”




それと同時に、リリスのあの言葉が再びレオンに脳内で問いかける。





「………まさか。きっとゲーム内のデータが始めからになるけどいいかって意味だろう……」




そうは思うのだが、もう一度決定ボタンを押す指に力が入らない……




でももしそうじゃなかったら―――??





「あの時俺はリリスに正直に返事をした……そしてゲームに向かって自分の気持ちに正直に生きると告げた……」





家族の写真に自然と目が吸い寄せられた……





よし――――





レオンの青い瞳から迷いが消え決定ボタンの上に置いた指に力を入れる。





「待ちわびましたよ……」

「レオン様ー!!」




あれ……? この前と台詞が違う?




その直後……レオンは強烈な眠気に襲われ意識を失ってしまった――

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