南二局一本場
モンスターの蔓延るこの雀星杯Bブロックで、見事に親満を和了った
「よく来たねぇ、可愛いねぇ〜」
それを見た
ガシャガシャと牌を自動卓の中に入れ、再び草野が真ん中のボタンを押す。
親番継続して南二局一本場。
彼女が配牌を開くと、再びしっかり南とドラが暗刻になっていた。『推し活』は健在である。
暗刻以外の部分が特別速いわけではなかったものの、配牌で満貫確定の2暗刻はバケモノと呼ぶに相応しい手だ。
トップの
さらに、現在9000点持ちの
欲張らない。
一瞬の油断が命取りになるのは卓の空気からもAブロックの決着からもよくわかっている。
しかし、欲張らないが――
――この手は推させてもらう。
草野は力強く牌を切った。
**
犬伏はそろそろ焦っていた。
まだ一度も和了っておらず、2着とすら15000点以上の差がついている。
「さっき安い手でも和了っとけばよかったかなぁ……」
少し前まで手に持っていたカントリーマアムのバニラ味は袋に戻していた。
なんだか恥ずかしくなったのだ。
食べもしないカントリーマアムをずっと抱えているのが。
しかし自分で決めた『何かが解決したときにしかマアムは食まない』というルールがあるため、食べるわけにもいかなかった。
相変わらずの『絶一門』手。
最速の聴牌を目指せば誰よりも速く駆け抜けられる確信があった。
しかしそのタンヤオ手で和了ってどうなる?
この15000点差がひっくり返るか?
それよりも、手の内が明かされて対応される方が怖かった。
手の内がバレれば犬伏の待ちに振り込むことはなくなるし、逆に狙い撃ちをされる可能性がある。
この局はまだ散らす。最後の親番までは、染め手以外で和了らない。
カントリーマアムはその時までお預けだ。
この覚悟が後に鮮やかな奇跡を起こすことになるのだが、この時の彼はまだそれを知らない。
ココア味食べたから早くバニラ味食べないと口の中のバランスが悪い。
犬伏はそんな事を考えながら牌を切る。
**
海老原ミナミは草野ユキを観察していた。
東一局での彼女の和了を見て、君嶋タタリが彼女の異能の正体を看破して以降、しばらく鳴りを潜めていたが、前局でついに南とドラの暗刻を握って和了った。
「あー?」
草野の異能は南と西と中が暗刻になるものだった。
そしてその異能は、好きなキャラに依存していたことまでバラされている。
「あー。なるほど。ドラ……ドラゴン好きだったことを思い出したとかそんなんかね」
海老原ミナミの対応力は異能の域である。
敵の異能を『認識理解』することが彼の異能とも言えるかもしれない。
彼は恐るべき速さで彼女の異能を理解し、速さにさえ警戒すれば問題ないと判断した。
そんな異能なら振り込むことはない。
ならばツモ速の勝負だ。
速度で俺に挑むのか。
三麻で王と呼ばれたこの俺に。
**
しかし、草野の親満も、犬伏の思惑も、海老原の誇りも、彼の前には等しく無力だった。
「…………」
君嶋タタリは牌をツモり、頭の中でもう一巡先をイメージする。
草野がツモり、海老原がツモり、犬伏がツモる。
するとその次は、一巡先の自分のツモだ。
その映像を見てから、切る牌を考える。
麻雀は裏目を引くことがかなり多い競技であり、ツモ切った直後にその牌が来ることはとても多い。
だから一巡先を見る異能は、大幅なアドを稼ぐものではないものの、驚異的な能力と言えた。
東四局、彼がチョンボした局ではこれを意図的に行うことが出来なかった。
頭の中で結んだ虚像の一巡後と、現実のツモが入り混じり、先走ってツモ宣言をしてしまった。
手痛い8000点だった。
現在圧倒的最下位を走っているのも、そのチョンボが原因である。
しかしそれと同時に、必要な8000点だったとも思う。
あそこで点数を支払っていなければ。
あそこで正しくツモ和了りをしてしまっていたら。
自分の異能に気付くことは出来なかった。
君嶋は点棒入れから1000点棒を取り出して、指で弾く。
宙に浮いた点棒がハンドスピナーのようにくるくると回りながら、再び彼の手に戻ってきた。
そのままそれを卓に置く。
「立直です」
君嶋の立直宣言。
他の三人は嫌な予感を覚えながらも、何も出来ずに草野、海老原、犬伏と手順が過ぎた。
次に君嶋がツモった牌は、脳内のイメージそのままだった。
「あ、すいませんツモです」
パタリ、と牌が倒れる。
そこまでは君嶋にとって確定した未来。
一巡先を見る者にとっては容易い一発ツモ。
そして――。
「リー即ヅモタンピンペコ。おっと、裏が乗りましたね。ウラウラで倍満っすね。4000-8000は一本場、4100-8100」
確定した未来が、さらに上振れた。
■南二局一本場・終了■
君嶋:25300
草野:26900
海老原:32900
犬伏:14900
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます