第13話 最大の敵その名はすーちゃん
僕は衝撃の事実を知ってしまいました。
僕は7回の引っ越しの間17年くらい時間が経っていたと思っていたのに
オトシャンとオカシャンに出会うまで家政婦さんと執事さんのことを「にんげん」という生き物だと知りませんでした。
そして、「にんげん」の一日は僕の4日で明るい日は「ひるま」と言って多くの「にんげん」は家に居ないことが多いらしく、暗い日は「よる」と言って「にんげん」のよく眠るときなのだそうです。
悔しいけど、あの黒きレディは僕より博識でした。
高貴な存在な僕は黒きレディのような外という社会経験がほとんどありません。
僕を産んでくれたお母さんからは「にんげん」という言葉も習っていないまま離れ離れになってしまっていますし。
あいつは腹立たしいけど僕をバカにするけど色々なことを知って僕は今動揺しています。
僕とオトシャンとオカシャンが違う生き物だったなんて。
正直ショックを隠し切れません。
そして一番の衝撃は僕や黒きレディはオトシャンやオカシャンよりも老いる早さが違うということ。
それは順当にいくと僕たちの方が先に次の世界にいくことになり、離れ離れになってしまうということ。
僕を以前、他の場所に引っ越しさせた家政婦さんや執事さんはたったの数か月で彼らの意思で僕を捨てたということになりますね。
僕は産まれてからすぐに兄弟やお母さんと離れ離れ、今どうしているかもわかりません。
血がつながった家族だったとはいえ、一緒に暮らしたのはほんの少しの間でした。
一番長く僕が16年だと思っていた無口な家政婦さんとの生活も約4年だったということです。
乳母に至っては一か月どころか「にんげん」でいう一週間ほどしか一緒に暮らしていなかったのですね。
それどころか僕は他の場所に引っ越しさせた家政婦さんと執事さんが、僕を殺すために保健所という場所に捨てたということで、分かったことがあります。
先に居た子供たちは誰にも救われずにそこにいた「にんげん」に殺されていたのです。
僕は運よく可愛く生まれ高貴な育ちだったからか、タイミングが良かったからか、他の子供たちのいる場所に救われたのだと思います。
お母さんが教えてくれた可愛く甘えるのよが通じる場所は、オトシャンとオカシャンと乳母のおうちくらいだったということになっちゃいますね。
僕はあと何年このおうちに居ることができるのでしょう。
あれから黒きレディにも「すーちゃん」という名前が出来たことを知りました。
数々の苦労をしてきた彼女に敬意を持って僕は彼女と仲良くなるべく度々扉越しに話を聞くことが出来ました。
僕たちは「にんげん」ではないだけど、「にんげん」が欲する生き物であることはオトシャンとオカシャンの僕への甘やかしをみていると分かります。
でも「すーちゃん」は「にんげんなんてそう簡単に信じちゃダメ」だとも言います。
僕はどうしたらいいのでしょう…。オトシャンやオカシャンが僕を捨てる日がいつかくるのでしょうか?
