第3話 俺という存在

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リプスが言い放った言葉は、とてつもなく強力な寒波をこの一帯にもたらした……

レオンは視線だけを動かし、周りの様子を探ってみる。

誰一人として瞬き一つしようとしない……


歩み寄ってきた王子を一刀両断した上に、得体のしれない俺を、王子に”様”をつけて呼べ……だからな。

考えただけで身震いが……


俺っていったいどんな存在なんだ?

勿論考えてみたところで俺の中にそんな答えはなく……

さっきのダークエルフよろしく王子をさげすんだ目で睨みつけるリプスと、いまだ唸り声をあげているイヴの中にしか答えはない……



こんな視線と威嚇をもろに受けている王子は今どんな表情なのだろうか?

そう思い視線を王子に向けてみると、意外にも王子は先程の少し困り気味の表情を浮かべているだけだった。



「なるほど……敬意を払うべき存在……ということかな?」


王子はリプスの目を見つめて問いかける。


「ええ……貴方達とは懸け離れた存在です。お眼にかかれただけでもその幸運に歓喜し、ましてやお声をかけて下さったのです。貴方の生涯で今が最良の時と知りなさい」



このリプスの言葉に流石の王子も目を丸くする。

そして……それはレオンも同じだ。



おい……おい……おい……おい!!!!

なんだよそりゃ!

俺はいったいどんな存在なんだよ!



なんだ? 俺は神とでもいうのか――――??



あ……

そうか……

俺はの混血だった……



そこでやっとレオンは自分の存在が何者なのかということに気がついたようだ。



リプスにしろイヴにしろ、それを主軸に動いてるのか? もしかして……


……


あ~……

そうだな……懸け離れた存在だし、神や悪魔を信仰する人からすればお眼にかかれただけでも……かもしれない。



納得した――



納得した……が! これはまずい。



「君達二人は本当に彼がそのような存在だと考えているのかな?」


王子は確認のためにリプスとイヴを交互に見つめる。


「愚問です」

「あたりまえだね」


そして、その問いに二人は冷たく言い放つ。


「驚いた……」


王子は正直少し引き気味だ。

それはそういう反応にもなるだろう……


そろそろ何とかしないと……今後の俺の予定が大きく狂いかねない……


レオンはこの場の収め方に考えを巡らせる。


「さっきも言ったが、僕はこれでも王子という立場なんだ。”国”を背負って立つ以上、僕の立ち居振る舞いで国の優劣が決まってしまう場合もある。申し訳ないが、なんの根拠もなくそういった態度を彼にとることはできない」



王子の対応はとても理にかなっている。

不快なところが微塵もない……

この王子……出会って間もないが……

この絶望的な状況からではあるが、友好的までいかないにしても、なんとかフラットな状況にまで持っていきたい……



「彼にそう言った態度を取るのが望ましい……そう僕に思わせるだけの”根拠”を提示してくれれば、僕は国のため、君達が望む対応と、今一度僕達の無礼を詫びさせてもらおう」



ああ……

もうだめだ……

王子がここまで言っているんだ……

正体を明かさないと場が収まる気がしない。

でも……なんて言うんだ?



私は神だ――――



両手を広げ、ヴィジュアル系バンドのボーカルみたいなポーズをとる俺。



これじゃあ、な人に認定されそうだ……

いや……そっち方面に振って、関わるのをアホらしくして逃げるか?



…………やっぱり嫌だ。

あ~~~!!! どうすんだよ!!!!



そんなレオンの頭の中で行われている会議をよそに、


「それはできませんね。レオン様の御意向に反しますので。貴方達自身でレオン様の偉大さを感じ取られてください」


リプスは自分の信念に基づいて、そんな無茶苦茶を押し付けようとしている……


あきらめよう……


レオンがそう思った時、


「プッ………アハハハハハ! いや……アハハ! 失礼……アハハハハハ!!!」


この場の雰囲気を一蹴するさわやかな笑い声を王子が響かせる。

レオン達を含め、時が止まっていた者達も何事かと王子をみる。


「アハハハ……! ククッ…………!! プッ……………ダメだッ……アハハハハハ!!!!」


笑いをこらえようとはしているが、どうやらツボに入っているらしく、王子は身をくねらせながら悶えている。

これには流石のリプスもあっけにとられているようだ。

しばらく笑い通して、王子はやっとのことで落ち着きを取り戻した。



「どうしたんだ……?」


レオンが思わず王子に問いかける。


「申し訳なかった。これは純粋に失礼な行為だ。僕個人として君達に詫びたい。すまなかった」


そういうと王子はレオン達に頭を下げた。

しかし、そんなことをしたのでやはり周囲がざわめく。


「いいんだ!」


王子はそう言って周囲を静まらせる。


「こんなに笑ったのは久しぶりだ。すまなかった。君……名前をまだ聞いてなかったな。君があまりにもうちのエメリナと似た言動をするのでね。世の中にエメリナほど一直線な者はいないだろうと思っていたから……」


そういうと王子はまた笑いだしそうになるのをこらえている。

この発言に怒ったのはやはり二人だ……


「な!? ルーウィン様!? 心外です!! あのようなエルフと似ているとは……訂正してください!!」

「節穴にもほどがあります……あのような下品なダークエルフと一緒にされるとは……これだから……」


怒りをあらわにするタイミング……内容共にきれいに同じだ……


確かにこれは……


「そうだな……似ているな」


レオンも素直に賛同した。


「貴様!!」

「そんな……レオン様まで……」


やっぱり同じだ……


ん? この雰囲気……今ならいけるんじゃないか?


レオンはすかさずこの雰囲気にも左右されずに唸っているイヴの頭をワシャワシャとなでる。


「♪~~~」


イヴは即唸るのをやめて、嬉しそうに尻尾を揺らす。


扱いやすい……

よし……!

これで、いま場の雰囲気を悪くする者はいない。


レオンは小刻みに肩を揺らす王子に声をかける。



「こちらこそすまなかった。うちのリプス、そしてこのイヴは俺を慕ってくれていてな。その想いが強すぎる場合が多々あってな……」


「そうか……不思議だな。僕にも覚えがありすぎるよ」


なんだろう……この二言で一気に俺達の距離が近づいた気がする。

リプスのあの言葉から……こうも劇的に変化するとは……

世の中何が起こるかわからないもんだな……

なんて、今こんな状態でここにいる俺が言うのはヘンか?



レオンは自分でそんなことを思って少し笑みが漏れた。

そんな様子を察したのか、王子がレオンに声をかけた。


「話をしたいんだ。 構わないかな? レオン」


しかし、再度の呼び捨てに二人が即座に反応した。


「かまわない」


レオンの静止を受け、二人は面白くなさそうにすねてしまった。


「ああ。だが、さっきも言ったが答えてやれないこともあるってことを、理解してくれるとありがたい」


「そうだな。考慮するようにはしよう」


先程の雰囲気とは180度変わった王子からの質問。

それに伴って周囲の兵士達は顔を見合わせレオン達への警戒を解く。

その代わり、王子がいる為だろう。

周囲への警戒に切り替えた。





そんな雰囲気の中で三人だけが、面白くなさそうな顔を隠そうともせずに、互いの主の側で口をとがらせているのだった。

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