第14話 【閑話】あぁ、俺だ覚えてるか?∞

俺はたくさんの兄弟たちと離れ、またどうやら帰って来ちまった。


見世物にされて売り飛ばされることには変わりないんだけどな。


少し歩き方が難しいんだが、まぁそのうち慣れるだろう。


この家は世辞にも広い屋敷とは言えないその一角に俺は狭い小屋を用意されて、食いもんを与えられた。


どうやら俺を買ったのは、この家の母親ってやつらしい。


家族は他にもまだいて、父親ってのとガキが二人だ。


俺は基本的にやつらが居ない間も小屋に閉じ込められて暮らしているが、俺には強運がついている。


鍵開けなんてへそで茶を沸かすレベルの容易さだ。


簡単に小屋から逃げ出して家中を探索した。


なんか旨いもんはないかな…と。


あいつらが帰ってくるまではな。一人でも小屋に戻るくらいはできるからな。


そういや俺には「ルーカス」なんて洋風な名前が付けられた…まぁ、名前を呼ばれていた期間はあっという間に終わるんだけどな。


母親は日中も家に赤ん坊と居たり居なかったりする。


少し成長したガキは昼間は学校にいくようになったらしい。


赤ん坊はまだ起き上がれもしない産まれたてだ。


俺に手も足も出せないだろう。無害だ。


誰も居ない時に脱走しても、必ずどこに隠れても成長したガキと母親で俺を捕まえては小屋に戻されちまう。


鍵が容易に開くのが問題だとかで紐かなんかで二重に鍵を閉めたらしい。


まぁ、俺も少し苦戦しながら開けることを試みたりもするが、時々俺と遊ぶために成長したガキが俺を小屋から出す。


「ルーカスかわいいねっ」「お耳長いね」と言いながら撫でるだけだ。


俺は特段遊ぶというよりは撫でられている係にでもなったんだろう…。


今回は他の奴らが居ないから俺一人でこのガキの面倒をみるのか…。


逃げる策を考えないとこれはマズい。


今回はだいぶ遠くの音が聞こえるが、慣れてないせいで逃げ足は速くない。


そして、厄介なことにずっと小屋を噛んでいないと大変なことになる。


小屋以外にも噛むものを与えられたりしたが、爪と同じで毎日のケアが必要なもんが付いている。


その代わりいろんなものが食えるというのはまぁ悪くない取引だ。


赤ん坊の方のガキはまぁよく泣きわめいている…それがやつらの仕事だ。


働き者だな。


赤ん坊が泣きだすと成長したガキは赤ん坊の近くにすっ飛んできて来て頑張って泣き止まそうとしている。


結局は長電話をしている母親を呼んでこないとなんの解決もできないんだが、あのガキなりに心配しているんだろう。


泣きつかれて眠るまで赤ん坊を大事に見守っていたあのガキに対して長電話を終えた母親は「宿題をやりなさい」と見守っていたことをまるで遊んでいたかのように冷たくその場から遠ざける。


居ないと言えば父親ってのも朝早くから夜遅くまでどうやら仕事で居ないようだ。


女手一つで昼間ガキを二人も相手してたらそりゃ愚痴もでるだろうが、悪いことをしてるわけでもないのに叱られてばかりじゃ


ちと、可哀そうな気もするな。


母親は成長したガキに比べりゃ手のかかる赤ん坊を優先するしかないから

あのガキにとっちゃ母親を盗られた気分にもなってんじゃないかと心配していたが、


あのガキは赤ん坊が生まれたことが何よりも嬉しかったようで、ものすごく赤ん坊と遊びたいようだ。


でも、首もろくに座ってない赤ん坊を抱っこするのはどうやら怖いらしく、こいつも成長したもんだと思いながら金網を齧りながらそんなやり取りを覗き見るような日々を送っていた。


ガキは俺と遊ぶ時間は一日のほんの少し、不思議なことに掴んでも抱き上げもしない。


ただただ、撫でられて「かわいいねっ」の刑に処される俺。


ピョンピョンと逃げてもピョンピョンと追いかけてきて撫でられて「かわいいねっ」の連呼


一回だけ写真をとるのに抱き上げてみろと親たちに言われて抱き上げたその手は、割れやすいものを恐る恐る持っているという程度ですぐに地面に戻された。


相変わらず「かわいいねっ」は本当によく連呼するやつだ。語彙力は、もう少ししたらついてくるのか?と無駄な心配もしたもんだ。


俺はあのガキの愛情が重すぎることと不器用さは重々承知だ。


そして、この家に来てから何週間もしない間に俺の人生は終わったんだ。


あのガキにまた絞殺されそうになったかって?いやいや、そうじゃない。


俺は二重鍵の解錠に成功したのだ。前歯でな。


そこからうまく逃げ出せたと思うだろ?


そいつも違うんだ。


俺はルーカスって名前をあのガキにせっかくつけてもらったのにな…。


なんでも食える歯を手に入れたと勘違いしちまって、旨そうな匂いがする場所に行ってその袋ごと食っちまったんだ。


誰も家族が居ない時にやっちまったせいで、うっかり窒息死ってやつだ。


親たちと帰ってきたあのガキの泣き顔を結局見ることになっちまった。


母親は俺を見るなりもう死んでいることをガキに教えた。


うるうると止まらない涙を流しながらガキは俺を土に埋めて、墓を建ててくれた。ワンワンと泣きわめかなくなったんだな…。


俺がこの家に居れたのはほんの数週間だったけど、あのガキには大切な妹が出来ていて、父親も出来ていた。


力加減はまだ訓練が必要だな…強すぎたり弱すぎたりしてねぇで、丁度いいを身に着けるこったな。


それでもあのガキはちゃんと成長してるんだな。学校もちゃんと行って勉強もちゃんとしとけよ。


今回もそんなに長く遊んでやれなくてすまねぇが、まぁまた縁があれば会えんだろ。


そん時にゃ、俺の事をうまく抱いてみせろよ。泣き虫で不器用な愛情溢れすぎるガキよ。


今回は洋風な変な名前だったけどあのガキからの愛情の他にルーカスって名前を貰って短い間だったが家族でいられた。


最期は俺のドジで泣かせちまったけど、そもそもはもっと頭使った鍵つけねぇとまた逃げられるからな…ちゃんとそういうのも勉強しておくんだぞ。


俺だって毎回毎回たどり着けるとも限らないんだからな…。


ちゃんと大きくなれ…そしてちゃんと生きて居ろ。そうすれば…次もある。


さあて、お次は…お次のお楽しみっと。

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