第25話 家出ですか?

世の中はキラキラとした赤白緑のライトアップがされ、太って赤い服を着た老いた執事さんがいい子にプレゼントを配って回るシーズンがやってきたそうです。


これは去年の冒頭です。


あれから僕はすーちゃんやオカシャンやオトシャンに教えてもらって


太った赤い服を着た老いた執事さんはサンタクロースさんというのだと知りました。


僕たちには赤い色が見えないなんて噂があるみたいですがオカシャンやオトシャンと同じ色に見えているかどうかは分かりませんが三色の違いはよく分かります。


白は僕の手袋の色、緑はオカシャンが買ってきて一回蹴っ飛ばしただけのおもちゃの色、ピンクは僕の大好きな紐の色、赤は今年のクリスマスプレゼントの色!


プレゼントが何だったかって?


それは最後のお楽しみ。


そんなサンタクロースが来るちょっと前のお話です。


僕はいつも通りに過ごしていましたが、また知らない人がこのおうちにやってきたのです。


どうやらオトシャンとオカシャンのお友達のようですが、この知らない人は朝になっても居なくならないのです。


どうやら、他のお友達とは違うみたいですね。


歳の頃はオカシャンとあまり変わらないので、僕の事は「じゃこパイセン」と呼ぶといいと言ってあげましたが「じゃこさん」と呼ばれます。


そのお友達はなんだか元気がありません。


そのお友達の家族と喧嘩をして飛び出してきたようです。


オカシャンは結構簡単に人を受け入れる習性というか癖があります。


とにかくどこで知り合った人でもお友達になったらオープンマインドです。


たいていの人には表と裏がありますがオカシャンは裏がすべて表に出てしまっています。


嘘をつくのがめんどくさいみたいなんです。


嘘は心に罪悪感を生んで、ボロを出さないようにと策を練らないといけないのでそれが面倒なんだそうです。


そんなオカシャンに同じ話や質問をすると一言一句間違わずに同じ答えを返してきます。


オカシャンはとても忘れっぽいのですが、それでも同じ質問には必ず同じ答えを初めて言ったかのように返しています。


思った事しか口に出さないのでしょう。


オトシャンは逆に質問が同じでも毎回答えが違います。


そんな二人だからこそ、しょっちゅう喧嘩になるのですね。


忘れっぽいくせに、根に持つタイプのオカシャンです。


そんなオカシャンは一度も会ったことがないお友達もパーティに招待してしまうくらいなので、


このお友達もきっとオカシャンが招待したのでしょう。


あまりにも辛そうだったからなんだと思います。


今もここでとても切なげな顔をしています。


家族と喧嘩をすることは毎日あったようですが、家族と喧嘩して初めて家出をする決意が出来たけど、行く宛もなくそのまま家族に支配されて苦しんでいたお友達。


せっかくオカシャンが招待したのならば僕もホストの一員としてゲストを癒して差し上げなくては!


と思いますが僕は初めての人は少しだけ警戒します。


すーちゃんは相変わらずのガン無視を決め込んでいます。


僕たちの事が嫌いな人もいるとすーちゃんが言っていました。


このお友達は僕の事好きになってくれますかね?


