第10話 美しくも恐ろしい声の主
太った赤い服を着た老いた執事さんが来たからか
その日からオカシャンとオトシャンが別々に眠るようになったという、
変化が嫌いな僕にとって、
苦労して開けた扉がまた閉まって不安なクリスマスが終われど、
その後もオカシャンとオトシャンが出かけても、その扉は閉まっていることはとても気分が良くありません。
しかも、明るい日の途中に帰ってくるオカシャンが帰ってくるなり寝室に入って行ってしまうのです。
そのあと、僕にとろとろの舌の止まらないやつをくれますが、オカシャンは僕に何か隠し事をしているようです。
僕はオカシャンがまた出かけるとその扉をひたすら叩きます。
体当たりです。それでも開くことはできないのですが、とてつもない怒りが伝わってきます。
でも、扉からは遠くて何者なのかは分かりません。
僕が「誰かいるの?僕はじゃこ天ですよ。」と言ってもものすごく低い声で何か怒りの言葉を話しているようですが聞こえません。
そのうち僕は腹が立ってきました。
「おい!僕がせっかく話しかけてるのに何なんだお前は!?」と叫ぶと
「・・・怒」としか返ってきません。
果敢に挑んだ勇者僕もしばらくすると眠くなったのでごはんを食べて、ひと眠りしました。
ひと眠りしている間にオトシャンもオカシャンも帰宅していました。
暗い日の美味しいごはんをもらいましたが初めて食べるものです。
そしてなんだか量も半分くらいになったような気がします。美味しいけど。
もしかして、ごはんが減るなんて…以前そんなことがあったような…。
そして、暗い日に別々で眠るオトシャンとオカシャンの二人は寝るまで賑やかな家政婦さんや執事さんの会話を見て笑ったり、ごはんを食べたりと特に仲が悪くなったようには見えません。
オトシャンが何かやらかしたわけではないようです。
それでも、眠る時間になるとオカシャンだけが寝室に行き、寝ようとするので足早についていきますがオトシャンに阻まれて入れてもらえません。
僕はオカシャンとオトシャンの眠る時間もひたすら叫び続けました。
「扉をあけてよオカシャン!僕がこんなに呼んでるのに何のつもりなの!?」
オトシャンは「じゃこさんおいでー」と言いながらも眠ってしまいましたが、オカシャンはどうやら眠れないようで扉の向こうからたまに出てきて、
その開くチャンスに寝室に入ろうとジャンプを試みますがオカシャンが巧みに邪魔をします。
出てきたオカシャンは僕のごはんなどを補充して撫でてくれて遊んでくれたあと、また扉の向こうに行ってしまいます。
そんなことを日々続けている間に、オカシャンが扉の向こうで眠っている間にそれまでは遠くでしか聞けなかった声が扉のすぐ近くから聞こえるようになりました。
オカシャンは眠っているようです。
声の主は僕の声掛けに「なに?あんた。ここはどこなのよ、教えなさいよ」と
優しい僕は「ここは僕のおうちだよ。お前は誰なんだよ」と返しましたが
声の主は「はぁ?あんたの?あたしの世話係をしてた人間はどこいったのよ」
僕には誰の事だか分かりません。太った赤い服を着た老いた執事さんでしょうか?
そして声の主はそれから何も言わずにどこかで寝始めたようです。
僕はそれからというもの、明るい日も会話を試みましたが明るい日は声の主はガン無視です。
僕が叫び続けることを不憫に思ったオカシャンはついに寝室の扉を開けてくれたのです。
オカシャンは結構ちょろいんですよ。
中に入った僕が目にしたのはあの僕が大嫌いな個室でした。
僕が入れられるんじゃないかと不安に思っていたのに、そこに居たのは黒い黒い炭のように光る美しくスレンダーで小さなレディでした。
個室を前にした僕は、やっと会えたあの声の主である彼女に…
勢いよくとびかかりました。
だってあいつ僕を見るなり言ったんです。
「あら、あんた、じゃこ天てやつなの?ただの毛玉じゃないのアハハ」って僕をバカにしやがったのですから売られた喧嘩は僕は買います!
ギャーギャーと罵詈雑言を喚き散らす彼女と僕の喧嘩は個室を挟んで始まったばかりでしたが
大騒ぎになったので寝ていたはずのオトシャンが目を覚まして僕と彼女の喧嘩を止めに来ました。
オカシャンに「なんで扉開けるの…」と質問して「だってじゃこさんが寂しそうで…」とオトシャンたちは話し合い、やっぱり開けない方がよかったという結論になったようでまた扉は閉められてしまいました。
そしてある日オカシャンは「今日は年越しそばを一緒に食べようねー」と言ってなんか変なご飯しかくれませんでした。
なんだかオカシャン曰く「長く一緒に居たい人と一緒に食べるとずっと一緒にいられるんだよ」との事だったので少しだけ食べてあげました。
でも、今日はオトシャンは暗い日になっても帰ってこないな…僕オトシャンとも長く一緒に居たいのに…そうだオトシャンが帰ってくるまでこれ取っておきましょう。
オカシャンは寝室の扉の向こうに居るあの黒きレディにも年越しそばというものを渡しに行きましたがオカシャンは彼女を探し出せない模様です。
オカシャンは個室の扉を閉めておくのは黒きレディが可哀そうだと寝室の扉を閉める代わりに寝室の中は彼女の自由にさせていたのです。
僕と初めて話したあの日から実は個室の扉は開いていたので会話ができたのです。
年越しそばを黒きレディに渡したくても彼女を見つけられずにいるオカシャンは大慌て…
でも僕は知っています…オカシャンはかくれんぼの鬼をやらせたら絶対に見つけると。
扉の外から僕はソワソワしながら待っていたら大事件が起きてしまったのです。
扉の外から出てきたオカシャンが彼女に大けがをさせられたようで出血が止まりません。
オトシャンは居ないし、暗い日でも明るい日でも今日からしばらくオカシャンは病院には行けないようです。
オカシャンは多少の知識はあるようでとにかく止血を試み血まみれの指を握りしめています。
僕はオカシャンが辛い痛い思いをしていると心配になります。
あいつめ、僕のオカシャンにこんな大けがさせやがって絶対に許さん!
落ち着いた頃、オカシャンは黒きレディが居た場所が想像もつかないほど狭く出られなくなっているんだと心配して出てくるように手を入れましたが全く出てくることはなく、
布でできた袋を手にかぶせて追いつめて出そうと思ったら、その袋に怯えた黒きレディがびっくりして嚙みつき、偶然オカシャンの指に黒きレディの4本の歯が食い込んでしまったという事が分かりました。
なんだ…悪いのオカシャンじゃないですか…オカシャンは心配症でおせっかいが多いのですよね。
オカシャンはほっとくってのが出来ないのは本当に昔からそう…。
そう遥か昔から愛情が溢れすぎなんですよね…不器用なオカシャンは。
それにしても、あの黒きレディ…はなぜ僕のおうちにきたのだろう…確か前にも会ったことがあるような気もしなくはないんだけど…。
とりあえずごはんも食べたし、今日も寝よう。おやすみなさい。
あ、そういえば年越しそばは黒きレディは完食したようです。
僕はスープだけいただきました。オトシャンが帰ってきたから。
長く一緒に居られますように。
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