五人目:猿川モモモ
「3つずつの塊を4個。それに頭をワンセット。これが和了りの基本」
「ふふん? 引いて捨てて引いて捨ててを繰り返して、この形を作るってのが基本ってことですか?」
「そうそう。で、例えばさ。和了った時に全部がこの
先輩は
「確かに! 揃えるの難しそうですね」
「そうだろ。だから和了った時にこういう形だったら、点数が高いんだよ。他にも、
「ふふん。つまり、とりあえず和了れば点数は入るけど、狙えるならできるだけ綺麗な手を目指した方がいいってことなんですね」
先輩は大きく頷いた。
猿川モモモは麻雀にずっと興味があった。
しかしついにやる機会のないまま社会人になってしまっていた。
麻雀漫画を読んだ雑な知識でネット対戦を行い、光ったボタンを押し続けたら「役なし」と表示されて訳が分からなかったことをきっかけに、一念発起して先輩に麻雀を教えて貰っているのだった。
猿川モモモは環境に恵まれていた。
彼女の先輩は、雀星杯の予選に招待されるほどの実力者だった。異能者ではなかったが。
しかも感覚派の麻雀打ちではなく、理論を理解しているうえに、初心者向けの教え方も巧みな人物だった。
猿川モモモはすぐに麻雀の基礎を覚えた。
「でもな、猿川。最初は役なんて考えなくていいぞ。
あと一手で和了るときに宣言すれば自動で役がつく立直。先輩はまずこの役を教えた。
本当は立直だけでなく、役牌、タンヤオ、トイトイ、
そのため、ある程度麻雀に慣れるまではメンゼンを徹底させる方針だった。
「先制立直。特に親が誰よりも速く立直を打つと、周りは和了るのを諦めてくれることが多い。だから最速で
「ちなみに、親って何なんですか?」
「親は先行プレイヤーだと思えばいい。最初にドローする人。ただし、親は和了った点数が子の時と比較して1.5高くなる」
「1.5倍!? 10000点が15000点になるってことっスか? バケモンじゃないですか」
「そうだよ。だから、親の時にさえ和了れば子の時は全く和了らなくてもいいまである」
「……ふふん?」
猿川モモモはわかったようなわからないような顔をした。
「うし。じゃあオレが実際に打つところ後ろで見とけ。今から雀荘に行くぞ」
二人は雀荘に着いた。
「こいつ初心者なので後ろで座らせときます。邪魔はさせないので」
先輩は一言断ってから、配牌を開いた。
わかりやすく
先輩は東場で二度和了り、東場が終わる頃には猿川モモモもかなり麻雀の流れについて理解して来ていた。
南二局。
「じゃあ猿川、交代しようか」
「えっ、あ、わかりましたー」
猿川モモモ、初のリアル麻雀。
たどたどしい手つきで牌を取り、切る。
それを何度か繰り返したが、パッとしない配牌にパッとしない切り方だったので、終盤に他家が和了って南二局が終了した。
しかしこの次の局が、彼女の人生を大きく変えることとなる。
「猿川、お前が親だからな」
「ふふん? オヤー! 親は確か点数が1.5倍なんですよね」
「そうだ」
そう言いながら牌を開けるとかなりの好配牌で、6巡目という序盤にして
喜びながら立直を宣言する。
結局終盤にツモり、幸先のいいリアル麻雀生活となる。
そしてその直後。
「……っ!」
猿川モモモの手牌を見ていた先輩が思わず息を呑んだ。
再び6巡目跳満聴牌。
「立直!」
「調子いいなあ」
「乗ってますねえ」
その局は誰も和了れず、流局。
しかし南三局二本場。
三度目となる、6巡目跳満聴牌。
さすがの先輩もこれには血の気が引いた。
「……猿川、おまえ…………」
「なんですか? あ、それロンです」
彼女は一人を飛ばし、その卓の一着となった。
「猿川、もう一局だけ打たないか?」
「いいですけど」
次の卓でも、猿川はなぜか親番の時に必ず6巡目跳満聴牌をした。流局したり、他家に和了られることはあったが、これは異常事態だと先輩は察知した。
猿川モモモにとって、麻雀の基本は以下の二つである。
最速で聴牌を取りに行く。
親の時にだけ和了ればいい。
その二つの意識が混ざり合い、彼女に異能を芽生えさせた。
親番の際、必ず6巡目で跳満を聴牌する異能。
「……猿川さ。こういうのに興味があるか?」
帰宅後、先輩は麻雀において猿川には敵わないと判断して――封筒を手渡した。
雀星杯の招待状だった。
彼女はリアル麻雀歴一日足らずで、雀星杯へのチケットを手にすることとなった。
『
雀星杯本戦、出場決定。
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