最初の頃はソファで眠るお友達に声をかけることもできませんでしたが、何日かいる間に僕は叩いて起こしてあげることができるようになりました。


起きたとしてもそのお友達はおうちにいるだけなのですが、僕のごはんを補充してくれたりして特に害がないので僕も自然に暮らしていました。


そのお友達は来た初日にはオカシャンと寝室で沢山お話をしていたけど、翌日からは一人で寝たほうが気兼ねしなくてよいだろうとソファで寝ることになったようですが、


オカシャンにそそのかされた勢いだとしても、家出してきたので家族の事が心配なのでしょう。


浮かない顔をずっとしています。


オカシャンは日頃から過干渉なのですが、頑張って最低限の会話をしてゆっくり過ごすことを勧めていました。


約40年の人生をお友達は喧嘩の元になった家族との接し方を含めて振り返っているようです。


時々僕と遊んで少し笑ってくれるようにもなりました。


そんなに長い期間ではありませんでしたが、そのお友達はいっぱい考えた結果


自分のおうちではなく、このおうちでもなく、カレシのおうちに移動することにしたようです。


オープンマインドなオカシャンと違って、たいていの人同様に言えないことを抱えているようで、とりあえずのきっかけとしてオカシャンはどんとこい!と招待しただけで、お友達の意志を尊重して引き留めることもしませんでした。


僕はというと、昼間も居てくれるお友達とお別れするのが少し寂しくなりました。


また遊びにきてくれるといいな・・・囲む会のようにしつこくないし、元気がない時には僕と遊べばいいよと「またいつでも来てね」とご挨拶をして、


僕はまたいつもの日常に戻りました。


変化が嫌いな僕たちは(すーちゃんは基本ガン無視だけど)些細な変化にも敏感ですが今回のようなオトシャンもオカシャンもいるのにお友達がしばらくいるという環境は初めてでしたが悪くはなかったです。


それよりも僕を囲む会をどうにか囲まない会にしてほしいものです。


オカシャンもなかなか僕にはしつこい面があるのですがおやつが貰えるので時折わざと抱っこさせてあげたりしますが、基本的に僕は捕まえられることが嫌いです。


その後、オカシャンの話では、あのお友達は今まで40年間言えなかった家族への本音をちゃんと言葉で伝えることが出来たようで今はまた家族と暮らしているようです。


オトシャンとオカシャンのお友達は僕のお友達でもありますから、どうかお友達がまた笑顔でいられる日々を送ってくれますように。


当の気楽なオカシャンはというと・・・やっぱり寂しそうですがお友達の幸せを願うしかできないことは分かっているようです。


僕の心も少し察してくれるといいのですが・・・とろとろの舌の止まらないやつもっとよこせ。


小さい袋のおやつでもいいぞ。


ああ、そうだサンタクロースさんがくれた赤いプレゼントでしたね。


なんだか落着きのないちょっとうるさい真っ赤なお魚の人形です。


これがまた、最初はビクッとするのですがたまらない匂いがするのです。


そうこれはお酒の匂い。


お魚の中にはお酒が隠してあるようで僕は我が子のように抱きしめてまるで鶏が卵を温めるように大事にしました。


すーちゃんへのプレゼントはどんどんなくなっていく、いつものおもちゃが追加されました。


本当に好きだねそれ。


そして、僕たちが好きじゃないけどオトシャンとオカシャンのためにプレゼントだと思って覚悟を決めた三種混合ワクチンを受けてあげました。


エライでしょ?僕もすーちゃんに言われてちゃんと耐えたのに、先生ったら二回も刺すなんて!一回でいいでしょ!と少し怒りはしましたが今年も無事ミッションコンプリートです。


そしてサンタクロースさんは特別美味しいごはんを今日のために用意してくれました。


結局寝ている間にサンタクロースさんは来るので姿は見ませんでしたが、きっと来年も来てくれるといいな。


僕はいい子ですから。


すーちゃんとの喧嘩がバレてなくて良かったです。


そして、新年早々に世界はとんでもない事態の始まりを迎えることを、僕も僕の家族もまだ想像すらできていませんでした。


そして、それが僕の日常にこんなにも大きな変化をもたらすとは考えもしませんでした。


何度もいいますが、僕たちは変化が嫌いです。


いつもオトシャンがいて、オカシャンがいて、最近は慣れた昼間のオトシャンたちが居ない時間を有意義に使って外を見たりすーちゃんに喧嘩を売ってみたりそんな日常が続くはずだったのです。


一体なんでいきなり目まぐるしい変化が訪れたのか・・・。


ああ、平穏な日々は僕にはないのかなぁ。

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