八人目:君嶋タタリ

『牌送り』兎田とだシュウ。

『推し活』草野くさのユキ。

『カンドラ』狐火きつねびコン。

『泥酔』真城まじろノボル。

『親っ跳ね』猿川さるかわモモモ。

『三麻王』海老原えびはらミナミ。

『絶一門』犬伏いぬぶせイッペイ。


 雀星杯じゃんせいはい本戦へとコマを進めた七人の麻雀打ち、雀星たちは、最後の一人の本選出場者をその目で見るために一堂に会していた。


 同じ場所に集まった七人だったが、彼らが集まった動機は少しずつ違っている。


 兎田と草野は、八人目の打ち筋と、異能の正体を探るために偵察に来ていた。


 狐火と真城、それに犬伏は、自分以外に異能持ちがいるとは知らないため、単純に自分の異能が通じるかどうかの確認をしにきた。


 猿川と海老原は自分に異能があることすら気付いていない。

 しかし、初心者の猿川は少しでも麻雀に慣れるため、海老原は少しでも相手の打ち筋を研究するため、その場にいた。


 七人はそこで、を目撃することとなる。


「なんやあれ」

 目線の先には麻雀卓を取り囲む四人の打ち手。


 そして、そのうち一人を囲む二人の人間。


 が雀卓の周りに集まっていた。


 囲まれている男の卓には君嶋きみしまタタリというプレートが置かれていて。


 君嶋タタリは正面で麻雀を。

 右手側で将棋、左手側でチェッカーを並行して打っていた。


「……ギャグか?」


 君嶋はその三つの競技をどれも滞りなく手を進めていて、チラと見ただけでも三つとも優勢だということがわかった。


 犬伏イッペイはその打ち方と顔を見てすぐにいつか雀荘で見かけた二面打ちの男を思い出す。

「…………あいつ!」

「なにか知ってるんですか?」

 小声で兎田が尋ねる。

「見たことある。前も雀荘で見かけたんやけど、その時は麻雀を二面打ちしとったわ」

「…………ギャグか?」

「でもその時も今と同じようにどっちの卓でも勝っとった」


 彼の手牌を見る。

 正しく、綺麗な麻雀。


 他の異能持ちのような派手さはなく、『三麻王』の海老原ミナミのような打ち手だ。


「なあ兎田」

 草野が小声で呼びかける。

「あいつ、海老原みたいな麻雀を打ちながら並行して将棋とチェッカーも打ってるって、脳の処理能力でいったら海老原より上なんちゃうか……?」

「そんな恐ろしいこと考えたくないんだけど」


 なにか条件付きの異能なんだろうか。

 しかし――。兎田は思考する。


 並行して複数の競技を行うことで手が高くなったりするなら、異能の領域として納得できるが、彼の打ち筋を見ていると、異能によって何か運の要素が引き上げられている様子はまったくなかった。

 理論的で、ただ巧い麻雀だった。


 本当に海老原を上回る打ち手なのだとしたら、この雀星杯、かなり厳しい戦いになるだろうと兎田は予想した。

「まずは君嶋の異能を探る必要があるなぁ。本当に異能なのかどうかからだけど」



 雀星杯本戦は、A卓とB卓に分かれて、各卓上位二名が決勝卓へと進む。

 決勝卓のトップが雀星杯優勝者となり、最強の打ち手として後世に名を残すことになる。


 君嶋の雀卓に目をやると、周りの三人は屈辱に震えた顔をしていた。

 雀星杯に招待されるような人間である。彼らもそこらの麻雀打ちには負けたことのない打ち手だったはず。

「くっ……オマエ、舐めてんのか?」

 一人が苦しそうに絞り出すと君嶋は首を振った。


「いや全然そういうわけじゃなくて、舐めてるとかじゃないんですよ。ただね、こうしてた方が打ちやすいんすよ。変な自覚はある」

「…………」


 君嶋は自身の異能を自覚していない。

 ある日遊びで多面打ちを行った際、多面打ちとは思えないほどテクニカルで強い麻雀を打つことが出来た。

 それに違和感を覚えながらも、何度か検証を繰り返し、彼は多面打ちが己の最も強いスタイルだと自覚した。


 以来、彼は必ず複数のゲームを並行して走らせながら麻雀を打つこととなる。


 なぜ多面打ちをした方が強いのか。

 どういう異能なのか。

 それはまだ、誰も知らない。

 



 『多面打ためんうち』 君嶋タタリ。


 雀星杯本戦、出場決定。



 以上八名にて、雀星杯本戦を行う。

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