第9話 クリスマスプレゼント
世の中はキラキラとした赤白緑のライトアップがされ、太って赤い服を着た老いた執事さんが【いい子】にプレゼントを配って回るシーズンがやってきたそうです。
僕はまた、定例の病院に行く間狭い箱の窓から外を眺めたので知っています。
僕は特に赤色やピンク色が大好きです。おもちゃも色々買ってもらいましたが僕はオトシャンが動かしてくれるピンクのおもちゃが一番お気に入りです。
オカシャンが買ってきた緑色のぬいぐるみはなんか嫌だったので一回蹴ってあとは遠くに追いやってます。
僕はもう子供じゃないけど、オトシャンやオカシャンの看病もしたし、注射も絶えたし、いい子いい子と日頃から言われているので太って赤い服を着た老いた執事さんはきっと僕に素敵なプレゼントをくれるはずです。
とろとろの舌の止まらないやつかな…あれいろんな味があるみたいなんですよね。
僕のお気に入りは…病人用じゃないやつ全部です。
そういえば、オカシャンの脱いだ服に僕が好きな匂いがあってオカシャンがお風呂に入っている隙に舐めまわしているんだけど、あれとよく似た匂いのやつも美味しいですね。
オカシャンは「あー!ダメダメ!舐めたら!」とすぐ僕の手の届かない場所に持っていってしまいますが、脱ぎ捨てているオカシャンがいけないと思います。
うんうん。それにしてもなぜか舐めたくなるんですよね。
ママの味ってやつかな?味は違うんですけどね。
オトシャンの脱いだ服からする匂いはホッとするから居ないときに僕の寝床にしています。
二人とも脱ぎ捨てておくタイプですね。よく似た行動をとるものです。
オトシャンの服は僕のファーみたいでちょっとのどに詰まるからあんまり舐めないことにしています。
僕は僕のファーの手入れだけで手いっぱいですから。
オトシャンはオトシャンで手入れするといい。いい大人なんですから自分の事は自分でやらないといけませんね。
僕?僕の事は基本的に生まれた時からずっと執事さんと家政婦さんたちがやってくれるのが当たり前なので自分のファーの手入れだけは欠かさないけど、他の事はやりませんよ?
だって僕は高貴な存在ですからね。
だからこそ、僕を生んでくれたお母さんは「執事さんと家政婦さんには可愛く甘えるのよ」と教えてくれたのです。
お世話をしてくれる方に感謝を態度で示すことは気品ある行動です。
当たり前のようにやってくれることは、その方のご厚意。
ご厚意に対して、横柄な態度では失礼ですからね。
もちろん、逆に僕に対して失礼な態度で接してくる相手には僕も容赦はしません。決闘を申し込みます。
この白い手袋の片方分のファーを相手に投げつけてやります。
まぁ、今のところ僕にはそんな敵は…暑い季節に出会ったあの大きな家政婦さんくらいで、(あぁ、あの時は片手分どころかすべてのファーを奪われたのに決闘に負けたんだった)
オカシャンや先生なんて僕の敵でもありません。
それにオカシャンや先生や病院の家政婦さんたちは僕が弾丸で攻撃すれば大慌てするので簡単なのです。
あの大きな家政婦さんは僕が何の攻撃をしようとも拷問をやめないし、逃げられない…多分僕の人生の最大の敵。
だいたい、定例の病院のせいで僕の一番の武器が奪われていることが問題なのです。
以前居た場所では家政婦さんたちがこまめに僕の武器を奪いに来ていたけど、そういえばオトシャンもオカシャンも僕の武器に触ることはあっても奪うのは先生と病院の家政婦さんだけ。
僕の武器を奪うあの光るものを持っている姿すら見たことがない。
その代わりにオカシャンは高貴な僕が気を使って自分で管理できると言っているのに、何種類もブラシを買ってきては僕のファーの手入れを無理やりします。
困ったものです。時々慌てて追いかけてきてお風呂の部屋に閉じ込められて僕がオカシャンを叩くまでやめなかったり、オカシャンが満足いくまでやめなかったりもします。
そのあとは何となく体も軽いし、とろとろの舌の止まらないやつが貰えるのでまぁ許してあげますけどね。
思い出せば、僕のお母さんも僕たちが生まれた時はそれはそれはよく手入れをしてくれました。
なるほど、オカシャンはお母さんとはやり方が違うけれど、同じことをしているのかな?ちょっと乱暴なのが納得いかないけど、不器用なオカシャンなりの愛情だと思っておきましょう。
そして、太って赤い服を着た老いた執事さんが来るという日がやってきました。
でも、確かに誰か知らない人は来たのです。
でも、僕があれほど努力して開けてきた家中の扉がすべて閉ざされてしまっていて僕にはよく見えませんでしたが、
寝室に何かが運び込まれたようなのです。
サプライズでしょうか?
いい子が寝ている間に枕元に置かれるといいますからね。
起きている今の僕に見えないようにプレゼントは隠しておきたいのでしょう。
では、僕はプレゼントに驚く演技のイメージトレーニングでもしながら、ヌクヌクのホットカーペットの上で眠ることにしましょう。
起きるのが楽しみです。
そうしていい子の僕は眠りについたというのになんとその日から変わったことはオトシャンが僕の部屋の、足元の不安定な場所で眠るようになったのです。
え?プレゼントは?オトシャンじゃないですよね?さっき寝る前に貰ったいつもよりちょっと美味しいごはんでもないですよね?
もしや、僕がお風呂とかで弾丸攻撃したのが太って赤い服を着た老いた執事さんにバレていたのでしょうか…。
それにしても、オトシャンとオカシャンが離れて寝るなんてどうしたのでしょう?
そういえば、この二人は度々口論になっていたりしてよくケンカをしていましたね。
ケンカの内容は他愛もないことなのですが、どうやら彼らには過去に色々あったようで僕が出来るのは口論が始まった時に間に割って入って
「ケンカはだめだよ仲良くしてよ」と言うくらいです。
ついに寝室を追い出される事態になったのでしょうか?
オカシャンの方はというとオトシャンを締め出したのか寝室の扉を閉めたまま眠っているようです。
ただ…なんだかとてつもなく嫌な気配がします。
この気配は怒りと恐怖です。
この扉が開かないので、僕はドン!ドン!と両手で扉を押してみますがそれでも開くことはありません。
「オキャン!」と呼んでもオカシャンは出てきません。いつもなら返事くらい返してくれるのに返事もありません。
ただただ、怒りと恐怖だけが伝わってきます。こんなの僕は初めて感じます。
オトシャン一体何をしでかしたんですか…。そして、僕のプレゼントは一体どうなったのだろう。
オカシャンは寝室から出てきてくれるのだろうか…。
僕の心配事は絶えません。
この日僕に届いたプレゼントがまさかあんなサプライズだとは、この時の僕は知る由もありませんでした。
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