第26話 俺VS俺

武器は持ってきていたはずなんだがな……


レオンはあの龍との戦いを思い返した。


人間の状態で戦うには、武器の状態だったリプスとイヴは必須だった。

人ならざる者に変化した後も、結局龍を切り裂くときにはリプスを使った。


素手で頑張れと言われれば……頑張ってみるが、締まらないなぁ……

立派な武器を構えるリプスとイヴ……そんな中心で素手の俺……


う~~ん……


でも、俺の力に耐えられる武器なんて存在していたとしても、買うとなるとどんだけ金がいるんだろう……

規格外の力ってのも……世知辛いもんだな。


ん? まてよ……

なんでリプスとイヴは武器を持ってる想像をした??


「リプス、イヴ」


「なんでしょうか?」

「どうしたの?」


「二人ともアレアの魔法を防ごうとした時に、しれっと武器出してたよな?」


レオンの問いに二人はコクコクと頷く。


「あれ今出せるか?」


「可能です」

「大丈夫だよ!」


「よし! ならちょっとそれ俺にかしてみてくれ」



リプスが右手を広げて前に突き出すと、何もなかったその空間に突如あの細剣が現れ、浮遊している剣の柄を右手に収めた。


イヴも何も持っていない状態から、まるで西部劇のガンマンの様に両手でクルクルと銃を廻す素振りをしながらゆっくりと手を眼前へと持っていく。

そして、グリップを握り直す素振りをして、両手をクロスさせ構えると、その両手にはいつの間にかあの二丁拳銃がしっかりと握られていた。



カ……カッコイイじゃないか。



武器の無い今の俺には、あのゲーム内でのレオンが行っていた剣技や銃での立ち回りを披露することはできない。

ちょっとだけ二人に嫉妬した。




「どうぞ。レオン様」


まずリプスが俺に細剣を手渡してくれた。


「ありがとう」


そう言いながら細剣を構えてみる。

リプスが剣の時でも重さなんて感じなかったが、やっぱりそれよりも軽いという印象は受ける。

軽く振り下してみると、風切り音を辺りに反響させながら思い通りに動く。

様々な武器を難なく使いこなしていたゲーム内のレオンのおかげだろう。

細剣と言う新しい武器にもかかわらず、大剣で行っていた剣技が、頭の中でこう動けばいいと、今の状態に適した動き方に勝手にリメイクされる。


レオンはそのイメージに合わせて身体を動かしていき……

最後に剥き出しの岩肌に斬り込んだ。


スッ


素振りした時と何ら変わらない手ごたえの無さと裏腹に、目の前の岩肌には巨大な斜めの斬り込みが入り、


ゴゴゴゴゴッ!!


そんな音を響かせながら、岩肌から奥の地層が斜めにずれていった。


「お見事です」

「流石レオン様!」


二人は満足そうに頷きながら拍手を送っている。



う~ん……



「リプスありがとうな。 次、イヴ! 貸してくれ」


「は~~い!!」


イヴは嬉しそうに駆け寄ってくると、二丁拳銃を手渡した。

恐らく銃としての大きさで言えばこの二丁拳銃がスタンダードな大きさなんだろうが、イヴが銃だったころの大きさからすれば小さい。


俺は頭の中で敵を作り出し、銃で応酬すべく構えを取る。

しかし、俺の身体能力に対抗できる者……そんな考えから眼前に現れたのは、


俺自身だった――


「まぁ……そうなるわな……」


「どうかされましたか?」

「???」


「いいや、独り言だ。 気にしないでくれ。 二人とも少し離れてろ」


二人は素直にレオンと距離をとった。



気を取り直し、眼前の俺と手合わせを始める。

銃口を俺に向けると、それに応じて眼前の俺も銃口を俺に向けた。



レオンがトリガーに力を入れ弾を放った時、お互いが即座に弾の軌道から外れ、距離を詰めるべく走り出す。

二丁拳銃を前方に突き出しお互いが相手に向かって放つ。

その弾を左右のステップでかわし、時には身をくねらせ、飛び上がって回転しながらかわし、更には、よけきれない弾は弾をぶつけることで弾き落とし、それすらも潜り抜けてくる物は銃の本体で叩き落とす。

