第23話 【会えなくなったお友達】

去年の勇者じゃこ天の活躍以降オトシャンもオカシャンも蛾というお友達が入ってこないように念入りに洗濯物をチェックするようになり、僕はあのお友達に会えなくなりました。


それでも、暑い季節の夜には窓越しにお友達が僕を誘う。


そんなお友達にハイタッチで僕はご挨拶するんですが、どうやら僕のご挨拶は見えていないみたいでお友達はなかなか気が付いてくれません。


お友達は蛾だけじゃなく蝶という羽をたたんで窓に居る子もいて、その子はご挨拶をするとヒラヒラと動いて遊んでくれます。


窓越しだと直には触れないからもどかしいけど、直だとオトシャンがまた悲鳴をあげるからな…しょうがないオトシャン。


すーちゃんは基本的に寝室の窓辺にいるからあまり蛾や蝶には出会わないようです。


その代わりご近所さんにかわいいかわいいと言われるお仕事があります。


ご近所付き合いは大切だからね、僕も寝室に行く時にはよくやってます。


オカシャンが出かけていてオトシャンがおうちに居たある日、


オトシャンは誰かからの連絡を受けて呆然として出かけて行ってしまいました。


窓を閉めることを忘れるほどに呆然と・・・。


初めてではないけども、いつもはオカシャンに見張られながら出る窓の外。


外の空気の匂いだけは知っていました。でもいつも5分と居させてくれないから満足できなかったのですよ。


オトシャンが出かけてすぐには戻ってこないようでしたので、僕は一人で窓の外に出ました。


いつものように端っこで外の行き交う大きな音を出すモノたち。


ちょっと臭いです。


すぐ近くにはオカシャンとお花見をしたはずの場所。


木々が茂っていて植物が沢山ある場所です。


お友達たちの住処だと思います。


オトシャンが出かけたのはまだ暑い時間だったからお友達たちは木陰で休んでいるようで、せっかく僕が一人で外にいるのに誰も遊びに来てくれません。


オカシャンが帰ってくる時間が近づいてきています!どうかお友達よ、遊ぼうよ!


僕は一生懸命叫んだ!「キャン!」カモンて言いたかったのです。


お友達がなかなか来てくれないから時々水を飲みに部屋に戻ったりごはんを食べたり涼んだりしながら、まだ開いたままの窓の外に出て、


今度は空を眺めました。


青い空からジワジワと赤い空に変わっていくのを眺めていました。


赤い空の後には黒い空になり、オカシャンが帰ってきてしまいました。


帰ってくるなりオカシャンがびっくりして


「じゃこさんこっちおいで!」っていうので僕の窓の外満喫の時間は終わってしまったのでした。


オトシャンは一緒じゃないですね。


オトシャンはまた飲みにいってしまったのでしょうか?


オカシャンがごはんをくれたし、僕はいつもの事だと思って安心して寝ていました。


朝にはきっとオトシャンは帰ってきます。


ところが、オトシャンは意外と早く帰ってきました。


いつもなら


「あらじゃこさーん!たらいまー」ってグデングデンで帰ってくるのに


長い時間飲んでいた割には静かな帰りですね。


そして知らない人も一緒に連れて帰って来ました。


オトシャンはとっとと眠ってしまったけど、知らない人は僕にとろとろの舌の止まらないやつをくれるわけでもなく、朝には居なくなっていました。


その数日後オトシャンは見慣れない格好をして出かけて行きました。


オカシャンはいつもと同じ格好でいつも通りに出かけて行きましたね。


オトシャンはあれから帰ってきてもなんだか元気がありません。


そんな日々がしばらく続いたある夜中、オカシャンが飛び起きて、しんみりと飲んでいたオトシャンのところに来ました。


オカシャンは誰かからの連絡を貰って大慌てしているもようです。


オトシャンはそれを見るなりものすごく戸惑っています。


こういう時だいたいオカシャンは猪突猛進で動くので、夜中でもお構いなしで二人とも誰かからの連絡で知った場所に向かって行きました。


帰ってきたのは朝を迎える頃でした。


二人ともまだ慌てていて、各地に連絡をしたりして情報を集めているようです。


それでも、オトシャンとオカシャンは寝ずにいつも通りに出かけなくてはいけないので、僕たちは少し寂しかったけど、


あの夜から時々遊びに来る知らない人達が、とろとろの舌の止まらないやつはくれないけど遊んでくれようと頑張ってくれて退屈はしていません。


オカシャンが慌てて飛び起きたあの日から一週間。


今度は二人とも見慣れない格好をして昼間から出かけて行きました。


そして夜遅くにやっと帰ってきました。


ちょっと僕たちの事忘れすぎじゃないですか?


ネグレクトですよ…。


帰ってきたオカシャンが「ごめんね遅くなったねぇ」とごはんをくれたからいいですけど。


僕たちの事を忘れるほどの事ってなんでしょう?


そして、それは更に続きました。


オトシャンとオカシャンはもうすっかり見慣れた黒い服を着て、


まずはオカシャンが昼間から夜中まで出かけて帰ってきて、すれ違いでオトシャンが夜中から翌日の夜まで帰って来ませんでした。


一体何が起きているんでしょう?最近は。


ごはんは何とか毎日ちゃんと食べられてるからいいですけど。


とろとろの舌の止まらないやつも遅くなる度に貰えるからいいですけど。


なんて、気を抜いていたら…オトシャンとオカシャンが両方居なくなってしまいました…。


その代わりに昼間は姿はオトシャン?に似た、でも、声はオカシャン寄りの人がごはんをくれたりしていて、


夜はオトシャンと声も寝方もそっくりな人が僕の苦手な不安定なソファで眠っています。


この夜の人オカシャンやオトシャンと違って僕が「おい!」って言っても起きないし、嗚咽でも起きません。


ついに僕は吐いてやりましたが、それでも起きません。


あまり得意ではないのですが、僕はその寝ている人をトントンと叩いてみました。


ビクッとしてその人は目覚めました。


そうか叩けば目覚めるのですね。今度オカシャンとオトシャンにやってみましょう。


目覚めた人は僕のごはんを足して昼間の人とバトンタッチで出て行きました。


あれ?オトシャンとオカシャンは?


もしかして、僕またいつの間にかまた違う家族の中にいるのでしょうか?


不安になってすーちゃんに相談に行ったけどすーちゃんは二人の人は無視してごはんだけ食べて隠れていました。


「あたしだって知らないわよ!誰よあいつら!あんたの方が知ってるんじゃないの!?」


僕は・・・知ってるのかな?確かにオトシャンとオカシャンの代わりに二人ともこのおうちに来た時に恐怖はなかったけど・・・。


記憶を遡るも・・・オトシャンとオカシャンが居ないことへの動揺で思い出せません。


朝ソファで寝ていた人とバトンタッチした人はまた夜を迎えた頃ごはんを置いて出て行ってしまいました。


バトンタッチじゃないんですか。


僕らはオトシャンとオカシャンに捨てられてしまったのでしょうか?


信じていたのに・・・。


嗚咽をしても、吐いても、オトシャンとオカシャンにもう会えないのかな・・・僕はトントンも覚えたんだよ・・・帰ってきたら今度はトントンて起こそうと思ったのに。


僕は大切な家族になれたんじゃなかったのかな?


すーちゃんも寂しそうだし。


僕らだけでこれから生きていくのかな・・・ごはんどうやって食べればいいの?


うんこしたら誰が褒めてくれるの?


嫌だけど病院にも誰が連れて行ってくれるの?


居なくなったら、会えなくなったら寂しいよ・・・。

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