不安が募ってきたが、オカシャンは僕がオカシャンの添い寝をたまにしていると歌を歌ってくれるようになりました。
「じゃこさんいい子さん~おじゃこすかわい子さん~じゃこじゃこいい子さん~じゃこさん長生きしてください~すーちゃんとなかよくしてください~」と
黒きレディと仲良くできるかは黒きレディが僕に喧嘩を売らなくならないと何とも言えないけども
僕はオカシャンのその歌が好きです。子守歌のようでよく寝ることができます。
ときどきオカシャンは元気がない時があります。
そういう時必ず「じゃこもすーちゃんもすっとお母さんと一緒にいてね」と話しかけてきます。
オカシャンは僕たちがオカシャンたちより次に進むことを知っているようです。
オトシャンはそのことをよく分かっていないみたいです。
そう、オカシャンは遥か昔に経験したことがあったのだと思います。
その時のことをオカシャンはずっと忘れずにいるようです。
黒きレディとの戦いは日々エスカレートしていき、今まで寝室に置いてあった黒きレディの個室は僕のメインの部屋に移動されて毛布で覆われ気配は感じるものの見ることは容易ではない状態です。
もともと全部ぼくのおうちなんですけどね。
僕も賢いので、日にちの感覚は知らなかったけど毛布を買いぐくり個室に居る黒きレディを見ることには成功した。こっそり金網をよじ登って声をかけたりもしました。
実は黒きレディは僕との寝室の喧嘩の時、糞尿をまき散らして僕に「近づくな!この毛玉!」と罵り、僕の届かない高い場所に逃げたり、僕の入れない狭い場所に逃げ込みながら、またしても糞尿をまき散らすため
オトシャンとオカシャンは「一緒に居る時間を増やしてみてはどうか」と
僕のメインの部屋に彼女を連れてきたのでした。
彼女を僕のメインの部屋で自由にするときには、僕は逆にあれだけ入りたくなかった個室が気になって入ってくつろいだりしちゃいました。
だって個室の鍵は開いている状態でいつでも黒きレディが帰れるようにしているから。
閉じ込められる心配はないのです。
僕は色んな知らなかったことを教えてくれる黒きレディともっと話がしたくなりました。
そう思っていたらいつもの病院に黒きレディも一緒に連れていかれて二人とも大事な武器をまた奪われ、おうちに帰った時にはいつものとろとろの舌の止まらないやつをもらったあと
オトシャンとオカシャンは僕ら二人を袋状の網の中に入れて向かい合わせにしました。
網の中で黒きレディは身動きが取れなくなっていて、僕はと言うと器用に転がるように移動ができました。
僕たちは基本的に一定の距離は大切なんです。
でも、オカシャンが何度も黒きレディの隣に運ぶのでついに黒きレディは怒り出し糞尿をまき散らしました。
諦めたオトシャンとオカシャンは黒きレディを個室に戻し鍵をかけ僕も網から出されました。
何がしたかったんですかね、オトシャンとオカシャンは。
なかなか仲良くならない僕らを見てオカシャンは先生から貰ってきた仲良くなれるかもしれない香りのでるものを炊き始めました。
なんだか穏やかな気持ちになるけど、僕は黒きレディと話がしたくて個室の金網をよじ登りなんども罵られました。
僕は僕に好意でよくしてくれる人には感謝をするが、僕に対して失礼な態度をとる奴には全面的に決闘を申し込みます。
紳士らしく白い手袋を投げつけて。
でも、相手はレディここはまずは我慢して歩み寄ることから始めましょう!
「スーチャン」と呼び掛けてみた何度も何度も。
個室の中から聞こえるのは唸るような「うるさい!毛玉!」「この世間知らずのバカ!」などの酷い言葉ばかりです。
そして僕は僕が思っている以上に気が短いようです。
すぐに喧嘩になります。
呆れたオトシャンもオカシャンも毛布をしっかり閉めて僕がこっそりはいれないようにしてしまいました。
しばらくは僕やオトシャンやオカシャンや賑やかな人たちのいる部屋で黒きレディは過ごすことになりました。
次第に例の香りが黒きレディにも効果を出したのか、昔話なんかもしてくれるようになったのです。
彼女は家族を守るために必死に生きてきて僕のようにたらい回しにされこのおうちにたどり着いたらしいのです。
仲は最悪だけど、「すーちゃん」こと黒きレディは僕の大好きなオトシャンの希望によりこのおうちに来て、オカシャンが決定して僕の家族の仲間入りを果たしました。
いつか勝負して勝って従わせて見せる!そう言って「よる」のごはんを食べると今まで連日で出ていたものとは違いものすごく美味しいごはんを黒きレディと半分こで与えられました。
美味しいものを食べると僕はだいたいのことはどうでもよくなってしまうので、その日もグッスリと寝て、翌朝いつものようにオカシャンを吐き真似で起こすそんな日々をしばらく送っていました。
さて、黒きレディとの今後はいったいどうなることやら…心配なような楽しみなような…少しオトシャンとオカシャンの愛情も半分こにされてしまったような寂しさを抱きながら、長生きをしようと心に決めました。
それから、オトシャンが起きてきたら僕は「おはようオトシャン」と擦り寄るようにしました。
オカシャンは寝ている時に時々触ってみてるし、オカシャンの愛情はもともと不器用で重たいから半分くらいがちょうどいいですね。
オトシャンだけは黒きレディには渡さないんだからな!
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