そんな事をしながらも、相手に向ける銃口からは次々に魔力の弾を放ち続ける。

しかし、相手もレオンの為、同じように難なくそんな弾の雨の中を潜り抜け、距離を詰めてくる。


そしてついにお互いがぶつかり合い、零距離での応酬へと変化した――


銃口を目の前のレオンの頭に向け引き金を引く瞬間、下からの掌底をグリップに叩き込まれ、寸前の所で軌道がそれ、頭上をかすめるように弾が外れる。

そこに生じたスキをついて、今度は目の相手の銃口がレオンの顔面を捉える。

それを、あえて前に出ることで銃口をかわし、刹那の差で弾が放たれる。

そのまま懐に入り込み、足を止めようと放った弾は、レオンの両肩に手をつきながら、前方宙返りをする形でかわされ、位置が入れ替わる。


そんな刹那の応酬をレオンは楽しんでいた。



「ねえ? リプス」


「なんでしょう?」


「レオン様、誰を想定してるんだと思う?」


「十中八九レオン様ご自身ですね。 あんなに動けるのはレオン様ぐらいでしょう」


「うん……そうだよね。 ボク見てて何回かよけきれないだろうなって所あるもん」



そんな呑気な会話をしている二人の周囲にもレオンが放った魔弾が次々に岩肌に穴をあけている。

どんなに二人が規格外だろうが、更にその上を行くレオンが放った魔弾だ。

当たればノーダメージとはいかないだろう。

しかし二人はその場から動こうとせずに、レオンの舞の様な銃の立ち回りをうっとりと見つめている。


先程から何百発もの魔弾が飛び交って入るのだが、不思議と二人が対処しなければならない魔弾は飛んでこない。

今もイヴの頭上2cmの所を魔弾が通過していった。

恐らくレオンはそんな模擬戦闘を行いながら二人に弾が当たらない様に考えているのだろう。

そして二人もレオンがそうすることをわかっていて、いくら弾が向かって来ようと微動だにせず、呑気に会話しているのだ。


レオン側も、下手に避けようとするなど対処されると、当たってしまうかもしれない……

という考えは一切なく、

二人が自分を信頼して避けないと思っているからこそ、イヴの頭上2cmを弾が飛んでいくような結果になっている。


互いの信頼関係がなせる芸当と言うことだろう。


しばらくしてレオンが構えを取ったまま停止した。


「勝負がついたのでしょうか?」


「レオン様勝ったかな!? アレ? でも確か相手もレオン様だったよね?? となると……もう一人のレオン様は死んじゃったの?? …………うわ~~~~ん!! レオンざばぁ~~~~~!!!!」


「まぁ……イヴったら」


このイヴの飛躍した考えには流石のリプスも驚いている。




「くっそ! 勝負が付きやしねぇ……」


いくらスキを突いたと思ってもイメージの中の俺はそんなスキを突かせてはくれない……

思わずどういうことだよ! と突っ込みたくなるような身体の使い方で、銃口をそらされてしまう。

まぁ……結局こっちも同じよう動きで対処してるんだけども……

諦めて視線を二人に視線を向けてみると……


「なんでイヴは泣いてんだ?」


号泣するイヴをリプスがワタワタと慰めている所だった。


「一体どうしたんだ?」


俺は二丁拳銃をイヴに手渡しながら問いかける。


「レオンざばぁが死んじゃっだの~~!!」


そう言いながら涙と鼻水でグチャグチャになった顔のままレオンに全力で抱き着いてくる。



お……俺の服が……



「いや……俺は生きてるだろ」


そうイヴに問いかけるが、どうやら何か違うらしく納得してはくれない……


「リプス、どうなってる?」


レオンはギブアップとばかりにリプスに問いかけた。


「その……レオン様が先ほど架空の対戦相手としてイメージされていたのは、レオン様ご自身ではないですか?」


「おお! よくわかったな」


「それは簡単です。 レオン様の動きに、ああも対応できる者はレオン様くらいでしょうから。それに見ているうちに、こちらでも容易にレオン様の虚像を作り上げることが出来ましたから」


「なるほど。 で? それとこのイヴに何の関係が?」


未だにワンワンと泣き続けるイヴの頭をワシャワシャと撫でる。


「大ありです……レオン様が架空の戦闘をやめたと言うことは、勝負がついたということ……つまりはどちらかのレオン様が命を落としたと……」


イヴの頭を撫でる人物がもう1人増えた。

リプスも愛おしそうにイヴの頭を撫でる。


「どうやら、レオン様が死んだということに反応しているらしくて……」



――マジデカ



俺はもう一度イヴに視線を落とす。

全力だ……いまだに全力で泣いている……

マジ……なんだろうな……

じゃあ早く教えてやらないと。


「イヴ?」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


「イヴ??」


「うわあああああああああん!!!!」


「イヴ!!??」


「な゛ぁに゛?」


やっとの事で俺を見上げたイヴの顔は相変わらずグチャグチャだった……

鼻水が俺の服と繋がっている……


「あのな? どっちかの俺が死んだと思ったのか?」


「う゛ん……」


「まてまてまてまて!!!」


また泣こうとするイヴを必死に止めに入る。


「あのな! 勝負つかなかったから!! どっちの俺も死んでないぞ!!!」


俺の言葉にイヴの頭上の耳がピクンッ! っと反応する。

それと同じくしてイヴがピタリと泣き止んだ。


「どっちのレオン様も死んでないの??」


「ああ」


「本当に本当??」


「ああ」


するとイヴの顔がグチャグチャのまま満面の笑みに変化していく。


「ほら見ろ! やっぱりレオン様は強いんだぞ!! いくらレオン様だとしてもレオン様をやっつけることなんてできなんだぞ!!! 参ったか!! レオン様!!! ワハハハハハハ!!!!!」


俺のことを俺相手にイヴは誇ってんのか?


わけがわからないな……


”で? イヴはどっちの俺を応援してたんだ?”

そんな言葉をかけようとして寸前の所でリプスと目が合った。

リプスは俺ににこやかに黙って首を横に振っている。



バレテル?



イヴの反応が面白くて意地悪しようとしたことは、どうやらリプスには御見通しのようで……

今の言葉をかけると間違いなくイヴの頭はショートする……

そんなイヴを見てみたかったのだが、今の尻尾と耳をピーンと立てて、ドヤ顔を誰かに向かって決めているイヴを見ることで我慢しよう。



レオンはカバンからハンカチを取り出すと、グチャグチャの顔のイヴを問答無用で拭きにかかる。


「うわ!」


ドヤ顔をいきなり中断されてイヴは驚いているようだ。


「よし、綺麗になったな」


「レオン様ありがとう!」


「おう」


すっかり綺麗になったイヴの礼に答えていると、


「レオン様?」


「なんだ? リプス」


「どうでしたか? 私たちの武器の使い心地は……」


「あ! ボクも気になる~!!」


そうか、そうだったな。

イヴの反応に忘れかけてた。



ゆっくりと二人に向き直る。

そんな俺をワクワクした表情で見つめる二人に俺は……



「正直微妙だ」



そう告げるのだった。

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