南ニ局一本場

 雀星杯じゃんせいはい本戦Aブロック南二局にて、新たなモンスターが生まれた。

 『親っ跳ね』猿川さるかわモモモ、鳴いて相手番を飛ばしながらの跳満和了。


 兎田とだは大きく息を吐きながら目を閉じる。

 点棒を支払いながら、彼女の異能について再整理をした。

 兎田は猿川の異能を6巡目にで跳満聴牌するものだと思っていた。だからこそ、立直相手なら自身の『牌送り』でなんとか対策できるんじゃないかと想像していた。

 しかし、今彼女は鳴いて手を進めてもきっちりと跳満を仕上げていた。

「どういうことだよ。鳴いて跳満が作れるなら鳴かなければ倍満なのか? というか、めちゃくちゃな鳴きを繰り返しても絶対6巡目に跳満を作れるってことか?」

 兎田は自分に問いかけた。


 しかし、これの答えは単純明快で、

 おそらく猿川本人も異能について理解していないだろうし、検証を繰り返せば他の条件も出てくるかもしれない。

 わからないことに脳のリソースを割くのは時間の無駄だ。

 彼はひとまず事実を見つめ直す。

 彼女は鳴いても跳満を作れる。

 さっきの局、猿川に6巡回っている間に兎田はその半分もツモれなかった。

 この局でも同じことが起こる可能性がある。

「…………」

 配牌はあまり良くない。

 2、3巡で和了ってしまうのが一番わかりやすい解法だったが、それが使える手ではなかった。


 どうしたもんかな、と頭を抱えかけたその瞬間。


「チー!」


 真城まじろノボルが猿川の第一打を鳴いた。


 兎田と真城の視線が一瞬だけ交差する。

 その目は何かを伝えようとしているように見えて。


「っ――!」


 猿川の第一打は九索クッソー

 それに対して真城は七索チッソー八索パッソーを晒し、七八九で鳴いた。


 麻雀の牌は一種類につき四枚あるため、七八と持っている場合、有効牌は六と九、つまり八枚ある。

 チーをすると作れる手が減り、打点も下がるため第一打から両面待ちを鳴くことは少ない。

 鳴く理由は大きくふたつ。

 鳴いても役がつくか――か。


 このチーは真城からのメッセージだ。

 真城は猿川の異能に気が付いている。

 兎田はそれを確信した。


 そして真城は、鳴いたあと四索スッソーを切った。


 麻雀の数牌は真ん中の方が価値が高い。

 それなのに初手で四索を捨てたということは、染め手ではないことも見えてくる。

 九索での鳴きはタンヤオでないことの証明。

 残る手はなんだ?


 一通、三色、色々予想できるが、一番確率が高いのは当然役牌だ。真城は十中八九、役牌の対子を持っている。三元牌か、南。兎田の手元に白の対子があったため、実質三択問題だった。


 役牌は一鳴きで役になるため、配牌時点で一枚しか持っていなくても数巡は抱えておく事が多い。

 しかし兎田は、当然のように一枚だけ抱えていた中を切った。


「ポン!」


 三択問題に成功し、真城が中を鳴く。

 これにより猿川の手順が一巡飛ばされた。


「ワオ……」


 真城は6巡のルールまでは気付いていない。しかしできるだけ速く和了らないといけないことは理解していた。

 だからこうやって彼女の手番を飛ばして、その間に有効牌をツモっていく。


 猿川の切る牌を再び鳴き、三副露サンフーロとなった真城。

 おそらくで聴牌。猿川にはまだ6巡回っていない!

 この猶予で和了り切ってほしかった。


 その直後、山から牌をツモった狐火が少し嬉しそうな顔をする。

「カン!」

 彼は勢いよく五筒ウーピン暗槓アンカンした。

 新ドラが捲れ、狐火、ドラ4を抱える。


 いつもの局ならば、兎田は絶望していただろう。

 6巡回してはいけない猿川に、ドラが4つ乗った狐火。

 この二人をケアし続けるなんて不可能に近い所業だった。


 ――しかし、この局は違う!


 五筒のカンは、狐火の背中を押す炎ではなく、兎田を導く一筋の光。


 手牌を三つ晒した真城。

 なくなった筒子のど真ん中。

 自分の手牌。


 これだけあれば、も容易い。


 兎田は力強く牌を切った。


「……ロン」

 兎田に対して、真城が手牌を倒す。

「中。1000点は一本場で1300点です」

「はい」

 再び兎田と真城の視線が交差する。

 

 真城の七八九鳴きによる「安い手で流すから俺をサポートしろ」というメッセージを受け取った兎田は、きっちり真城に役牌とロン牌を送り込み、覚醒した猿川モモモの親番を流した。

 南二局が終わり、トップの真城へと親番が回る。


 南場も残り二局となった。

 終局のときは近い。



■南二局一本場終了■




狐火: 14000


猿川:32000


兎田:18400


真城:35600

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