強くてニューゲームから始まる異世界転移ールクスオブダークNewgame+ー

第一章

第1話 大剣と銃

「くそ～降ってきた～！！」

降り始めた雨の中を一人の青年が必死に走る。

彼の名前は寶井（たからい）レオン。

もうすぐ高校を卒業する予定の18歳だ。

つい先程まで晴れていたのだが、

最近は、雨が突然降り出したかと思うと、集中豪雨の様に凄まじい雨が振ることが多い。

恐らく今回もそんな感じだろう。

「どこか雨宿りできる場所は……この辺り最近できた大型商業施設の影響でどこも店がしまってるんだよな……」

昔は、賑やかで人通りも多かったであろう商店街。

今ではシャッターでどの店舗も閉ざされ、黄昏（たそがれ）時の中ではどこか不気味ささえ漂っていた。

いよいよ本降りになり掛けたその時、ふと1軒の店がレオンの目に飛び込んできた。

(こんなところに店なんてあったかな？)

見れば灯りもついている。どうやら営業中のようだ。

空を見上げると、先ほどよりも厚く、黒い雲が頭上に迫っていた。

考えている時間は無い、ここで少し時間をつぶさせて貰おう。

そう決めるとレオンは何屋かも判らないまま店のドアを開けた。

――チリンチリン

扉に吊り下げられた鈴が心地よい音色を辺りに響かせるのと同時に、雨はやはり豪雨へと姿をかえた。

「こりゃしばらく帰れないな……」

覚悟を決め、レオンは店の中へと足を踏み入れる。

扉を閉めると不思議なことに、隣にある窓からバケツの水をひっくり返したような雨が降っている様子が見えるのだが……

――その音が全くしない

防音なのだろうか？しかし扉の造りはそんなにしっかりとしたものには見えない。

ザァーーーーーーーーーーーーーー！！！

ためしに扉を開けてみると豪雨の凄まじい音が聞こえてきた。

まるで魔法だ……

「やっぱり……こんな薄い扉で防音なんだ……最近の技術はすごいな……」

実際目の前で起こっているこの事実を受け入れないわけにはいかない……

レオンはどこか煮え切らない表情のまま再び店の中へ足を進めた。

店の中には御香だろうか。甘い……でも決して嫌ではない、そんな香りが立ち込めている。

棚に置かれている商品と思われる物は、壺や皿、古い本、あとは瓶に入った植物や不思議な色の液体……

更には本物なのだろうか？

何かの生物の頭蓋骨……そんな物が置かれていた。

「まずい店に入っちゃったかな……」

陳列している商品を見て、誰がまともな店だと思うだろうか……

店は外観に反してかなりの広さがあるようで、どうやら奥へと長い構造のようだ。

棚に置かれている物に１つ１つ目を向けながらレオンは歩いていく。

どうだろう……店内に入ってすぐはまずい店と思ったのだが、こうして注意深く見ていると、どれからも惹きつけられるような魅力のような物を感じる。

しかし、心が拒絶しているとでも言うのだろうか……

それを手に取ろうとは思わない……

そんなことを繰り返しているうちに、当初の目的だった雨宿りのことなどすっかり忘れ、レオンは商品を見ることに没頭してしまっていた。

ふと、何かに引き止められるように自然と足が止まり、引き付けられるように向けた視線の先には1本の剣が鎮座してた。

「なんだこれ……」

この世の物とはとても思えない、その姿に思わず絶句した。

――大剣だ

それもとてつもなく大きい……

切先から柄までの長さや幅は、平均的な成人男性よりも若干大きい。

その鋭く磨き上げられた片刃の刀身からは、軽く触れるだけで腕など簡単に切り落とされてしまうんではないか……

そんな印象を受けた。

そして、この世の物とは思えない一番の要因が剣の横腹の部分だ。

色鮮やかに光り輝く赤色がゆらゆらと蠢（うごめ）き、まるで生き物のようである。

更によく見ると細部にまで装飾が施されていて、これが美術品としてもかなり高い価値があるものだということは容易に想像できる。

「……美術品なんだろうな」

重量などどれほどだろうか……

流石にこれを自在に振り回せる人間なんて想像できない……

大剣のあまりの存在感と薄暗い店内のせいで気が付くのが遅れてしまったが、反対側の壁には

――漆黒の銃

どこまでも吸い込まれてしまいそうな印象を受けた。

リボルバータイプの銃だが、こちらもどう見ても普通の銃ではない。

銃身部分の幅が異様に分厚く、何より大きい。

刃の部分を無くして鈍器になった鉈（なた）……そんな感じだろうか。

撃てる弾の大きさもかかなりの物なのだろう……

こちらも細部にまで装飾が施されており、金色で掘られた模様は漆黒の中に浮かび上がり、見るものを魅了する。

「こっちも美術品だよな……」

そもそも銃の販売は、この国では犯罪である……

通路を挟んで対角に飾られているこの二つは、言い表すならば大剣からは光、対して銃からは闇……

そんな印象をうけた。

「いやいや……ここにあるものは全部本物だよ」

突如後ろから声を掛けられ、レオンは思わず飛びのいた。