第25話 無言の視線
「よし……」
今後の方針を決めたことと、三人でしばらく抱き合っていたおかげで、どうやらレオンの気持ちも落ち着いたようだ。
意を決して立ち上がると、二人も何も言わずに寄り添った。
部屋を出て目に飛び込んでくる光景はやはり地獄……
死んでしまえばみんな同じ……そう言う者もいるだろうが、このまま放置していくというのはレオンの良心が許さない……
「後でなんとかしてやるからな……」
横たわる数多くの遺体に向けてそう声をかけた。
聞こえていないのか、それとも先程のレオンの言葉を受け止めてくれているのか……
二人はその声に特に反応こそしなかったが、同じように遺体達に目を向けていた。
気持ちを切り替えこの地下空間を見渡してみると、数多くの横穴が見える。
もしかしたら捕らえられたままの生存者もいるかもしれない。
レオン達はその横穴を一つずつ見て回ることにした。
だがそんな淡い期待はことごとく裏切られた。
横穴はあの男達の寝床であったり、地下空間よりも更に酷いありさまの部屋であったり……
何時からそのまま放置されているのか……牢屋の中で腐りはて、完全に白骨化してしまっている遺体など……
生存者は結局一人もいなかった。
そして最後の横穴、地下空間の一番最奥。
ここの横穴だけに仕掛けられていた数個の罠を抜けた先にそれはあった。
「よくもまぁこんなに溜め込みやがって……」
思わずそう漏らすほどのそれは、唖然とする程の量の略奪品。
装飾の施された剣や盾、鎧に、
そんな物が所狭しと、特に整理されることもなく乱雑に山積みにされていた。
足元に落ちていた金貨を一枚拾い上げてみる。
獅子だろうか? 凛々しい動物を紋章の様にかたどった刻印が刻まれていた。
ふと気になり、別の場所で山になっている金貨を一枚拾い上げてみる。
こちらに刻印されているのは人か……
男性の横顔が刻印されていた。
王冠を被っている所から見て、この金貨を作った国の現国王か、もしくは歴代の国王と言った所だろう……
この2つを見比べてみると面白いことに大きさは全く一緒だった。
重さも……持った感じでは同じにおもえる。
レオンは金貨をリプスに投げ渡す。
「その金貨の重さなんだが、どうだ? リプスにはどっちが重く感じる?」
リプスは少し考えるそぶりを見せた後、
「私にはどちらも同じ重さの様に感じられます」
「やっぱりか」
リプスもそう感じるのだから、微妙な差はあったとしてもこれが何かの規格をもとに、合わせてつくられているのは明白だ。
「ボクも、ボクも!」
リプスから金貨を受け取ったイヴもリプスをまねて何かを考えるそぶりを見せたのだが、
「おいしいかな?」
「食うな!」
「残念……」
イヴはそう言うとレオンに金貨を返した。
動物をモチーフにした刻印に、人をモチーフにした刻印……
両方ともがこの世界で現在流通している通貨だとすれば、ここまでモチーフが違うのだから、この2つがそれぞれ別の国で製造された物だと考えるのが自然だろう。
注意深く周囲の金貨などを見てみると、この2つとはまた違う種類の金貨が存在する事がわかる。
刻印こそ違えど、重さや大きさが同じ金貨が数種類……
ここからわかることは、今この世界の国々は貿易を行っているということだ。
勿論、いがみ合っている国もあるだろうが、通貨の規格を各国で揃える理由なんてそれ以外思い浮かばない。
ただし、それは国単位のことであって、各国の国民がどの国の通貨でも使用可能なのかと言う点までは、今現在では流石に不明である。
何も知らずにいがみ合っている先の通貨なんて店で出そうものなら、即刻警備隊に連絡される……
そんな危険も秘めているかもしれない。
見渡してみても勿論整理なんてされていない……
そりゃそうか、あんな連中がそんなことをするわけもない……
持っていくにしても、先々のことを考えると、後で整理することが必要だな。
そう思いながら金貨の山に手を伸ばしたレオンの手が止まった。
「ゲームでは……こんな宝の山を見つけたら喜んで持って帰ったんだがな……」
あえて口に出した――
ゲームで盗賊を討伐して、最奥に眠っていた宝箱を開ければ、持ち主は俺だった。
そこに何の疑問も持たなかった。
でも今はゲームではない……異世界とは言え、これは現実なんだ。
この金貨や宝石の山は盗賊達の持ち物ではない。
あの無残な遺体になってしまった者達の物だ。
何処かのお偉いさんへの使いの最中に襲われ、貢物ごと拉致されたのかもしれない……
家族で一生懸命働いて一生懸命溜め込んだお金だったかもしれない……
そんなことを思うと、ここで俺が持って行っていい物なんだろうかと言う考えが浮かんでくる。
しかし、相手はもう物言わぬ遺体だ……
持ち主を探してやることも難しいだろう。
そもそもだが、俺はこんな大金がいるんだろうか?
冷静に考えてみる。
”食”
うん……リプスとイヴにはどうやら必要ないようだが、俺はそうではないらしい。
ここに金は必要だな。
この国での金貨の価値が未だにわからないので憶測でしかないが、仮に国王が食べる食事を続けたとしても、こんな金貨の山が無くなってしまうと言うのは当分先におもえる。
そして俺にそんな趣味はないので、過剰な量であることは明白だ。
”住”
目的の一つが、世界を隅々まで見て回るだから、定住するというのは違うな……
全てを見終わった時……そんな考えも出ては来るんだろうが、今はこれも興味はないな。
となると、宿ってことか。
連日
だが俺は煌びやかな宿よりも、年季の入ったリリスのあの店の様な宿に泊まりたい……
さらに言えば別に安全性なんて求めてはいないので、何なら三人で肩を寄せ合ってテントで野宿しても問題ない。
うん……ここもそんなに金は必要ないな……
”衣”
俗に”衣食住”なんて表現されるため、そこからすれば順番は最後になってしまったが、これはRPGのゲームでは一番金がいる部分だ。
そう、
”武器”と”防具”
これは当たり前だが、値段が跳ね上がれば跳ね上がるほどに、攻撃力や防御力が跳ね上がるのと同時に、有意義な特殊効果なんかも付与されていたりする。
俺の場合、新しい街に到着すると、まず最初に訪れるのは、武器・防具屋だった。
主人公から順番に最強装備をそろえていき、仲間の装備のお金が足りず、苦い思いをしたのは一度や二度では無い……
つまり、ここには本来ならば大金がいるのだ。
だがどうだ……
俺はこの世界に転移するにあたって金は引き継いでこなかったが、恐ろしい能力値を引き継いできた……
防具……こんな身体で必要なんだろうか?
武器は……
俺は二人を見る。
「どうかなさいましたか?」
「んにゅ?」
無言の視線に二人が反応する。
そんな二人を見て、レオンはため息をつくのだった――
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