東三局
「ポン!」
相変わらず彼の配牌には
親番である真城ノボルは驚異的なペースでもう3本目(リセット前を含むと16本目!)のロング缶に口をつけている。
すなわち彼はこの局2翻の和了りにたどり着くことができる。
2翻。親だとしても基本的には2900点~3900点。まだまだ警戒するほどの打点ではない。
もちろんトップ目の親は何に変えても早めに流すべきなのだが、兎田の配牌は前局ほど速い手ではなく、最速で場を回すことは難しそうだった。
『親っ跳ね』の
逆に言えば、真城の親番を流せるのは兎田か狐火のどちらかしかいないということになる。
「……」
決して速い手ではない配牌を見ながらどうしたもんかなあと考えているところに狐火からのポンが入った。
「おっ速い仕掛けかぁ~?」
真城は狐火の表情を伺いながら彼が鳴いた意図を想像する。
麻雀で”鳴き”という行為を行うと、他家から牌を貰える代わりに、いくつかリスクがある。
鳴いたら作れない役があったり、振り込むリスクが増えるのだ。
しかしそのリスクを加味した上で鳴いたということは――すでに役が完成しているか、鳴くと速い手を抱えているか。
三元牌は既に河に数枚見えていたので、後者だと推測する。
「……」
タンヤオのみ。もしくはトイトイの可能性もあるか?
大幅なトップである俺の親を安い手でサクッと流そうという魂胆だろう。
しかしその真城の予想は二巡後に裏切られることとなった。
「ポン!」
狐火、
彼の右手側に七萬、八萬が合計六枚晒される。
「くっ……」
萬子の
これにより、警戒レベルが五段階くらい上昇する。
鳴いても5翻つく、役満を除いた全ての役で最強の和了。
手牌全てを
「……」
狐火の河には萬子が一枚だけしか切られていない。
初心者の猿川以外の二人はすぐさま狐火を最大警戒の対象として認識した。
それに、狐火には『カンドラ』の異能がある。自分で七萬か八萬をツモって
中盤に差し掛かり、兎田は勝負を降りた。
萬子は決して切らず、役作りに邪魔でも抱えるようにした。
一方、真城は
「まじぃ~?」
麻雀は1,2,3や6,7,8のように連続した3つの牌を1メンツとして扱う。
もし自分が、3,4,5,6,7と持っている場合、2が来たら2,3,4と5,6,7。5が来たら3,4,5と5,6,7。8が来たら3,4,5と6,7,8と言う風に、2も5も8も和了になる状態を三面張という。
麻雀はひとつの牌が4個ずつあるため、三面張の場合和了牌は11枚あることとなり、単純計算で11枚/136枚 = 10%近い確率で和了れる形になる。
麻雀で10%というのは異様に高い数値であり、親の真城は降りる選択肢など存在しなかった。
「……」
真城は、ずっと手の中に抱えていた
九萬。萬子。
狐火が萬子で染めている以上、凄く切りにくい牌である。
真城は逡巡する。
――――しかし。
七萬、八萬をポンしているんだ。九萬で待っていることなんてあり得るだろうか?
もちろん、可能性はゼロではない。
ゼロではないが、七七八八九と持っていたら、七萬や八萬をポンしないだろう。
あとから九萬を単独で引いてきた可能性はあるが――その薄い可能性にビビって親番を流すのは理に合わない。
清一色に振り込んでも満貫。8000点くらいくれてやる!
ここは、押すところだ!
真城は力強く九萬を切った。
「
「――――カン」
「は?」
その発声とともに、狐火は九萬を3枚倒す。
「なんっ……なんだその麻雀はよぉ!」
狐火は、七七八八九九九の状態から、七萬と八萬を鳴いていた。
この瞬間、兎田の脳髄に電撃のような閃きが走った。
「――――ここしかない!」
兎田の脳が高速で回転する。
狐火の捨て牌にあるたった一枚の萬子。
自分の手の中にある萬子。
真城、猿川の切った萬子。
それらを重ね合わせることで、狐火の待ちを浮かび上がらせる――!
『牌送り』
兎田は嶺上牌に異能を発動し、狐火に牌を送った。
瞬間、花びらが舞ったような気がした。
「ツモった!」
新ドラが捲られる。
パタリ、と狐火が牌を倒す。
ドラ4
倍満。
「雀星杯は、責任払いを採用していますよね。真城さん。16000です!」
大明槓で嶺上開花ツモをした際、通常のツモのように点数を割るのではなく、槓をさせた人だけに責任を押し付けるルール。
つまり。
真城ノボルはリーチ棒を合わせて17000点を狐火に振り込んだ。
「なんだそのインチキ麻雀はよぉ!!!!!!!!」
真城ノボルのアルコールが加速していく。
■東三局・終了■
狐火: 26000
猿川:15000
兎田:19000
真城:40000
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます