南三局
「ペコ……?」
「あ、
「あ〜〜!」
その説明で彼女は納得したが、それはそれとして倍満親っ被りの事実は変わらない。
「クソ〜〜〜〜〜!」
草野は叫んだが、そこまで悲観的にはなっていなかった。僅差ではあるがまだ2着。トップも射程圏内な上に、次局も南ドラ3が約束されているのだから。
『推し活』によるドラの暗刻は、草野の打点を上げるだけではなく、周りの打点を下げる効果も持っていた。
麻雀は役が1翻あがれば点数が1.5〜2倍に跳ねる。ドラは抱えているだけで1翻あがる効果があるため、高打点には高確率でドラが絡んでいた。
しかし雀星杯Bブロックは4枚(+3枚の赤ドラ)あるドラのうち3枚を彼女が抱えるのだ。
必然的に周りはドラをツモる割合が減り、結果として打点が下がる。
もちろん、立直をかけたときにのみ増える裏ドラがあるため、前局の君嶋のように不意に打点が跳ねる可能性はあったが。
周りの打点が下がるということは、逆転が起きづらいということである。現在2着の草野にとって、それは願ってもない話だった。
南三局。
ゲーム終了まで最速であと二局。『推し活』草野ユキの目前にはビクトリーロードが見えかけていた。
**
一方で、倍満ツモにより最下位から2着に迫る点数まで回復した君嶋は、今の感覚を忘れないようツモの素振りをしていた。
理想的な立直と一発ツモ。
そこに裏ドラまで乗ったのは幸運だった。そのお陰で4000点多く貰えたから。
しかし君嶋は、ツモの素振りを終える頃にはもう南二局の和了のことなんて考えていなかった。
興味と集中が数秒しか続かない彼は、自覚的ではないが気持ちを切り替えるのが得意でもあった。
君嶋タタリは引きずらない。
過去のチョンボも振込みも、前局の理想的な和了ですら、彼はもう興味がなかった。
彼の興味は未だ体験したことない未知の事象のみ。
彼は未来にしか興味がない。
雀星杯Bブロック南三局、親番は現在トップの
配牌で南ドラを抱える草野と、絶一門により爆速の牌効率を実現する
あとは一巡先を見ながらツモ切りして、和了れるタイミングで立直をかければいい。
確定で立直一発ツモがつく。
今ならトップ海老原の親っ被りも狙える。
海老原は確かに鮮やかな麻雀を打つやつだが、その実まだ一度しか和了っていない。
三麻で使用しない牌のみを使った倍満は美しかった。もしかするとBブロックの中で一番いい和了かもしれない。(Aブロックは真城ノボルの開幕役満である)
しかし、それでも勝つのは俺だ。
君嶋が未来を見る。
一巡先に自分がツモる未来を。
彼は前局と同じように1000点棒を指で弾いてくるくると飛ばす。
それを掴み、卓に置いた。
「立直です」
卓に戦慄が走る。
確定した未来が訪れる。
**
「あー」
しかし、君嶋の立直宣言に対して、手を挙げる者がいた。
「ポン」
声の主は対面に座っていた海老原ミナミ。
2索を2枚倒して、牌を切ったあとに今しがた君嶋が切った2索を取る。
一発消し。
立直をかけてから次の自分の手番までに和了った場合、一発という役がつく。
しかし、それを消す方法が一つだけあった。
その巡目内に鳴くこと。
鳴くという行為は弱みを見せる行為でもあるため、無闇矢鱈に鳴くのは推奨されない。
ましてや立直相手ならなおさらだ。
鳴くことで逃げ道が減っていく。人から牌をもらう以上一定のリスクがある。
だからこそ、海老原ミナミは鳴いた。
究極の後手必勝スタイル。
相手の異能を見てから対応する、王の麻雀。
その鳴きにより、巡目と君嶋タタリのイメージが――ズレた。
彼が見た未来では、誰も鳴いてなどいなかった。
海老原は、鳴くべきではない手牌だったはずだ。
君嶋の予想通り、海老原は和了までの手順――シャンテン数が変わらない鳴きを行っていた。
多面待ちの聴牌から、待ちの減る聴牌へ。
それも全ては、君嶋タタリの未来を書き換えるため。
「ロン」
一巡後、未来と異なるツモをした君嶋は、海老原の待ち牌を掴まされた。
「あー、タンヤオ三色で、2900です」
客席で見ていた兎田と真城は思わず顔を見合わせた。
「……『
「それはちょっと……厨二臭いっすね」
王の親番が、続く。
■南三局・終了■
君嶋:21400
草野:26900
海老原:36800
犬伏:14900
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