第8話 無人を装う村

レオン達は結界を確認した後も特に急ぐことはなく、ゆっくりと歩いて結界の前……つまりは村の入り口へとやってきた。

途中何かしらの警告、もしくは威嚇などの動きでもあるかと思ったのだが、やはり人の気配は家の中にあるままで、特にそれらしい物は無かった。



「さて……どうしたもんか」


レオンは結界を見上げる。

中央にある広場には、他の家と比べて立派な背の高い建物があるのだが、結界はその全てを包むことはできなかったようだ。

屋根の一部が結界の外にはみ出してしまっている。

しかし、それを除けば村全体を包むことには成功しているのだから、これが強力なものになれば、立派な結界として機能するのだろう……


「これ……別に壊さなくても問題ないよな?」


魔法全般に関してはさっぱりなレオンはリプスに問いかける。


「そうですね……勿論このような物を壊すことは造作もないことですが……壊す意味すら無いです。このまま通り抜けて何の問題もないかと」


「そうか……」


リプスに知識を植え付けてくれた創造主とやらに感謝だな。


――――不必要な知識もテンコ盛りな気がしないでもないが!


レオンは結界へとゆっくりと手を伸ばし、そのまま突っ込む。

垂れ下がっている一本の絹糸を押すくらいの抵抗を感じた様な気もするのだが、特になんの異常もなく結界の中へと侵入した。


「本当だな……よし、行くぞ」



そしてレオン達は、として村の中へと足を踏み入れた。




「こんちわ~」

「もし……」

「ヤッホー」



三人でそんな感じに声をかけながら、人の気配がある家の前を渡り歩く。

しかし、より息をひそめるばかりで特に返答がない。



困った……



「出てこないな」


「レオン様を無視するなどと……」


「リプス……俺はそんなこといちいち気にしないから……もう少し沸点を上げてくれ……頼むから」


「努力します……」


頼むぞ……本当に……


「でも人の気配はするのにね~? ドア壊していい??」


「やめろ……」


本当にこの二人にはヒヤヒヤする……

旅を続けていくうちに変わってくれることを切に願わざるをえない。



しかし、こういう時ゲームってホントひどいことしてたよな……


ガチャガチャガチャ!!


”鍵がかかっているようだ”


”しかし、中に人の気配がする”


”どこかに鍵があるかもしれない”


――――


自分が居留守使っててドアノブガチャガチャなんてされたら恐怖しかない。

どこの借金取りだ……

しかも鍵を探そうとか……


もっとひどいのだと、ピッキング……なんて行為が可能だったりするし。

鍵が空いている家には勝手に入り、宝箱やタンスをあさり……壺を破壊し、金銭やアイテムをもって行く……


そして最後に何食わぬ顔で住人に話しかけ、世間話をしていくのだ……



サイコパスだろ――――



勿論そんなことをするつもりなんてない。

やったことなんてないが、住宅地への飛び込み営業ってこんな感じなんだろうか……



仕方ないのでレオン達は村の中央の広場へと足を進めた。

広場には雑草などがあちらこちらから生えてしまっている。

手入れが行き届いていないのだろう。

いや、人の往来などがちゃんとあれば土が踏み固められる為、雑草なんて生えにくいはずだ。

つまりは日頃から人の往来がない……そういうことだろう。



「どうされますか?」


考え込むレオンにリプスが問いかける。


「ん~……なんでこんな有様なのかってことを聞いてみたいんだがな……こうも引きこもられた上に返答無しとなると……」


「誰か来るよ」


イヴが耳を立てて音のする方を見る。

丁度背の高い建物の裏のあたり。気配はレオン達から見えないギリギリの所で止まった。



勿論三人とも気が付いているので、視線を気配に向け、姿を現すのを待つ。

意識をそちらに集中しているので、隠れている者の息遣いを聞くことができた。


スーハー、スーハー……


どうやら深呼吸をしているようだ。


しかし、その呼吸は浅い……

肺があまり大きくないのだろうか?

と言うことは……女性か……子供と言う可能性が高い……


スーハー……スーッ!


息を吸い終わり、力を込めたのがわかる。

どうやら決心がついたようだ。

予想通り、隠れている人物がまさしく


バッ!!


そんな効果音が聞こえてきそうな感じで勢いよく姿を現した。


「こ! この村になんの用があるんですか!! あんた達みたいな連中が欲しがる物なんてもう何にも無いんだ……か……ら?」


子供の声で精いっぱい勇ましく叫びながら現れたのは少女だった。

歳はあっても10代前半だろう……

不意打ちをくらわせて驚かすつもりだったのだろうが、まるで好きな有名人の出待ちでもするかのように待っていたレオン達の視線をモロに受け、少女はたじろぐ。


レオンの頭の中に、



そんなくだらないフレーズが浮かび上がってきた。



「レオン様……」


リプスがそっと耳打ちをする。


「ん? どうした??」


「この村の結界ですが、どうやらあの少女による物のようです」


「本当か?」


「ええ……あの少女の持つ魔力と、この結界の魔力は波動が似ています。恐らく間違いないかと……」


レオンはもう一度結界を見上げる。

威力は弱くともこの規模の結界を張れるのがこの少女?


「リプスの知識として、あの少女の年齢でこの結界ってのはどうなんだ?」


「そうですね……」


リプスは人差し指を唇にそっと当てながら考えている。


「エルフや獣人種といった亜人種は見た目は幼くともウン百歳……なんて場合もありますから、見た目だけでは判断できないのですが、人間種であればそれが可能です。そこからの推測では、あの子ほどの年齢で既に才能を開花させ、もっと強力な魔法を使うものもいるにはいると思いますが……」


「へ~、やっぱいるんだな」


「ええ。ですがそれは優秀な師の導きがあってこそです」


なるほど……

俺が元いた世界でも、とんでもない天才以外、一流選手や一流の音楽家、芸術家、などなど……

そう言った人物のドキュメンタリー番組や書籍なんかを見ると、絶対と言っていいほど幼少期の恩師……そんな人の紹介があるものな。


「そして……あの子にはまともな師はいないのではないか……この結界を張っていることに本人は気が付いていないのではないか……そんな予測を立てています」


「無意識でこんなもん張り巡らせてるのか?」


「そうなりますね。先程も申しましたように術式がかなりおろそかです。知識があるものはまずこんな術式を組みません。この子の想いがこのような結界を無理やり作り出している……そんな所かと……」


驚いたな……それってつまり才能があるってことじゃないのか?

それと同時に、この少女以外誰にも会っていないのでわからないが、村人全員が子供なわけはないだろう。


少女の口調からして村の人間は何かにおびえているのは間違いない。

そんな中でこの少女が大人を差し置いて一番に俺達に向かってきたんだ。

この村を守りたいという思いがかなり強いんだろう……


「エマ!!」


固まってしまっている少女の名前だろうか?

悲痛な表情で叫びながら一人の女性が同じように建物の裏から飛び出し、庇う様に抱きしめる。


「この村には本当にあなたたちが望むような物はありません! どうか……どうか……子供達だけは……」


女性はそう叫びながら力強くエマと呼ばれた少女を抱きしめながら、そのまま泣き崩れてしまった……



うん……



これは100%誤解されているな。

恐らくの同類と思われてるのか……

それだけでの理由であれば誤解を解くのは可能だろう。



レオンはそのままゆっくりと女性と少女の元に歩み寄る。

足音を聞き、女性はより少女を庇おうと、抱きしめたまま完全にレオン達に背を向けた。

嗚咽おえつしながら肩を震わせる女性の肩にやさしく触れる。


「賊かなんかと勘違いされてるようだが、俺達はそんな奴らじゃないから安心してくれないか? まぁただ”放浪者”なんて身分なんでな……怪しい者達ではありません……なんて胸を張って言えるのかは自信ないが」


合わせてレオンはできる限り穏やかに語りかけた。


この言葉を聞き、女性はゆっくりと振り返る。


そして、レオン……

広場の中心で待機しているリプス……イヴと順番に視線を向けていき、


「エルフに獣人……」


そして最後にまたレオンへと視線を戻した。


「この国の人達ではないのですね……」



まただ……

王子もそうだが、なぜ俺達を見て、即この国の人間ではないとわかるのか……

服装は王子達の装備と比べてみても、俺達が奇抜すぎるなんて印象は受けなかったぞ?

俺達が異国の者と即座に認識されるわけ……

何とか聞いてみたい。


そして……


この村に何が起きているのか?

もしかしたら、賊が好き放題暴れられた理由に繋がっているかもしれない。


レオンは片膝を突き、女性と少女と同じ目線の高さになった。


「もしよかったら……なんだが。あんた達……更にはこの村の人々が何に怯えていたのか……教えてもらえないか? もしかしたら力になれるかもしれない」




レオンはこの村と関わってみると決めた―――

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